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「情報共有したいだけの人は、打ち合わせに来ないほうがいい」 佐藤可士和さんインタビュー

2014年12月10日 23時55分 JST | 更新 2015年02月09日 19時12分 JST

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ユニクロのアルファベットとカタカナのダブルロゴ、日清の「カレーメシ」、国立新美術館の「新」というロゴなど、佐藤可士和さんの仕事はいつもハッとさせる驚きがある。有能なクリエーターは今の日本に少なくないのに、なぜ可士和さんの元にはこれだけ多くの仕事が集まるのか。それは可士和さんが、クライアントである企業の方との打ち合わせにおいて、自分のアイディアを正確に伝える努力を誰よりも行っているからかもしれない。

打ち合わせこそが、「クリエイティブの場」だと言う佐藤可士和さん。自身の打ち合わせ術をまとめた『佐藤可士和の打ち合わせ』を発表し、書店のビジネス本の棚でジワジワと話題となっている。今、なぜ打ち合わせなのか。なぜ佐藤可士和は打ち合わせにこだわるのかを伺った。

■なぜコミュニケーションの時代なのか

――本を読ませていただくと、単なる打ち合わせ術のHow to本と言うより、さらに射程が広く、コミュニケーションの本だと思いました。世間でも「コミュニケーション」が重視される機会が増えているように思いますが、これはどういう時代背景なんでしょうか。

僕が思うに理由は大きく2つあると思います。一つは、インターネットの出現によって、コミュニケーションの仕方がすごく変わったこと。インターネットの出現からスマートフォンまでの変化というのは、100年に1度ぐらいの大きな変革だと思います。

我々は今、世界と瞬時につながるようなメディア環境の中にいて、テクノロジーもどんどん進化しています。それにともないコミュニケーションのあり方や「個人」のとらえ方というものも変わっていかざるを得ません。それなのに昔のままの話法やコミュニケーション術のままでは、今後支障をきたしてしまうこともあると思います。

もう一つは、インターネットの話とも繋がっていますが、グローバル化というものがありますね。僕たちは世界中の国の人達とコミュニケーションしていかなくてはいけないわけです。常識やカルチャーなど共通のバックボーンをもたない人々と仕事をしていかなければならない。価値観が違う人と付き合うには、コミュニケーションを上手く取らないと、自分の思っていることが伝わらないでしょう。

このような時代背景があって、どうしたらコミュニケーションがスムーズにとれるかというのを、みんな考えているのだと思います。

昭和の時代には、お父さんが「おい」と言うとお母さんがお茶がすっと出すみたいなことがあったわけじゃないですか。そういうものが良しとされていた時代が確かにあった。でも今は「うん」と言っても伝わらない。今回の本に限らず、以前執筆した「佐藤可士和の超整理術」でも「言わなくても伝わっていると思ったら大間違い」ということを書きましたが、僕は自分が10言っても3しか伝わっていないんじゃないかといつも思っていますし、その前提でコミュニケーションの仕方を考えています。というのは、広告の仕事を通してずっと実感としてあるんですよね。伝えるのって難しいな、ということが。

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――デザイナーというと、どうしてもPCに向かってカリカリと作業しているイメージもあるのですが、伝えること、コミュニケーションを取ることにすごく重視してらっしゃるんですね。

そもそもデザインというのはコミュニケーションの方法論の一つです。だから伝えたいことをどう整理していくかというのはデザイナーにとって最も重要なスキルだと思います。

■会って話すことの意味を考えよう

――先ほどネットによってコミュニケーションが変わったと伺いましたが、確かにスマホのメッセンジャーやチャットなどのツールが充実して、以前よりも簡単に情報を共有したりすることができるようになりました。そうすると、こうやって実際に顔を合わせることの意味や必要性を、より真剣に捉えなきゃいけないと思います。わざわざ顔を合わせることの意味ってなんでしょうね?

テクノロジーの進化でコミュニケーションのツールが増え、情報や認識の共有だけでわざわざ集まるのは時間がもったいなくなりましたよね。それは事前にできたり、後でメールしてもいい。昔はそういう手段がなかったから、会って確認することにも意味があった。でも今は、情報共有はコンピュータで可能になった。

そういう時代に顔を合わせた打ち合わせの場で重要なのはディスカッションですよね。あなたはこの情報についてどう思うかという。大きな意見の違いはもちろん、ディテールやニュアンスの違いも会って話すからこそわかりますから、意志を統一していくための細かい方向性のすり合わせができるのが打ち合わせ。「大枠OKだけど、ここだけはちょっと違うんじゃないか」とか、そういうことはやはりネットではなかなか伝わらないと思います。会って話すからこそわかることはたくさんあるでしょう。

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――つまり、打ち合わせでは、小さくても何か決断を下していくことが重要なんでしょうか。

そうですね。打ち合わせでは、1から10まで固まっていないから、モヤッとしている部分がありますよね。出席者がお互いパスを出し合うようにして、そのモヤッを解消させていく場なんですよね。打ち合わせは、仕事を作っていく場なんです。

それに、やっぱりメールでは言いにくいこともあったりしますよね。文章で書くと、自分が意図した以上にキツい表現にることも多い。そういうときも会って説明した方がいいなと思います。それから微妙すぎて、文章にするとすごく長くなっちゃうとか。そういう時もやはり会って話す方がいいですよね。

■日本企業は「伝える姿勢が欠けている」

――少し話を変えまして、可士和さんは、ユニクロやセブン-イレブン、キリンなど、日本を代表する企業とお仕事をされていますが、世界的に見て日本の企業の優れている点、改善した方が良い点はどこでしょうか。

日本企業の良いところは、クオリティや精度に対するこだわりでしょうね。商品やサービスの完成度やクオリティをこんなに追求している国は、他にはないと思います。

一方で改善した方がいい点は、ブランディングをはじめとして、世界に対して自分たちの価値を正確に伝えるという姿勢が欠けているということ。非常にもったいないですね。

――では、日本のデザイナーやクリエーターの優れている点と劣っている点はどこでしょうか?

グラフィックデザインに代表されるような、要素を削ぎ落として簡略化して、シンプルかつ印象に残るデザインを作ることは日本人は得意だと思います。足りないのは、大胆な発想でしょうか。

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佐藤可士和の打ち合わせ 』(ダイヤモンド社/1400円+税)

インタビューを通して感じたのは、インターネットが発達して、グローバル化が進行した、今日の最適な打ち合わせを可士和さんは意識した上で、著書を書かれていたと言うことだ。つまりこの本には、過去のどの時点よりも今使える「打ち合わせ」のノウハウが詰まっている。これは日本を代表するディレクターによる古典の教科書ではない。今、現時点だからこそ面白い本だろう。