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海賊党レダ議員がEU"グーグル税"、著作権改革を批判する

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15年ぶりの著作権法制改革に取り組む欧州連合(EU)の内部文書が25日、欧州NPO「ステートウォッチ」によって公開された。

文書は、EUの行政執行機関である欧州委員会が、9月中に予定されている改革草案の検討資料として、著作権改革による影響評価をまとめた報告書だ。

報告書は、ドイツ、スペインで実施して失敗したニュースのアグリゲーションに対する課金制度、いわゆる"グーグル税(またはリンク税)"をEU全域に広げる案や、著作権保護コンテンツを自動判別する「コンテンツID」を全ての共有サイトに導入させる案が盛り込まれるなど、話題満載の内容だ。

著作権改革の方向性について、昨年初めに欧州議会としての報告書をとりまとめた海賊党議員、ジュリア・レダさんはこの文書公開前、都内で開かれたシンポジウム「欧州の事例から考える著作権の未来」(インターネットユーザー協会<MIAU>主催)で、改革の現状をこう述べていた。

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欧州委員会は、著作権法制の簡略化とEU全域における調和を目指した当初のゴールから、かなり遠いところへと漂流してしまったことは明らかだ。

●著作権法28個問題

著作権改革などを掲げる海賊党は、2006年にスウェーデンで誕生し、現在は世界約50カ国で活動。29歳のレダさんは、2014年から欧州議会唯一の海賊党議員(ドイツ)だ。

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今回、MIAUの招きで初来日し、著作権シンポの前日には、シンポジウム「日本で液体民主主義、そして海賊党は可能か?」にも登壇。オープンソースのシステム「液体フィードバック」を組み込んだ合意形成の仕組み"液体民主主義"などについて語った。

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EUの著作権改革については、これまで何度か紹介してきた。著作権法制をデジタル時代に調和させ、EUが掲げるデジタル単一市場の実現を目指す、というものだ。

※参照"グーグル税"は欧州全域に広がるのか? 著作権改革文書が流出

現在の制度は、2001年制定の「情報社会における著作権等の調和に関する指令」に基づき、加盟28カ国ごとに著作権法を定めている。

ところが、各国の裁量によって法に取り込める例外・制限規定は21項目もあり、その組み合わせは「200万種類を超える」(レダさん)という複雑さだ。

EUの著作権の保護期間は著作権者の死後70年だが、国によっては独自の加算規定もあり、さらに状況を複雑にする。

デジタル単一市場を標榜しながら、そこでデジタルビジネスを展開するには28個もの違った著作権法に対応せざるを得ないため、「域内のベンチャーの育成を妨げてしまう」(レダさん)のだという。

この改革は、プライバシー保護政策において、1995年制定の「個人データ保護指令」をデジタル化に対応させ、4年がかりの議論の末、今春、「一般個人データ保護規則(GDPR)」を成立させたのと同じ方向性と言えるだろう。

●"グーグル税"の失敗

著作権改革で注目されるポイントの一つが、"グーグル税"だ。

※参照:"グーグル税"はメディアにどれだけのダメージを与えたか

これは主にグーグルと欧州メディアの、ニュースのアグリゲーションと、それへの課金を巡る対立の中で出てきた問題だ。

メディア側は「ダダ乗り」と不満を訴え、グーグル側は「トラフィックを供給している」と反論する。

失敗例として広く知られるのが、ドイツとスペインの例だ。

ドイツでは2013年、アクセル・シュプリンガーをはじめとするメディアの後押しで、法改正が成立。「副次的著作権」法と呼ばれる。検索結果で記事の抜粋(スニペット)を表示することに対して、使用料を課すという内容だ。

これに対して、グーグル側はスニペットを非表示にするなどして対抗。メディア側は、グーグルの検索結果への表示を拒否するという手段に出たが、2014年11月、アクセスの激減に耐えられずに2週間で表示拒否を取りやめた。

スペインでも、メディア業界の旗振りで2014年10月に著作権法の改正が成立。

ニュース記事へのリンクとスニペットを掲載するアグリゲーションサービスに対して、メディア側が使用料を要求でき、従わない場合には最高で60万ユーロ(約6800万円)の罰金が科される、という内容だ。

これに対しグーグルは、2015年1月の法施行を前に、2014年12月、スペイン版グーグルニュースの閉鎖を表明するに至った。

ネット調査会社「コムスコア」のデータでは、法が施行された2015年1月以降、トラフィックは平均で6%減少。特に小規模サイトでの影響が大きく、減少率は14%にのぼったという。

そんな教訓がありながら、EUの著作権改革論議の中では、この"グーグル税"を全域に導入するという案が浸透していく。

そして今回、「ステートウォッチ」が公開した検討文書では、"グーグル税"の導入が推奨施策として明記されていた。

●全域への導入

検討文書は「委員会スタッフ作業文書 EU著作権規則の現代化による影響評価」とのタイトルで、全182ページ。

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改正のポイントごとに、課題、解決策のオプション、各オプションの影響評価、推奨オプション、の順に検討を加えている。

この中で、ニュースのアグリゲーションについても取り上げている。

問題点として挙げられているのは、"メディアの苦境"だ。

印刷からデジタルへの移行は、新聞、雑誌、その他の出版物の読者を拡大はしたが、出版物の権利による利益確保とその執行は次第に困難になってきた。加えて、著作権の例外規定における利用に対する補償という点でも、パブリッシャーは困難に直面している。

