勉強は、9歳をすぎたら手遅れか? ~小学生にノブレス・オブリージュを語る塾を作る

キレイ事を言いながら受験には勝てない塾ではなく、王道を貫いて堂々と合格を勝ち取る塾が必要なのではないか。

前回、前々回と、子供の知能の発達には、「9歳まで」が非常に重要であること。そして、幼児教室だけではなく、保育園・幼稚園・ご家庭、そして産婦人科や小児科などの医療機関も一体となって同じ方向を向いて育てていく必要性について書かせていただきました。

今回は、「9歳以降」は何が重要になるのか。そして、元々中学受験の専門家から幼児教育の世界に転身した私が、今もう一度「9歳以降」対象の塾を作ろうとしている理由について書かせていただこうと思います。

●9歳を過ぎたら手遅れか?

私は43歳ですが、私と同世代の中学受験経験者の方が、今一番危険な「勘違い」をされています。それは、「中学受験は4年生からスタート」という「勘違い」です。

確かに私たちの頃はそうでした。皆が横一線で、4年生または5年生からのスタートで十分間に合ったのです。

私たちの教室で囲碁カリキュラムの顧問をしていただいているプロ棋士の坂井秀至八段は、小学6年生の夏に小学生日本一になった後から中学受験塾に入塾し、半年の受験勉強で灘中に合格しました。京大医学部卒の、「医師免許を持つプロ棋士」と言えばご存じの方も多いのではないでしょうか?

ただし、坂井八段の場合は、小学生日本一になるほど碁に真剣に打ち込まれた結果、知らず知らずのうちに脳のあらゆる働きを鍛えられていた、とも考えられます。このことについては、以下のページの「囲碁の効用について」と言う資料をご覧ください。

しかし、今は時代が違います。大手塾にはほとんど小学1年生からクラスがあり、「大手塾で良いスタートを切るために先に通う低学年用塾」もあります。

本当に3年生まで何の準備もせずに4年生で大手塾の門をたたくと、「大丈夫。頑張りましょう!」と笑顔で迎えられるのですが、実際には塾側として全く力を入れていない下の方のクラスで力のない先生をあてがわれ、授業料だけを払い続ける。そして、6年の秋には「肩たたき」にあって見捨てられる。ほとんどの場合がそうなります。

では、9歳以降については、あきらめるしかないのでしょうか?

いいえ。9歳以降でも逆転可能な要素はあります。

私たちは、「学力=能力×時間×集中力」と説明しています。

能力で多少負けていても、時間をかけることによって逆転を目指すことは可能です。

と言いたいところなのですが、そもそも能力が高い子は、長時間勉強を苦にしないケースが多いです。それを上回る学習時間を確保しようと思うと、例えば小学6年生の中学受験生が毎日夜中の2時3時まで勉強しなければならない、と言う状況になってしまいます。

しかし、最後の「集中力」はどうでしょうか?

「あなたは何も考えなくて良いからとにかく○○中に入るまでは脇目もふらずに頑張りなさい」と言われている小学生と、「文化祭で心を奪われた○○中の△△部に入りたいんだ!」または「将来□□になりたくて、そのためには○○中高から××大学に行きたいんだ!」と言う思いで受験勉強をする小学生。

この二人の集中力には、2倍ぐらいの差がついても不思議ではありません。

そう、集中力のカギはモチベーション、目的意識なのです。

「能力×時間×集中力 = 学力」

120×120× 90= 1296000

100×130×110= 1430000

単純計算ですが、能力で多少負けていても、時間と集中力で逆転可能、と言うことです。

ただもちろん、能力が高いに越したことはない、というのは厳然たる事実です。

●幼児教室「ライトスタッフ」から中学受験「ノブレス・オブリージュ」へ

平成27年8月、灘中高の同級生で現役医師の西原文現から、幼児教室に加えて「一緒に中学受験塾を作ろう。そこに自分が責任者を務める医学部進学コースを作りたい。」と言う話がありました。

医学部進学コースへの思いは、いずれこの場所をお借りして、西原本人が書かせていただくことになると思います。

幼児教室の名前「ライトスタッフ=Light Staff」とは「光の杖・炎の杖」と言う意味です。

社会の暗いところに灯を点す「光の杖」。冷めた心に火を点け、冷えた心を温める「炎の杖。」そんな人材に育って欲しい。

生徒たちには折にふれ、繰り返しこの話をしています。そして、ライトスタッフにはイメージキャラクターとして、男の子の「シドウくん」、女の子の「リージュちゃん」が居ます。

シドウくんを通じて武士道の精神、リージュちゃんを通じてノブレス・オブリージュの精神も子供たちに伝えて来ました。

「君たちは賢くなって、賢くなった頭は自分が得するためではなくて、みんなの幸せのために使うんだよ。」と。

実は最初に西原から中学受験塾を作ろう、との提案を受けた時には正直悩みました。「9歳のカベ」「髄鞘化現象」のことを考えれば、教師の役割は小学3年生までが勝負です。あとは子供たち自身が頑張るしかない。

