せめて世界難民の日くらい、人間らしく「想像する力」を活かしたい

数で見られがちな難民にも「名前」があり、支えるべき「家族」があり、そして命をかけて生きている「人生」がある。

2001年からの毎年6月20日は、国際デーの一つ「世界難民の日」とされており、難民の保護や支援に対する世界的な関心を高めるために、各地でイベントや運動が行われている。

昨年6月20日にUNHCRが発表した報告書によれば、世界の難民や難民申請者、国内で住居を追われた人の数の合計は昨年末時点でも推計6530万人に上り、第二次世界大戦以降では最多となったことが示された。

実に、世界で113人に1人は家を追われている計算になる。

ウガンダ北部の南スーダン難民居住区で撮影(photo by Kanta Hara)

この記事を書いている今は、2017年版の報告書はまだ発表されていない。終わりの見えないシリアの内戦、イスラム過激派の台頭や飢饉によって苦しめられるナイジェリアやソマリア、そして「世界で最も急速に深刻化する難民危機」と呼ばれる南スーダン...。

世界中で吹き荒れる「暴力」がますます深刻化している今日。この一年間で難民の数はどう推移しているのだろうか。多くの人が今、同じような気持ちを抱いているかもしれない。

ただ、忘れてはいけない「あたりまえ」がある。それは、6530万人であろうと、それ以上であろうとそれ以下であろうと、難民ひとり一人に「名前」があり、支えるべき「家族」があり、そして命をかけて生きている「人生」があるということ。

これまでも何度か登場しているが、僕がウガンダ北部で出会った南スーダン難民のマーガレットさん(仮名)。彼女は、流暢な英語を話していた。

通常、南スーダン難民から話を聞くときは、現地語と英語が話せる現地スタッフや難民のリーダーの通訳を介してインタビューを行う。

しかし、南スーダンで暮らしていた頃には大学に通って会計の学位を取得し、そして教師として働いていた彼女は、何不自由なく英語を話していた。

もちろん彼女の英語にはアフリカの訛りが入っている。しかし、僕と会話をするのには困らないほど英語を話せる彼女。難民と直接会話をするのはその時が初めてだった。

「政府軍に夫を誘拐された。今は生きているかさえも分からない」「一日の収入は500円にも満たない。今はとにかく仕事が欲しい」直接英語で会話をしたからか、彼女の体験談を僕はより「リアル」に感じた。

南スーダン・日本という国や生活環境の違いはあるにせよ、そこでは僕たちと同じような一人の人間が紛争で傷つき、そして難民としての厳しい生活を強いられている。そんな「あたりまえ」を僕たちは忘れてはいけない。

南スーダン難民や紛争の話を聞いても、ほとんどの日本人は「遠く離れたアフリカの出来事」と感じるだろう。

しかし、酷なことを言うと、南スーダンで続いている紛争の要因に日本は無関係ではない。

独立前の「スーダン」だった時代からずっと、この国では「石油」という資源をめぐって争いが続き、この石油を日本はスーダンから輸入し消費して、僕たちは「豊かな生活」を享受してきたのだ。

現地に足を運んでみないと、分からないことがあると人は言う。確かにその通りかもしれない。

だったら、365日ある内のせめて一日くらい、せめて「世界難民の日」くらい、想像してみて欲しい。

もし自分たちが、紛争や災害によって家を追われたら。混乱のさなか、家族や恋人と離れ離れになったら。慣れない異国の地で、厳しい生活環境に置かれたら。

photo by Kanta Hara

人間には、「想像する力」がある。その力は国境を軽く越え、遠くにいる「誰か」にまで簡単に届く。

グローバル化が極度に進展し、スマートフォン一つで地球の裏側を知れる今日、想像する力をどれだけ強く持つことが出来るかは、21世紀社会を生きる上での「人間としての責任」を考えること、そしてそれを果たすことにも繋がってくるのではないだろうか。

僕は、世界を無視しない大人でありたい。

(2017年6月19日 原貫太公式ブログ「世界まるごと解体新書」より転載)

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記事執筆者:原貫太

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誰だって、一度は思ったことがあるだろう。今この瞬間にも、世界には紛争や貧困で苦しんでいる人がいるのはなぜなのだろうと。その人たちのために、自分にできることはなんだろうと。

僕は、世界を無視しない大人になりたい。 --本文より抜粋

ある日突然誘拐されて兵士になり、戦場に立たされてきたウガンダの元子ども兵たち。終わりの見えない紛争によって故郷を追われ、命からがら逃れてきた南スーダンの難民たち。

様々な葛藤を抱えながらも、"世界の不条理"に挑戦する22歳の大学生がアフリカで見た、「本当の」国際支援とは。アフリカで紛争が続く背景も分かりやすく解説。今を強く生きる勇気が湧いてくる、渾身のノンフィクション。

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