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ふしぎなふしぎな物理学・量子力学入門

2014年06月24日 19時36分 JST | 更新 2014年08月19日 18時12分 JST

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2014-06-18-logo_mini.png PCも携帯電話も、すべては量子力学から!

「物理学」に「量子力学」。難しそうなトピックだなあ、と思われた方も多いのではないでしょうか。量子力学は、アインシュタインの相対性理論と並んで現代物理学の土台となる理論体系です。

日々の生活とはかけ離れた印象ですが、実は、量子力学がなければコンピューターや携帯電話など、あらゆる電子デバイスが生まれることはありませんでした。

量子力学は原子や電子など、ミクロな世界での現象を支配している物理法則です。20世紀初頭まで謎に包まれていた小さな粒子たちの振舞いを解明し、その後テクノロジーの発展によって生まれた製品の数々は、今や現代人の生活必需品とまでなりました。

言葉を代えれば、私たちは知らないうちに量子力学の多大なる恩恵に与っているのです。このコラムでは、そんな量子力学の不思議な世界を覗いてみましょう。

2014-06-18-logo_mini.png 実は誰もわかっていない!? 不思議な量子の世界

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ある晴れた休日の午後、あなたは女友達と二人でカフェに入り、四人掛けのゆったりとしたテーブル席に案内されました。二人でお茶とケーキ、そしておしゃべりを楽しんでいる時、突然彼女からこんなことを言われたら、どう思いますか?

私は今、あなたから見て右側の椅子に座っているでしょ。でもね、あなたが後ろを向いて私を見ていない時、私が右側の椅子に座っているか、左側の椅子に座っているか、実は決まっていないの。あなたが私を観測してくれた瞬間に、私の位置が決まるんだ。

思わず耳を疑ってしまいますね。「突然なに言ってるの? 私が見ていてもいなくても、あなたが右の椅子に座っているという事実はかわらないでしょう」。そう言い返したくなるのではないでしょうか。ところが彼女は笑顔で続けます。

あなたが後ろを向いている間、私は右側の椅子と左側の椅子、両方に50%の確率で座っているのよ。あなたが振り返ってもう一度私を見てくれた瞬間、私が右側に座っている確率は50%ってわけ。だって私、かたまりでもあるけれど、波でもあるんだから!

理解不可能どころか完全に常軌を逸した(?)会話ですが、実はこれこそが量子力学の世界観なのです。

原子や電子などのミクロな世界では、粒子は波の性質も併せもち、その位置は確率的にしか決めることができません。その「確率の波」を計算する方程式が、1926年にオーストリアの物理学者シュレディンガー(1887-1961)によって考案されたシュレディンガー方程式です。実際に量子力学は見事に電子の振舞いを説明し、その応用がテクノロジーの発展に大きく寄与したことは先に述べた通りです。

電子は人間の目で直接見ることができないほど小さいのですから、その振舞いを完全に説明できる量子力学の正しさを信じないわけにはいきません。しかし、だからと言ってすんなり納得できるかというと......。私たち人間も結局は原子や電子でできていることを考えると、やはりこの世界観は受け入れがたいものではないでしょうか。

1965年に朝永振一郎(1906-1979)らと共にノーベル賞を受賞したアメリカの物理学者ファインマン(1918-1988)は、こんな言葉を残しています。「量子力学を利用できる人は多いが、量子力学を真に理解している人は一人もいないだろう」。

最新の研究でさえ、量子力学の本質的な疑問を明確には説明できません。「よくわからないし、未だに謎の多い不思議な理論だなあ。でもきちんと実際の世界を説明してくれるから、とりあえず使っておこう」。まるでファンタジーの物語のような、摩訶不思議なミクロの世界。これこそが、量子力学の魅力なのです。

2014-06-18-logo_mini.png 激突!アインシュタイン VS ボーア

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それまでの常識を覆す大胆な量子力学の世界観は、当時の物理学者たちにとっても受け入れがたいものでした。特に、20世紀を代表する物理学者として名高いアインシュタイン(1879-1955)は、「神はサイコロ遊びを好まない」という有名な言葉を残し、デンマークの物理学者ボーア(1885-1962)らと激しい論戦を繰り広げました。

