「フェイクニュース」警告マークは効果がないのか

フェイクニュース排除効果は数%にとどまり、フェイクニュースを正しいと思う割合が増加する傾向も見られた。

フェイクニュース対策の一環として、フェイスブックは今春から、ファクトチェックで"クロ"と認定されたコンテンツについて、警告のために「問題あり」との表示をしている。

José María Mateos

だがその効果について、イェール大学の研究者が調査をしたところ、ファクトチェック表示によるフェイクニュース排除効果は数%にとどまり、トランプ支持層や若者層では、逆にフェイクニュースを正しいと思う割合が増加する傾向も見られた、という研究結果を発表した

フェイクニュース拡散の舞台として批判を受けたフェイスブックだけでなく、グーグルも同様に、ニュースに第三者によるファクトチェックの結果を表示する取り組みを行っている。

だがこの研究によれば、その効果が限定的であるばかりか、属性によっては、むしろフェイクニュースへの"信頼度"を高めるという皮肉な結果になっている。

●5000人への調査

フェイスブックは3月から、「ポリティファクト」「スノープス」などの連携するファクトチェック機関によってフェイクと認定されたニュースに対し、道路標識のような注意マークとともに「問題あり」という文言を表示。ユーザーに注意を呼びかけるようになった(日本では未実施)。

12日に発表された論文で、ランド氏らはアマゾン・メカニカル・タークで募集した米国の5271人を対象に、12本のフェイクニュースと12本のリアルニュースの見出しを示して、「正しい」と思うかどうかを尋ねた。

この実験では、(1)フェイクニュースに「問題あり」を全く表示しないグループと(2)フェイクニュースの半分(6本)に「問題あり」を表示し、残り半分には表示しないグループに分け、その反応を比較した。

kazuhiro taira

それによると、(1)のグループで、フェイクニュースを見て、「正しい」とした割合は全体で18.5%。

これに対し、(2)のグループで「問題あり」表示のあったフェイクニュースを「正しい」とした割合は14.8%で、マークの表示が、フェイクニュース識別の向上に効果があることはわかった。ただマークの有無による差は、3.7ポイントと小幅にとどまった。

その一方で、(2)のグループで「問題あり」の表示をしなかったフェイクニュースを見て、「正しい」とした割合は全体で19.5%。「問題あり」の表示を全くしなかった(1)のグループに比べ、むしろフェイクニュースを「正しい」とする割合が1ポイント増加していた。

このケースをさらに詳しく見ていくと、トランプ支持層では1.8ポイント増[(1)18.5% (2)20.3%]、18歳から25歳の若者層では4.4ポイント増[(1)21.1% (2)25.5%]と、フェイクニュースを「正しい」とする割合が、より高まっていた。

人の手で行うファクトチェック作業には、物理的限界がある。このため、フェイクニュースへの「問題あり」の表示は、現状ではごく一部にとどまっている。

「問題あり」の表示が存在することで、表示のないフェイクニュースについては、「表示がないのだから正しい」と、返って"信頼度"を高める皮肉な結果になっているようだ。

ランド氏らは、この傾向を「バックファイアー効果」と呼んでいる。

ただ、この場合は、フェイクニュースに対して事実を提示した場合に、属性によってフェイクニュースへの確信をより強めてしまうケースがあることを意味しており、ランド氏らの言う「バックファイアー効果」とは、やや意味合いにズレがあるように見える。

「問題あり」の表示が、それ以外のニュースへの"信頼度"を高める傾向は、リアルニュースについても見られた。

(1)のグループでは、リアルニュースを「正しい」としたのが59.2%だったのに対し、(2)のグループでは、それが60.9%と、1.7ポイント増加していた。

ランド氏らは、ある施策が本来の狙いを超えて効果を及ぼす「スピルオーバー(漏出)効果」と位置づけている。

●ニュース・ブランドの強調、効果なし

フェイクニュース問題をめぐっては、ソーシャルメディアでニュースの発信元が十分に認識されていないことが、背景にあるのでは、と指摘されてきた。

そこでランド氏らは同じ論文の中で、やはりメカニカル・タークで集めた2453人を対象に、別の実験も実施。メディアのロゴを表示することで、フェイクニュースの識別に影響があるかどうかを調べた。

kazuhiro taira

実験では、(1)フェイスブックのスタイル通りに発信元はグレーの文字で小さく表示(2)発信元の文字表示に加えてロゴマークも表示、という2つのグループに分け、それぞれ12本づつのフェイクニュースとリアルニュースの見出しを見せて、「正しい」と思うかどうかを尋ねた。

