新聞社から新聞が追い出される:たった1週間で一変した米メディア界

たった1週間で、米メディア界の様相が一変した。新聞社が収益の見込めるテレビとデジタル部門を残し、苦戦が続く新聞部門を分割する動きが、昨年からじわじわとは広がっていた。それが、残る大手も雪崩を打って、一気に完了してしまったのだ。
The New York Times

たった1週間で、米メディア界の様相が一変した。

新聞社が収益の見込めるテレビとデジタル部門を残し、苦戦が続く新聞部門を分割する動きが、昨年からじわじわとは広がっていた。それが、残る大手も雪崩を打って、一気に完了してしまったのだ。

分割された新聞の新会社は、テレビ/デジタルの収益から切り離された〝孤児〟となった。

これは緩慢な〝安楽死〟へと向かう道筋か、新聞が生まれ変わる最後のチャンスか。

ウオッチャーたちの見立ても、大きく割れている。

●合併と分割を同時に

口火を切ったのは、新聞とテレビをそれぞれ抱えるE.W.スクリップスとジャーナル・コミュニケーションズだ。

7月30日付けでこんなリリースを出した。

何をいっているのか、一読してもよく分からないだろう。

E.W.スクリップスは、21のテレビ局運営と13都市での新聞発行を行う。一方のジャーナル・コミュニケーションズは14のテレビ局、35のラジオ局を運営、さらにミルウォーキー・ジャーナル・センチネルなどの新聞を発行している。

この合併(と分割)により、互いのテレビ事業を統合して新E.W.スクリップスとし、互いの新聞事業も統合するがこれはジャーナル・メディア・グループという名前の新会社として分割する、というものだ。

移行が完了するのは2015年の予定。

●その翌日に最後の大手

これに先立つ7月9日に、新聞部門の分割を表明していたトリビューンは、8月4日に、その分割が完了したと発表する。

その結果、42のテレビ局を擁するトリビューン・メディアと、ロサンゼルス・タイムズやシカゴ・トリビューンなど新聞10紙とウェブサイトを運営するトリビューン・パブシッシングが誕生した。

そして、最後に残った大手、ガネットの行方が注目されたが、まさにトリビューンの翌日、8月5日に新聞部門の分割計画を発表する。

この計画では、46のテレビ局と、デジタル部門を擁する新会社(名称未定)と、USAトゥデーと81のローカル紙などを発行する新ガネットへの移行を、年内に完了させるとしている。

また、この日の発表では、さらに他社と共同所有していた大手自動車サイト「カーズ・ドット・コム」を100%所有とすることも表明。新会社のデジタル部門は、これと合わせて大手就職サイト「キャリアビルダー」を運営することになる。

タイム・ワーナーも、2013年3月に表明していた出版部門、タイムの分割完了した、と今年6月9日に公表している。

●新聞事業の〝孤児化〟

ちょうど1年前、2013年8月5日のニュースは、アマゾンCEO、ジェフ・ベゾスさんによるワシントン・ポストの買収発表だった。

IT富豪と新聞の組み合わせは業界にインパクトを与えた。だが、オーナーだったグラハム家から見れば、これはポストを含む新聞部門の切り離しだ。

グラハム・ホールディングスと名前を変えた本体は、テレビ局、ケーブルTV、デジタル(スレート)、ソーシャルマーケティング(ソーシャルコード)、教育事業(カプラン)を抱えるメディア企業だ。

これに先立つ昨年6月27日、ニューズ・コーポレーションも、2012年6月28日に表明していたテレビ/デジタル部門の21世紀フォックスからの、新聞部門ニューズ・コーポレーションの分割完了したことを明らかにしていた。

一方で今年8月5日には、その21世紀フォックスがタイム・ワーナー買収に動きながら、結果的に断念。米メディア界の動きの激しさを見せつけた。

●自然の秩序

この動きを、ニューヨーク・タイムズのメディアコラムニスト、デビッド・カーさんはこうまとめている。

テレビが驚くほどうまくいっているビジネスというわけではないが(多くの問題に直面している)、新聞と雑誌は、どんなに経営に注力しても、縮小し、ビジネスもジャーナリズムも野心的ではなくっていくのは明らかだ。

カーさんは、さらにこんな読み解きをする。

これは誰の失敗だ? 誰でもない。基本的には何も悪くない:自由市場経済が、資本をより効果的に使えるよう再配分に動いている。よくあることだ。コダックに聞いてみろ。(破綻したDVDレンタルの)ブロックバスターに。あるいはパソコンメーカーに。製品が紙に印刷したニュースだということは、それを神聖視したり、自然の秩序とは無縁でいられる理由ではない、ということだ。

そして、コラムはこう終わる。

地元の新聞が全く姿を消しても、人々はそれに気づいたり、気にかけたりするだろうか? 私は楽観的ではない。

●再生のチャンス

これにかみついたのがニューヨーク市立大学ジャーナリズムスクール教授でブロガーのジェフ・ジャービスさんだ。

これは我々の失敗だ。他の誰の失敗のはずがある? 我々ジャーナリスト、新聞発行人、ジャーナリズムスクールが、ジャーナリズムの無責任なしもべだったということだ。我々は信頼とキャッシュフローを浪費してきたのだ。

ジャービスさんは、バイラルメディアのバズフィードが、著名ベンチャーキャピタルのアンドリーセン・ホロヴィッツから5000万ドルの資金調達をし、著名投資家で同社のゼネラルパートナー、クリス・ディクソンさんが取締役としてバスフィードに参加するというニュースを引き合いに、こう述べる。

だがメディア企業にとっては今週、いいニュースもあったんじゃないか? バズフィードはアンドリーセン・ホロヴィッツから5000万ドルの資金調達をした。私はベンチャーキャピタルはコンテンツに投資をしないと思っていた。なぜならコンテンツ産業はシラミみたいなものだから、違うか? しかし、バズフィードの新取締役、クリス・ディクソンは、投資の理由を、バズフィードがメディア企業じゃないからだ、と述べている。「我々はバズフィードのことを、よりテクノロジー企業のように考えている」

そして、カーさんの〝自然の秩序〟説を否定する。

違う。市場原理は、運命論やさらには自殺の言い訳じゃない。市場原理は、再生のチャンスだ。コンテンツと紙と新たなジャーナリズムをめぐる、旧メディアのあるべき姿について、まだ誰もチャレンジをしていないし、そのための時間は残っている。

現実的な成り行きも、この2人の見立ての間のグラデーションの、どこかなんだろう。

(2014年8月13日「新聞紙学的」より転載)

注目記事