「人は変われる」 人生の半分を軍隊で過ごした元子ども兵たちと生活して

私が滞在しているウガンダ北部では、2002年まで20年にわたり紛争が続き、推定3万8千人もの子どもが反政府軍に誘拐され、兵士として戦いに駆り出されてきた。

私が滞在しているウガンダ北部では、2002年まで20年にわたり紛争が続き、その間、推定3万8千人もの子どもが反政府軍に誘拐され、兵士として戦いに駆り出されてきた。その多くは10歳前後に誘拐されたために教育の機会を奪われており、拘束期間中、少年は危険な前線に送られる一方で、少女の多くは男性兵士との強制結婚により子どもを出産している(関連記事→「"13歳で誘拐された元少女兵"の壮絶過ぎる体験談 生き別れた子どもと再会することを夢見て」)。

また、「世界最悪の反政府組織"神の抵抗軍"とは?―「僕はお母さんの腕を切り落とした」」で紹介したチャールズ君(仮名)のように、子ども兵は地元の村々での襲撃にも加担させられており、帰還後、地域住民から加害者とみなされ、憎しみの対象になることすらある。

チャールズ君(仮名)(photo by 認定NPO法人テラ・ルネッサンス)

子ども時代に壮絶な経験をした元子ども兵たち。現在私たちが受け入れている8期生の元子ども兵たちの平均年齢は、28歳。彼らの場合、平均して14年もの間武装勢力に拘束されていたため、人生の半分を反政府軍の中で過ごしてきたことになる。

私が昨年1月にインタビューしたアイ―シャさん(仮名)の場合、10年以上もの間を反政府軍で過ごしてきた。インタビューの詳細は、私のルポタージュ「ウガンダ北部における子ども兵問題と元少女兵へのインタビュー-テラ・ルネッサンス訪問」をご覧頂きたい。

アイ―シャさんへのインタビュー中の様子。写真手前がアイ―シャさん(photo by 認定NPO法人テラ・ルネッサンス)

人生の半分を、望まない兵士として過ごすことを強要される。その苦しみは私たちのもはや想像を絶するものだが、この2週間私が彼らと同じ時間を過ごしてきて感じるのは、彼らの「変わる力」(社会適応能力)だ。

2015年から社会復帰に向けた訓練を始めた8期生の元子ども兵たちも、1年半の訓練を終え、先日修了式を行った(関連記事→「「もう一度人生を変えたい」 社会復帰を目指す元少年兵・少女兵の式典」)。上記で紹介したアイ―シャさんにその時の気持ちを聞くと、

自分の人生を変えていきたい。拘束を逃れて帰還した後すぐは、自分には生計を立てるための手段が全く無て、人からお金を借りて何とか日々の生活を凌いでいました。これからは、自分の力で生活費を稼いで、子ども達を支え、自立して生活できるようになりたい。」

と、自信に満ちた表情で答えてくれた。昨年インタビューをした際は、自身の壮絶な経験を悲しそうに、辛そうに語るその姿が印象的だったが、2014年に反政府軍から脱出してからのたった3年弱で、人はこれほどまでに変わることができるのかと、正直に驚かされる。

アイ―シャさんと原(photo by 認定NPO法人テラ・ルネッサンス)

アフリカ駐在員として現場で活動に携わる鈴鹿達二郎さんも、ウガンダで働いていて印象的な事は、元子ども兵たちの変化だと語る。

「教育もほとんど受けておらず、読み書きも計算も出来ないという状態、自分たちの技術も全く無いという状態から彼らの社会復帰が始まるも、私が彼らと初めて会った時には既に訓練を1年間終えていた。そのため、彼らは洋裁や木工大工のスキルを少しずつ身に付け、それが一つ一つ自信になっていて、さらに故郷の村に帰って自立するとともに、周りの人も助けて地域を良くしていきたい、というのを彼らと話す中で感じ、『壮絶な経験をした』という事前の情報とのギャップ、『人はこれほどまでに変わることが出来るんだ』ということを、彼らから教えてもらった気がします。」(関連記事→「日本社会の"生きにくさ" 国際NGO駐在員がアフリカから学んだ、人と繋がる生き方(1/2)」「日本社会の"生きにくさ" 国際NGO駐在員がアフリカから学んだ、人と繋がる生き方(2/2)」

元子ども兵である8期生と話をする駐在員の鈴鹿さん(photo by Kanta Hara)

もちろん、「元子ども兵」といっても、その経験や現在の心理状態、能力などは人それぞれなので一概に言う事は出来ないが、それでも反政府軍から脱出してから数年しか経っていない人がほとんどという事を考えると、その「変化」には本当に驚かされる。「「従軍中は、いつ死んでもおかしくない」 元少女兵が語る過去と未来」で紹介したミシェルさん(仮名)も、壮絶な過去を語りながらも、元少女兵として、女性として、そして母親として、これから始めるビジネスのビジョンなどを堂々と語ってくれていた。

私が、いや日本の人たちが、同じような経験をしたら、もしくは同じような状況に追い込まれたととしたら、私たちはそれに適応することなど出来るのだろうか。

形式的に「(国際)支援」という言葉を使っていたとしても、私たち日本人がアフリカの人たちから学ぶべきことは、数え切れないほど沢山ある。これからの1年半で、8期生の元子ども兵たちはさらにどれだけ「変化」していくのだろうか。その姿を追うことを楽しみに、これからも彼らのサポートを続けたい。

8期生たちと原(photo by 認定NPO法人テラ・ルネッサンス)

(2016年1月20日 原貫太ブログ「世界まるごと解体新書」より転載、一部修正)

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記事執筆者:原貫太

1994年、神奈川県生まれ。早稲田大学文学部社会学コース4年。認定NPO法人テラ・ルネッサンスインターン生。

大学1年時に参加したスタディーツアーで物乞いをする少女に出逢ったことをきっかけに、「国際協力」の世界へと踏み込む。2014年に学生NGOバングラデシュ国際協力隊を創設、第一期代表。国内での講演多数。

交換留学生として、カリフォルニア州立大学チコ校にて国際関係論を専攻。帰国後、赤十字国際委員会駐日事務所や認定NPO法人テラ・ルネッサンスでインターン生として活動。政治解説メディアPlatnewsでは国際ニュースの解説ライターを務める。

認定NPO法人テラ・ルネッサンスのインターン生として、2017年1月~2月末にウガンダ&ブルンジで勤務予定。

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認定NPO法人テラ・ルネッサンス公式ホームページ→https://www.terra-r.jp/index.html

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