そんな時、「塾名をノブレス・オブリージュにする」と言うアイデアが閃いたのです。

残念ながら、今の塾業界は「弱肉強食」がスタンダードです。強いものは得をする。弱いものは損をする。悔しかったら強者になれ。塾同士もそうですし、生徒同士もそうです。

自塾の生徒でも、6年生の夏休みまで全員にトップ校を目指させておきながら、6年秋の段階で合格可能性が低い生徒は「肩たたき」をして見限る。そして、6年の秋以降は他塾のトップ層に「特別講座」を超格安で提供して、その子が合格したら合格実績に加える。

そんなことが横行しています。

何より私が許せないのが、すでに第一志望校に合格した生徒を使って他校も受けさせ、合格実績を稼ぐ方法です。

阪神間では、男子トップ校の灘中の合格発表が終わった後に、中堅人気校の六甲学院中の2回目の試験があります。本来であれば、第一志望には残念だった子や、どうしても六甲学院に入りたいけれど一度目の試験で不合格になった子のラストチャンスなのです。そこへ、すでに第一志望の灘中に合格した生徒を送り込むのです。

同じ塾、または同じ小学校で、この六甲学院の2回目の試験にかけている友達もいるはずです。そこに遊び半分で受験をさせて良いわけがありません。

これによって、塾側は一人の生徒で「灘中1名、六甲1名」の合格実績を稼げます。そして生徒の方は合格した学校の数で塾から「三冠王」「四冠王」等の表彰をしてもらえます。

私が問題視するのは、「大人や会社がズルイことをこっそりしている」ことではなく、大っぴらに子どもにそれに加担させていることです。

この時代、「ノブレス・オブリージュ」を掲げる、真っ当な中学受験塾が必要なのではないか。キレイ事を言いながら受験には勝てない塾ではなく、王道を貫いて堂々と合格を勝ち取る塾が必要なのではないか。

まずは身近な友達同士が助け合い、そして中学入学後は社会貢献に目を向けられる生徒を育てよう。

そう腹を決めて、西原と一緒に中学受験「ノブレス・オブリージュ」を立ち上げることにしました。

実は、「ライトスタッフ」と言うのは平成4年10月、私が19歳の時に結成したロックバンドの名前です。私は東京大学文科一類の学生。この年は国連の平和維持活動に日本も参加するかどうか、PKO問題が一番激しかった頃です。

しかし、東大法学部に進学する文科一類の学生たちは驚くほど冷めていました。「自衛隊の人たちは国際法のこととか立法のこととかは分からないんだから、僕たちの方でその辺の面倒は見てあげないと。」と20歳前後の学生が授業で語っていました。怒った私は、「戦場に行くかどうか、命がかかってたら自衛隊員も家族も、必死で勉強するに決まってるだろう!」と反論したのを覚えています。

ちょうどその年の4月に、若者のカリスマ。歌手の尾崎豊さんが亡くなっていました。その後、若者たちは途方に暮れてしまいます。後追い自殺者も多数出ました。

尾崎さんは素晴らしい代弁者であったのですが、若者に自立した力を与えることは出来なかったのでは、と生意気に考えた私は「冷めた日本に火を点ける」をキャッチフレーズにロックバンド「Light Staff」を結成。24歳で東京を去って神戸に戻るまで活動を続けました。

そして30歳の時、親から引き継いだ幼児教室・塾を統合して「Light Staff」と改称したのです。

●生産的思考の出来る人材を育てる

私たちは今、兵庫県西宮市の一教室で活動する幼児教室・小学生向け塾です。

まずはここで、「決められたルールの中でどうすれば自分が得をできるか」ではなく、「社会の皆さんの最大の幸福を追求するにはどうすれば良いのか」、そのためには必要であればルールを変えれば良い。新しいシステムを作れば良い。そういう生産的思考の出来る人材を輩出して行きたいと考えています。

フランクリン・コヴィー博士の「7つの習慣」を小学生の必修授業に組み込むことも予定しています。

「ゴールを定めてから行動する。」「Win-Winを意識する。」「まず理解してから理解される。」等の考え方は、小学生にも有意義なものである、と信じています。

そして、「ライトスタッフ」「ノブレス・オブリージュ」の理念を共有する同志が日本中に生まれ、2歳以下の乳幼児教育、保育園や幼稚園における保育、そして卒業生を中心とした中学生以上も連動してより良い社会の実現を目指す機関になろうと思います。

そのためには、前回も書きましたように、産婦人科・小児科の先生を始めとした医療関係者の皆様との連携も不可欠であろうと考えております。

私たちが育てたい「リーダーの条件」が以下です。

1 決断し、責任を取る。

2 約束は必ず守る。

3 セオリー無視なら結果を出す。

4 批判するなら対案を出す。

5 常に人の気持ちを慮(おもんぱか)る。

私たちの活動に興味を持たれた方は、ぜひご連絡ください。

今後とも、皆さまのご指導ご鞭撻をいただければ幸いです。

3回にわたり、異分野の記事にお付き合いいただきまして、ありがとうございました。

幼児教室 ライトスタッフ

中学受験 ノブレス・オブリージュ

(プロフィール。名前をクリックすると、詳細が表示されます。)

(2016年8月16日「MRIC by 医療ガバナンス学会」より転載)

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