すると、フェイクニュースを「正しい」とした割合は、(1)のグループで17.2%に対して、ロゴ表示をした(2)のグループは17.3%。

リアルニュースでも、「正しい」とした割合は(1)が59.4%で(2)が59.8%。

つまり、ロゴを表示することで発信元のブランドを強調しても、フェイクニュースの識別にはほとんど違いが見られなかったのだという。

●「表面的な対策は効果なし」

ランド氏らは実験結果を受けて、「問題あり」の表示については、こう述べている。

実験結果は、(「問題あり」の)ラベルが、フェイクニュースを正しいと思い込む、という点においては、効果よりも悪影響を及ぼす可能性を示している。特に、そもそもフェイクニュースに影響を受けやすいトランプ支持者と、ソーシャルメディアがニュース接触の極めて重要な情報源になっている若者層で、警告の効果は小さく、(フェイクニュースの信頼度を増す)バックファイアー効果が大きいことを考えれば。

さらに、ニュースロゴの表示についても、こう指摘する。

よく知られた主流のニュースメディアであっても、特段、信頼度が高いとは見なされず、配信元を強調しても、そのニュースが正しいという認識が高まることもない。

そして、現在のフェイクニュース対策について、こう総括している。

この結果を勘案すると、ソーシャルメディア上での見出しの表示の仕方に"表面的(コスメティック)な"変更を加えても、効果的なフェイクニュース対策には不十分だということだ。より、根本的な対策が必要だ。

●フェイスブックの反論

この論文に対しては、フェイスブックから反論もあるようだ。

この論文の内容を報じたポリティコによると、フェイスブックの広報担当は取材に対し、その調査方法に疑問がある、と述べている。あくまでアマゾンを使ったオンライン調査であり、フェイスブック上で行われたものではない、という点だ。

これは、報酬つきの質問項目に応えた人々による、オプトインの調査だ。フェイスブックのユーザーによるリアルなデータではない。

さらに、ファクトチェックの結果の活用は、「問題あり」の表示にとどまらない、という。「問題あり」の表示をクリックすると、ファクトチェック機関による検証結果にリンクしている。

フェイスブックは8月から、その検証結果を、同社のアルゴリズムが「フェイクニュースの疑いあり」と判定した同種の記事と合わせて、「関連記事」として表示し始めているという。

ファクトチェック機関の検証結果は、フェイスブックのアルゴリズムにとっての「学習用データ」としても活用されている、ということだ。

(検証結果は)デマニュースや情報の拡散を食い止めるための、他のシステムを強化することにも使われているのです。

ファクトチェックの専門家で、バズフィードのメディアエディターを務めるクレイグ・シルバーマン氏も、ユーザーが「問題あり」表示を信じなくても、それ自体は大きな問題ではなく、フェイスブックにとってはデータこそが重要だ、という

ニュースがフェイクと認定されるたびに、フェイスブックは新たなデータを入手し、ニュースフィードにどのコンテンツを表示させるか、アルゴリズムがよりよい判断ができるよう学習させることに利用できる。つまり、ファクトチェッカーたちは、実質的に、フェイスブックがシステムを学習させる手助けをするために、コンテンツのレイティングを行っていることになる。それは、ファクトチェッカーが仕事に取り組む動機とは、何の関係もないことではあるが。

国際ファクトチェッキングネットワーク(IFCN)」の事務局を務めるポインター研究所のアレクシオス・マンザリスさんも、「問題あり」とされたフェイクニュースは、フェイスブックのアルゴリズムによって、ニュースフィードへの表示そのものが少なくなり、拡散が抑えられている、という点を指摘する

また、ランドさんらの論文が、専門家による査読を経たものでないことや、実験で使ったのが「問題あり」の表示だけで、その先のファクトチェックの結果まで対象者に見せていないことなどの、疑問点を挙げている。

フェイクニュース問題には、リテラシー教育など、複合的な対策が指摘される。その対策の難しさを改めて示す研究結果ではあるだろう。

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■新刊『信じてはいけない 民主主義を壊すフェイクニュースの正体』(朝日新書)6月13日発売。

(2017年9月16日「新聞紙学的」より転載)

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