「一発屋」で終わらない人が、例外なくやっていることとは?

かつての成功方程式が効力を失った今。必要なのは新たな発想であることは、疑いの余地はない。では、新しい発想とは何か?その答えのヒントになる話をしよう。

【常識を疑い、知識を逸脱する勇気】

かつての成功方程式が効力を失った今。必要なのは新たな発想であることは、疑いの余地はない。では、新しい発想とは何か?その答えのヒントになる話をしよう。

小学3年生の子が自宅の観葉植物の葉の1枚1 枚に、マジック で似顔絵を書いた。母親は、「何てことするの!」と激怒し、父親は、「植物はお絵描き帳ではないぞ」としかりつけた。ところが、その子がお絵描きをしたのは、いたずらではなかった。植物の葉が「どうやって大きくなるのか?」を知りたかったのである。

髪の毛が伸びるように、葉の周りが成長するのか?

背が伸びるように、葉全体が大きくなっていくのか?

その"なぜ?"を解明しようと、葉っぱに絵を描いた。

つまり、ニコニコ葉っぱは、大人の常識を超えた自由な想像の産物。これこそが新しい発想であり、「イノベーション=革新する力」の源泉である。

イノベーションのカリスマ、S.ジョブズはカリグラフィーの授業に熱狂し、「この美しい文字を、簡単に誰もが使えるようになったらどんなにすばらしいことか」と想像した。その自由な発想から生まれたのが、グラフィカル・ユーザー・インター フェイスに優れたパーソナル・コンピュータのマッキントッシュ(Mac)だ。

自由な発想ーー。それは「答え」の()を空けることだ。常識にとらわれず自由に考える。それは「立ち止まってみる」ことでもある。

毎日会社に行くときの通り道、突然、更地になった場所で「アレ、ここって何があったんだっけ?」と立ち止まることがある。毎日見ているはずなのに、どうやっても思い出せない。

穴=更地があると立ち止まる。立ち止まると考える。そういうメカニズムを、私たちは持っている。

少年のように、当たり前の日常にも「穴」をあけてみると、思わぬ発見につながるのだ。

【トヨタの「5つのなぜ」も穴あけからはじまっている】

自由に発想すると言っても、最初からゼロから考えるのはむずかしい。周りの景色が必要である。

例えば、トヨタの「5つのなぜ」も、立ち止まって考えるために、( )を空ける作業だが、土台となる知識が求められる。以下は、元副社長の大野耐一氏が、著書『トヨタ生産方式』の中で記した「5つのなぜ」を例にしたもの。

「機械が動かなくなったのは、( )」の周りに、機械の土台を作っている「知識」が広がっている。

(1)なぜ機械が止まったのか? →機械がとまったのは( )から。

オーバーロードが掛かってヒューズがきれた)から。

(2)なぜオーバーロードが掛かったか? →オーバーロードがかかったのは( )から。

軸受け部の潤滑が十分でない)から。

(3)なぜ十分に潤滑しないのか? → 十分に潤滑しないのは( )から。

潤滑ポンプが十分組み上げていない)から。

(4)なぜ十分組み上げないのか? →十分組み上げないのは( )から

ポンプの軸が摩耗してガタガタになっている)から。

(5)なぜ摩耗したのか? →摩耗したのは( )から。

ろ過器がついていないので切粉が入った)から。

といった具合だ。

答えの穴を「自分の意志で空けて」、インプットした基礎知識を軸に、考える。経験だけじゃ、物足りない。思いつきだけじゃ、固まらない。良質な知識が必要不可欠。

ひたすら穴をあけ、あーでもない、こーでもないと考え続ける。

そのためには、きちんと勉強するしかない。

競争社会で生き残っている人は、例外なく「きちんと勉強している人」。そう断言できる。

例えば、メディアの世界は食うか食われるかの厳しい社会だ。「一発屋」という 言葉があるように、一世を風靡した人気者がこつ然と姿を消すのは珍しいことではない。そんな競争社会の片隅に20年近くいると、消えていった人と生き残った人の違いが分かる。

生き残った人たちに共通するのはーーー。 きちんと勉強していること。

とりわけ、「●●といったら○○さん」といった具合に、その人ならではの「強み を持っている人ほど、強くて、しぶとい!

そういう人はたとえ活躍の舞台から追われるような事態に遭遇しても、必ずや生き返る。異なる世界に移って不死鳥のごとく生き延びている。きちんと勉強したことを土台に、既成の価値観に囚われず、自由に柔軟に考える。その繰り返しが、イノベーションにつながるのだ。

【強みを引き出す「穴あけ」勉強法】

冒頭の写真は私が独学で勉強するときに作成してきた、「穴あけ問題集」だ。新しいことを学ぶときは、いつもこのような穴あけ問題集を手書きで作ってきた。毎日、ほんの少しの時間を使って、少しずつ問題を増やしながら、空いた時間で問題を解く。これを私は「穴あけ勉強法」と呼んでいる。

天才とは、99 %の努力と1%の才能であるーーー。

これはエジソンの有名な言葉だが、才能などない凡人の私たちがせいぜいできるのは、100%努力して〝強み〟を磨くこと。

「努力も才能のうち」と言う人がいるが、毎日、コツコツ続けられる方法を見つけ、それが習慣になれば、結果的に努力した」ことになる。

その方法が「穴あけ勉強法」だ。

個人的な話だが、ド素人だった私は、気象予報士試験を一発で合格し、10年間お天気のプロとしてテレビに出続けることができた。なぜか? 小学生向けのお天気図鑑で、気象の基礎を徹底的に「穴あけ問題」を作り勉強したから。ひたすら穴をあけ続ければ、知識が厚く、熟成され、深みのある知識へと進化し、新しいことも考えられるようになる。

どこから突かれても倒れない土台があって、初めて立派なビルは立つし、深く広がったしっかりした根があって、初めてきれいな花が咲く。偽装した杭で土台を作ったら、マンションは......傾くだけ。

すべては「穴あけ」から始まるのである。「考える力を鍛える穴あけ勉強法(草思社)