スーダン・ダルフール地方で住民投票が実施 「世界最悪の人道危機」に終止符は打たれるか

投票は、スーダン政府とダルフール反政府勢力との間で締結されているドーハ和平合意の最終段階として行われる。

北アフリカに位置するスーダン共和国のダルフール地方で、行政形態を決めるための住民投票が今月11日(月)から始まり、昨日13日(水)をもって終了した。

スーダンでは2003年から13年間続く紛争で、これまで30万人以上が犠牲になっている。

今回の投票は、スーダン政府とダルフール反政府勢力との間で締結されているドーハ和平合意の最終段階として行われる。

本投票では、北・西・中央・南・東ダルフールへと5つに分割されているダルフール地方を、現在の分割形態を残すかもしくは一つの地域へ統合するかに関して争われており、スーダン政府は、今回の投票が長年続く紛争の根本的問題を解決することに繋がっていくとの見解を示している。

その一方、反政府軍やその他の反対派は今回の投票は公平ではないと訴えており、投票のボイコットを呼び掛けている。

またアメリカ国務省は、「現在のルールや状況下で投票が行われれば、それはダルフールの人々の意志を確かに表したものだと考える事は出来ない。」と声明を出している。

世界最悪の人道危機

2003年2月、アラブ系中心の政府に不満を募らせたダルフール地方の黒人系住民が「スーダン解放軍」(Sudan Liberation Army)、「正義と平等運動」(Justice and Equality Movement)などの反政府勢力を組織して蜂起、紛争が勃発した。

その後、スーダン政府軍と政府軍を支援する民兵組織「ジャンジャウィード」(Janjaweed、"馬に乗った悪魔"を意味する)により黒人居住の村々が襲撃され、地元の農民や一般市民はジャンジャウィードの手による無差別殺戮・強制移住の犠牲となった。

正式な人数は把握されていないものの、これまでに30万人以上が死亡、250万人以上が避難民になり(今年だけでも10万人以上の避難民が生まれたと推定されている)、440万人が人道支援を必要としている。スーダン政府はジャンジャウィードとの繋がりを否定している。

なお、ダルフール紛争での無差別殺戮や強制移住は正式にジェノサイド(集団殺害)の認定は行われてはいないものの、元アメリカ国務長官のコリン・パウエル氏は当時これをジェノサイドと表現している(2004年)。(関連記事:イスラム国は「ジェノサイド(大量虐殺)」に関与、アメリカ政府が発言。注目すべき点は何か?)。

なおダルフール地方では1956年のスーダン独立以来紛争が頻発しており、1972年から1983年の11年間を除く期間に、200万人の死者、400万人の国内避難民、60万人の難民が発生したと考えられている。

国際指名手配中のバシール現大統領は2020年に引退?

今月上旬、1989年のクーデター以来スーダン大統領を務めるオマル・アル=バシール氏が、2020年をもってその職を辞する意向をBBCのインタビューで表した。

バシール大統領にはジェノサイドや戦争犯罪、人道に対する罪への関与の疑いで、国際刑事裁判所(International Criminal Court, ICC)から逮捕状が出されている。

バシール大統領は以前にも大統領職を辞する意向を示しその後撤回したことがあるため、今回の発言に対しても一部の専門家は疑問を呈している。

バシール大統領は昨年4月に行われた選挙で94パーセントの得票率を獲得し当選したが、同選挙は最大野党がボイコットした状態で行われていた。

なお、ダルフール地方が一つに統合されることは反政府軍が独立を求めるための追い風となるため、スーダン政府は同地方の統合に反対していると考えられている。

投票の結果は予定では来週発表される。今の状態から察するに、ダルフール地方は分割されたまま残る可能性が高いが、その場合は選挙の不公平さなどを理由とし、政府側・反対派との間での更なる紛争に繋がっていく懸念もある。

しかしながら、その反対に仮にダルフール地域が統一された場合を考えても、その後、独立の機運の高まりへと繋がり、政府側との間で更なる軋轢が生まれるかもしれない。長年続く紛争の政治的解決の着地点がどこになるのか、今後の動向に注目したい。

記事執筆者:原貫太

(2016年4月12日 政治解説メディアPlatnews「スーダン・ダルフール地方で住民投票が開始-「世界最悪の人道危機」に終止符は打たれるか」より転載、一部修正。)

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