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その解決策のオプションとして、報告書が推奨しているのが、パブリッシャー(メディア)にニュースの引用などに対する著作隣接権を新たに認め、プロバイダー(アグリゲーター)に対して補償の請求権を持つ、という仕組みだ。

つまり"グーグル税"を域内すべての制度として創設する、という方向性が示されているのだ。

●"コンテンツID"の導入

それだけではない。"コンテンツID"の導入についても、「ユーザー投稿コンテンツの保存とアクセスを提供するオンラインサービスによる、著作権保護コンテンツの利用」という項目を立てて検討している。

そこで、推奨する解決策として、こう述べられている。

ユーザー投稿コンテンツのサービス事業者の義務として、誠意をもって、著作権者との契約締結に努め、適切かつふさわしいコンテンツIDテクノロジーを導入すること。

そして、その成功事例として、99.7%の精度を掲げるユーチューブを紹介している。

ユーチューブのように、著作権保護コンテンツを自動的に判別し、収益を分配する。そのようなシステムを、すべての共有サイトに義務づける、との内容だ。

●「双方にとって有害」

これらは、これまでも検討課題にのぼっていた項目だ。それが、欧州委員会の内部検討資料として、具体的に書き込まれていた、ということだ。

まず"グーグル税(リンク税)"について、レダさんは欧州議会議員の立場から、25日に都内で開かれたシンポジウムの中でこう述べている。

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欧州委員会は、報道機関に対する著作隣接権(と料金請求権)の新設を予定している。欧州議会は、これに対し、再三反対意見を表明しているにもかかわらず。また、ドイツ、スペインの学界の専門家たちも、報道機関への著作隣接権に否定的で、導入の目的を達成できなかったばかりか、インターネットのベンチャー企業と報道機関、双方にとって有害だ、と述べているのに。

さらに、"コンテンツID"については、その皮肉な成り行きを指摘する。

音楽業界にとっても、新たな規定が設けられる。詳細はなお不明だが、ユーチューブのようなすべての音楽共有サービスは、「ノーティス・アンド・テイクダウン(申請に基づく侵害コンテンツの削除)」だけではなく、アップロードされたすべてのコンテンツについて、著作権保護コンテンツを検査できるようなシステムの実装を義務づけるのだ。面白いのは、音楽業界は常にユーチューブに不満を述べているが、ユーチューブはすでにこのシステム、つまりコンテンツIDを実装しているのだ。だが、新たな法制では、その他すべての音楽共有サービスに対しても、このコンテンツIDのシステムを義務づける。小規模な業者にとってはシステムの実装はコストがかかりすぎるため、おそらく、グーグルからライセンスを受ける必要が出てくる。結局、グーグルはより強力になっていくのだ。

実際に、ユーチューブの"コンテンツID"への投資額は6000万ドル(61億円)を超すという。

そして、創作の現場に、深刻な影響を及ぼしかねない、と。

音楽業界にとって、この法制のメリットが何なのかは定かではないが、リミックスやマッシュアップの文化にとっては、危険なことだと思う。あるビデオの中に、音楽の一部が含まれていることがわかっても、それが直ちに著作権侵害を意味するわけではない。それは著作権の例外規定に沿った、正当な使用なのかもしれない。だが、アルゴリズムでは、その2つの違いが判別できない。

さらに、この方向性に強く異議を唱える。

結局、欧州委員会は、著作権法制の簡略化とEU全域における調和を目指した当初のゴールから、かなり遠いところへと漂流してしまったことは明白だと思う。これはエンターテインメント業界からの膨大な圧力によるものだ。この議論を正しい軌道に戻すことができるかどうかは、インターネットユーザー、研究者、ライブラリアン、ネットベンチャー、そして欧州議会にかかっている。

レダさんは、「ステートウオッチ」の文書公開を受けて、26日に自身のブログを更新。「エッティンガー委員はEU著作権改革をもう一つのACTAにしようとしている」とのタイトルで、強い調子で批判している。

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ギュンター・エッティンガーさんは、欧州委員会で著作権改革を担当する委員。模倣品、海賊版、違法ダウンロードの取り締まりを強化する「模倣品・海賊版拡散防止条約(ACTA)」は、インターネットの自由を制限するとして、欧州で強い反対運動が起き、2012年に欧州議会が批准を否決している

つまり、欧州委の方向は、インターネットの自由の制限につながるものだ、と。

エッティンガー委員は出版、映像、音楽業界に著作権改革を乗っ取らせ、古いビジネスモデルを進歩から保護しようとするものだ―クリエイティビティや表現の自由、ベンチャーによるイノベーションの権利、そしてデジタル国境を取り払うEUの理念などの、悲劇的な代償と引き換えに。

●疑問の声が沸き上がる

電子フロンティア財団(EFF)は、「ステートウォッチ」による文書公開を受け、早速声明を公表

レダさんと同様に、改革の方向性に疑問を投げかける。

フィナンシャル・タイムズも、「機能するのか」と指摘し、こう見立てる。

パブリッシャーの料金請求権をEU全域で認めるというオプションを導入することで、委員会は、グーグルのような企業に、より恭順の姿勢を取らせることを望んでいる。

欧州とグーグルなどのグローバルプラットフォームの、対立の根は深い。

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(2016年8月28日「新聞紙学的」より転載