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卒業同時に借金地獄に陥る若者の苦悩

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経済財政運営の指針「骨太の方針」や、働き方改革など今後10年間の施策をまとめた「ニッポン1億総活躍プラン」。返済不要の「給付型奨学金」について「創設に向けて検討」と明記した。5月18日に示された案には施策の方向性が明示されていなかったが、与党の強い要望を受けて書き加えた。来年度からの導入を目指すそうだ。

今から2年前を思い出して欲しい。

2014年、有識者会議の提言に従い検討されている返済不要の「給付型奨学金」の予算額は380億円(約6万3千人対象)。

「380億円の財源の確保は難しい。将来的に、創設に向けての検討も進めていく」――。これが財務省の見解だった。

そして、今回。再び「創設に向けて検討」だと。「来年度から導入を目指す」としているが、どこまで本気なんだろうか。

ある学生からのメールの一部を取り上げる。そして、みなさんにも是非とも、考えてもらいたい。

「講義でスティーブ・ジョブズを取り上げた時に、僕は大学を辞めようと、決心しました。僕の両親もジョブズと同じで、僕の学費のために生活を切り詰めて、必死で働いていた。なのに、僕はずっとそれを、見て見ないふりをしていました。だって、周りの人たちはみんなお金持ちで、帰国子女もたくさんいて。僕はついていくのに必死だった。でもジョブズのスピーチを聞いて、僕も大学を辞めようと思ったんです。

でも、最後の講義で先生の話を聞いて、辞めるのやめることにした(笑)。僕が今やるべきなのは退学じゃなく、目の前のことをちゃんとちゃんとやって(これも先生が教えてくれたこと)、大学をちゃんと出て、自立することだと考えるようになったからです。それが親に対して、僕が唯一できることだと今は考えています。僕が奨学金をもらうことに親が反対したのも、両親から僕への傘だったんだと思います。

実は、こないだ実家に帰ったら、親が僕が○○大学にいっていること、自慢してるって知りました。前の僕だったら、そんな親を軽蔑したと思う。でも、今はちょっとだけ親孝行できたかなって思えます。父は高卒で、大学を出なきゃダメだっていうのが口癖だったから。それに、『傘を差し出してもらった人に唯一できることは、途中で放り出さないこと』ですよね? だから、とにかく踏ん張ります」

ちょっとばかり、補足しておく。

彼が聴講していた講義では、毎回、講義内容に関連する人物を取り上げていて、スティーブ・ジョブズが2005年にスタンフォードの卒業式で学生に向けたスピーチも紹介した。

ジョブズは生まれてすぐに養子に出された。実母が唯一出した条件が、「息子を大学に必ず行かせてほしい」ということだった。

養母も養父も大学は出ておらず、労働者階級。そこでジョブズを大学に行かせるためにコツコツと貯金をし、彼がスタンフォード並みに学費が高い、リード大学に入ってしまったばっかりに、蓄えと収入のほとんどを学費に注ぎ込まざるを得なくなった。

「大学に入って半年たった頃、僕はそこまで犠牲を払って大学に通う価値が見いだせなくなってしまった。私は、両親が一生かけて蓄えたお金をひたすら浪費しているだけでした。なので、私は退学を決めました。今振り返ると、自分が人生で下したもっとも正しい判断だったと思います」

このジョブズの言葉に、前述の学生は刺激されたのだ。

で、最後の講義の話とは、私が学生に話した"私のたったひとつのルール"のこと。

「やると決めたら、とことんやる。背中を押してくれた人、チャンスを作ってくれた人、応援してくれる人......。そんな傘を貸してくれた人たちを裏切らないためには、途中で放り出したり、適当にやっちゃダメ」

なんだがこうやって文字にすると、とんでもなく恥ずかしいのだが、多分こんな内容の話をしたと記憶している。

念のため断っておくが、彼は決して特別な学生じゃない。厳しい家庭環境で育った学生は決して少なくない。シングルマザー、父親が非正規、実家が倒産などなど、友だちには言いづらい"家の事情"を相談メールや手紙に書いてくる学生は想像以上に多い。

大学生2人に1人が利用している奨学金。利用者がここまで増えた背景には、この20年間での親の収入低下と、入学金や授業料の高額化がある。しかも、学生自身の就職状況の悪化で借りたお金を返せない人は急増し、奨学金の滞納者も延滞額も年々増加している。

日本学生支援機構によると、奨学金の返還をする義務を負っている人は約322万9000人、うち3カ月以上延滞している人は19万4153人(平成24年度末時点)。3カ月以上延滞している人たちのうち、「無職・失業中又は休職中」の人が18.2%、「非常勤の労働者」が15.1%。また、年収が「200万円未満」は63%、「300万円未満」は83%にのぼっている(日本学生支援機構 平成24年度奨学金の延滞者に関する属性調査結果より)。

教育に国がかけるお金は、世界的にみても日本は最低レベル。経済協力開発機構(OECD)が公表した教育施策に関する調査結果では、国内総生産(GDP)に占める日本の教育への公的支出割合は3.8%で、5年連続で32カ国の中で最下位だった(2014年調査時)。

大学の奨学金制度でも、国の現行の奨学金は全て大学卒業後に返済する「貸与型」で、給付型を設けていないのは先進国では異例だ。その一方で、家庭が負担する教育費は、世界トップレベル。特に、幼稚園などの就学前と高校の家庭支出は圧倒的に高い。

つまり、「国はさぁ~、あんまりおカネ出さないから、お父さん、お母さん、よろしくね!」と。少々意地悪な物言いではあるが、そう考えているのだろう。

人間の誰もが持っている潜在能力は、社会的チャンスなくして発揮するのは不可能。チャンスがあるからこそ、秘められた力がカタチになる。親の所得、職業、社会的地位などで、子どもの人生のチャンスの選択肢が規定されてしまう世の中とは、"ダイヤの原石"をゴミ箱にポイ捨てするようなもの。

それが生きる力、学ぶ力、考える力、ものをつくる力を引き出し、国の土台を作る。強固な土台なくして経済拡大も国の発展もあり得ないのではないだろうか。

Yahoo news 河合薫の健康社会学から抜粋し転載