イスラム過激派に走る若者たち--「疎外」が生む若者の"心の隙"とメディアによる過激思想の蔓延

世界中の「心の隙」を抱えたイスラム教徒の若者が、過激思想と出会うことになる。

なぜ若者はイスラム過激派に走るのか。

日本人7名が犠牲になったダッカ襲撃事件の犯人は、海外への留学や旅行が出来るほど裕福な家庭で育ち、大学にも通う若者だった。その後の報道では、バングラデシュ国内では失踪した若者が150人以上いると言われており、その一部がテロリスト予備軍として過激派組織に加わった疑いも出ている。

フランスやベルギーなどヨーロッパ国内で計画、もしくは実行されたテロの犯人たちにも若者が多く、また中東や北アフリカ、欧米からISIS(Islamic State of Iraq and Syria/イラク・シリアのイスラム国)へと参加する戦闘員の多くも若者によって構成されている。

若者がイスラム過激派に走る、もっと言えばイスラム過激派が台頭する理由は様々に存在する。本記事では、特に欧米の民主主義国家で生まれ育った若者がイスラム過激思想に染まっていく理由として、「疎外」が生む若者の"心の隙"とメディアによる過激思想の蔓延を考えたい。

「疎外」が生む若者の"心の隙"

「欧米諸国で生まれ育ちながらも、イスラム教徒や移民、もしくは移民2世、3世であるという自身のバックグラウンドから、社会や政府から"よそ者"として扱われる」ことは、イスラム教徒の若者が過激思想へと染まっていく、非常に大きな要因になる。

近年注目を浴びている、ホームグロウン・テロリスト(Home Grown Terrorist)。一般的には、欧米民主主義国家などで育ちながらも、アルカイダやISなど過激派組織が唱える主義・主張に感化されて、過激なテロ思想へと染まった者を指す。

彼らが社会や政府から"よそ者"として、もっと言えば差別的に扱われる「疎外」の例を見てみよう。ここでは、フランスを例として挙げる

フランスは、19世紀半ばに始まった移民の歴史の初期段階から、移民にも国民とほぼ同等の権利を与える同化政策を取ってきた。しかし、同時に国内では世俗主義が台頭、イスラム教徒の女性が顔や全身を覆うブルカの公共の場での着用禁止や、シャルリー・エブドによる預言者ムハンマドの風刺画が波紋を呼んできた。特にブルカの着用禁止問題に関しては、最近になって髪や太ももなどを隠す形のイスラム教徒の女性用水着「ブルキニ」を巡った論争が続いていることから、その再燃が問題視されている。

また、2015年の一年間で100万人以上が地中海を渡りヨーロッパにたどり着くという欧州難民危機を背景として、近年は極右政党であるフランス国民戦線も勢力を増しており、フランス国内のムスリム社会を囲む緊張感は衰えを見せない。

フランス国内における「格差」問題もまた、その緊張感を強めている。第二次世界大戦後、アルジェリアを中心として北アフリカから多くの移民がフランスへと渡り、パリやリヨン近郊へ居住。この郊外を表すフランス語「banlieue」(バンリュー)は、「移民に支配された貧民街」という軽蔑的な意味をも含んでいる。

昨年1月に起きたシャルリーエブド事件の犯人たちは、パリで生まれたアルジェリア系フランス人だった。出身がフランス以外の国である者たちを挙げれば、昨年11月のパリ同時多発テロの犯人たちは、隣国ベルギーの首都ブリュッセル西郊にあるモロッコ系ムスリムを中心とした移民が多く暮らす街モレンベーク出身だった。

昨年12月にアメリカ・カリフォルニア州サンバルディーノで起きた銃乱射事件の犯人は、シカゴで生まれたパキスタン系移民の第一世だった。

もちろん、ホームグロウン・テロリストの全てが移民やイスラム教徒というわけではないが、特にフランスやベルギーなどでテロを実行、または計画した犯人の中には、このようなバックグラウンドを抱えている若者が多く見受けられる。

"テロとの戦争"という名の下実行されてきた、アメリカ率いる欧米諸国の「イスラム世界への侵入」。日々止むことのない、イスラエル兵によるパレスチナ人への暴力。トランプ米大統領候補が掲げる、イスラム教徒のアメリカへの入国禁止政策。

一つ一つは小さなことかもしれないが、国内のみならず、世界中で広がるイスラム教徒への理不尽な扱い、"よそ者"扱いは、時間をかけて積み重なり、彼らイスラム教徒の若者の一部は、「心の隙」を産み出していく事になる。

メディアによる過激思想の蔓延

科学技術の進歩と、止まることを知らないグローバル化は、「心の隙」を抱えた若者と過激思想との「結合」を可能にする。

ISによる巧みなメディア戦術は、その「結合」をますます促進している。プロパガンダビデオの制作やインターネットを通じたその拡散、TwitterやFacebookなどSNSを通じたリクルーティング活動、また英語やアラビア語のみならず、フランス語やロシア語も使用して発信するという広報戦略などによって、世界中の「心の隙」を抱えたイスラム教徒の若者が、過激思想と出会うことになる。

また、フランスやベルギーなどの欧米諸国の郊外で秘密裏に行われていると言われる過激思想に関する「講義」や集会でも、様々なメディアが活用されていることが報告されている。そこでは、例えばイラクやアフガニスタンで、同胞であるイスラム教徒が空爆や自爆テロによって死んでいくビデオ映像が使われる。

そして、そこに対峙して描かれる「欧米主導による新世界の構築」。彼ら感受性の豊かな若者たちは、同胞を救うためには暴力を通じて戦うしか方法は無いと教化される。結果として、社会や政府に対する不満のはけ口は暴力となり、そして「ジハードの名の下」という崇高なものに、"若者の反乱"の理由を彼らは見出すのかもしれない。

現代の若者がインターネットやSNSなどのソーシャルメディアに精通していること、またテレビや映画、ゲームなどを通じて「暴力」に触れることに比較的慣れていることもまた、彼らのイスラム過激派への関与を増幅する一因を担っているだろう。

一方で、イスラム世界内部における強いリーダーシップの欠如も、イスラム教徒の若者が過激思想に染まっていく一つの要因になってしまっているように感じる。

ローマ法王やダライラマの発言は時に絶大な影響力を持つが、イスラム世界でも、ISやアルカイダが主張する(イスラムの教えの)暴力的な解釈に対して、イスラム世界内部から厳しい批判の声を上げていくこと、そしてそのリーダーシップを担う主体が出現することも、イスラム過激派に関する議論には必要なのではないだろうか。

そのリーダーシップが欠如しているがために、「心の隙」を抱えた一部の若者たちは、平和を愛する大半のイスラム教徒の想いを決して表しているものではない、自称イスラム世界のリーダーであるIS、そしてその指導者であるバグダディの声に、耳を傾けてしまっているのではないだろうか。

過激化/脱過激化ドイツ研究所(German Institute on Radicalization and Deradicalization Studies)所長のKoehler氏はBBCの取材に対して、「(過激化とは)最終的には個人的なバックグラウンド並びに(人生の)軌跡と、機会並びに状況との組み合わせによるものだ。」と答える一方で、「(過激化とは)いつ、どうやってその者が過激なイデオロギーや組織と出会い、そして人生において今何を探しているかに関するものなのだ。」とも語っている。若者の「心の隙」に過激思想が入り込む時、彼らは21世紀国際社会の脅威へと、変貌を遂げてしまう。

記事執筆者:原貫太(早稲田大学4年)

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