この世界のすべての自然現象は、物理学の方程式によってすべて記述できるはず――。ニュートンの時代以来、ずっとその信念に従って研究を重ねてきた物理学者たちにとって、「ミクロの世界では、未来の出来事は確率的にしか決めることができない」という量子力学の登場は、まさにアイデンティティを揺るがす一大事件だったのでしょう。

アインシュタインはボーアらの唱えた確率解釈や、粒子の位置と運動量(運動の勢いを表す物理量)は同時に確定することができないとする「不確定性原理」に生涯異議を唱え続けました。ただし、量子力学のすべてを否定していたわけではなくある程度はその功績を認め、「人間の知恵が足りず量子力学では確率しか計算できないが、それは物理学の本質ではないはず」というスタンスだったようです。

またアインシュタインとの激しい論争を繰り広げたことにより、結果として量子力学の理論体系はより精巧に築かれていきました。はからずも彼は、大嫌いだった量子力学の最大の貢献者の一人としても、その名を残すことになったのです。

2014-06-18-logo_mini.png あなたも私も、揺らぎのおかげに生まれました!

それでは本当に、ミクロの世界では確率的にしか物事が決まらないのでしょうか?

答えは誰にもわかりませんが、最新の研究によれば、この世界に電子などの粒子が生まれたきっかけは「真空の揺らぎ」と呼ばれる量子力学特有の現象に起因しています。この地球や私たち人間もたくさんの粒子から出来ているのですから、この現象がなければこの世界は全くの「からっぽ」だったことになります。

私たちは「真空」と聞くと、すべてのものがなにもない、エネルギーがゼロのからっぽの空間と思いがちですね。しかし「すべてのものが確率的にしかきまらない」量子力学によれば、「なにもない」はずの空間にさえ、「なにかある」確率がわずかに存在していることになります。

そこで量子力学では、真空のなかでもわずかに揺らぎが生じ、いたるところで小さな粒子と、粒子とは正反対の性質を持つ「反粒子」がペアで生成しては消えていると考えます。本来なら生成と消滅はバランスがとれていたはずですが、ここでもわずかな「ずれ」、揺らぎが生じ、消滅せず余った粒子たちからこの世界が形づくられていきました。

イギリスの物理学者ディラック(1902-1984)は独創的な理論研究を展開し、早くから電子とは正反対の電荷をもつ反電子の存在を予言していました。1932年、実際に宇宙から降り注ぐ宇宙線から質量は電子と同じでプラスの電荷をもつ陽電子が発見され、その理論の正しさが証明されたのです。

また日本人物理学者の南部陽一郎(1921-)は量子の世界における「自発的対称性の破れ」と呼ばれる現象を研究し、2008年にノーベル物理学賞を受賞しました。南部の革新的な理論はその後の研究に多大なる影響を与え、この世界の粒子が重さをもった起源を説明するヒッグス理論(考案者の物理学者ヒッグス(1929-)は、2013年にノーベル物理学賞を受賞)の構築へとつながっていくのです。

2014-06-18-logo_mini.png やっぱり不思議な量子力学

量子力学の不思議な世界をご紹介してきましたが、いかがだったでしょうか?「やっぱりよくわからない」、「なんだか狐につままれたような気がする......」、そんな風に思った方も多いと思います。

しかしそう思うことこそが、「量子力学はじめの一歩」に他なりません。アインシュタインと激しい論戦を繰り広げたボーアは、こんな言葉を残しています。「量子力学によってショックを受けない者は、量子力学をわかっていない者だ」。

一人でも多くの方が、量子力学のエッセンスを楽しんでくださることを祈って、このコラムを終えることにします。(文:坂下 理紗)

2014-06-18-logo_mini.png 「かしこい」女性に「かしこく」生きるヒントを提供する情報サイト『kashiko(かしこ)』

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