偽ニュースを発信しているのは誰だ。その手がかりは?

細かい確認も、偽ニュースの判断には役に立つ。

米大統領選を通じて、広く知られた偽ニュースサイトが、矢継ぎ早に記事を削除したり、サイト自体を閉鎖したりしている。

偽ニュースへの批判が集中し、フェイスブックグーグルが対策に手を打ち始めていることに加え、メディアがサイトの運営者を割り出し、その実態を次々と公表したことも影響しているようだ。

偽ニュースの実態については、これまでも何度か取り上げてきた。

ただ、その実態を探り出す方については、細かくは触れてこなかった。

ドメイン名の登録状況、サイトの開設時期、グーグル・アドセンスのID、画像の出典...

これらは、ネットにおけるファクトチェックの手法とも重なる。

こういった確認を丹念に行うことで、偽ニュースのネットワークの一端が明らかになる。

●ドメインの登録状況を調べる

ガーディアンのダン・タイナンさんは8月、東欧・マケドニア中部の都市、ヴェレスから、トランプ氏支持のサイトなど150ものドメイン名が登録されていた、と報じた。

その後、11月にはバズフィードのクレイグ・シルバーマンさんらも、マケドニア発の偽ニュースサイトを取り上げている。

この時、ガーディアンやバズフィードが使ったのは、ドメイン名から登録情報を検索する「whois(フーイズ)」検索のサービスだ。

ガーディアンは、一部無料のサービス「ドメインツールズ」を使ったようだが、ドメイン名の国際機関「ICANN」が提供しているものもある。

これでドメイン名をチェックしてみると、すでに登録が削除されていたり、登録代行業者を介して実際の登録者は匿名になっていたりするものも多い。だが、丹念に探していくと、登録者名、住所、電話番号、メールアドレスなどに行き当たることもある。

バズフィードが取り上げた「コンザーバティブステート」を調べてみると、マケドニアのヴェレスが登録者の住所になっている。

ガーディアンやバズフィードは、これらの情報を調べ、判明した連絡先にコンタクトをとり続けたようだ。

また、ワシントン・ポストのケイトリン・デューイさんは11月17日、「反トランプのデモ参加者が3500ドルを受け取っていた」という偽ニュースで知られる偽「ABCニュース」サイトの運営者、ポール・ホーナーさんのインタビュー記事を掲載している

この偽「ABCニュース」についても、「whois」の登録情報を調べてみると、ホーナーさんにたどり着くことができる。

●サイトの開設時期

今回の大統領選を巡る偽ニュースサイトの特徴の一つは、特に11月8日の投開票日を目がけたように、急ごしらえで開設されたものが多いという点だ。

「whois」からは、登録者の情報と合わせて、ドメイン名の登録時期もわかる。

「コンザーバティブステート」の場合、ドメイン名登録は米大統領選終盤の9月3日。

サイトのトラフィックを調査しているアマゾン傘下の「アレクサ」で調べると、データがあるのは10月下旬から。その後、ランキングが急上昇している。

偽「ABCニュース」も、ドメイン名登録は2015年10月末。サイトのトラフィックは今年1月末ごろから上昇している。

●ハンドルネームを手がかりに

公共ラジオ「NPR」のローラ・サイデルさんは、外部専門家のジョン・ジャンセンさんとともに選挙後、有名な偽ニュースサイト「デンバー・ガーディアン」の運営者を割り出し、記事にしている。

クリントン氏流出メール担当のFBI捜査官、無理心中」の偽ニュースで知られるサイトだ。

そして「whois」情報は登録仲介業者を通して匿名になっている。

サイデルさんらは、このサイトのエントリーに使われていた「LetTexasSecede(テキサスの分離を)」というハンドルネームに着目した。

このハンドルネームでグーグルを検索すると、500件近い検索結果が出てくる。

その中には、「ローマ法王がバーニー・サンダース氏支持」という、昨年の日付の偽ニュースも含まれている。

サイデルさんらは、同じハンドルネームで開設されていた同様の偽ニュースサイトを次々にチェック。

その一つにあったメールアドレスから、ロサンゼルス郊外に住む運営者に行き着いた。

●アドセンスIDをたどる

バズフィードのシルバーマンさんらは、さらに、大統領選をめぐる偽ニュースで最も有名になった「ローマ法王がトランプ氏を支持」を最初に流した「WTOE5ニュース」の運営者も特定した

ここで使ったのは、グーグルの広告配信ネットワーク「アドセンス」を利用する際に割り振られる「アドセンスID」だ。

全く無関係に見える多数の偽サイトがあっても、広告収入の元となる「アドセンスID」が同一であれば、運営者もまた同一である可能性が高いためだ。

「WTOE5ニュース」と同一の「アドセンスID」を使っているサイトを、分析サイト「キュートスタット」で調べると、28サイトが確認できる

ただ現時点では、サイトそのものにつながらないものもいくつかある。アクセスできるサイトは、ほぼ同じような名前・デザインで同じコンテンツを使い回している。「アドセンスID」はすっかり削除されているようだ。

シルバーマンさんらがそれらのサイトの「whois」登録情報を調べたところ、同一人物の名前があり、運営者に行き着いたようだ。

ちなみに、「ローマ法王」の偽ニュースを転載し、100万件近いフェイスブックのエンゲージメントを獲得した偽ニュースサイト「エンディングザフェド」を見てみると、これとは別の「アドセンスID」がふられていた。

アドセンスからの1カ月の収入は1万ドルほど」とワシントン・ポストのインタビューに答えていたホーナーさんの偽「ABCニュース」にも、「アドセンスID」は記載されている。

同じ「アドセンスID」で、やはり「ニュースエグザミナー」という偽ニュースサイトを現在も運営しているようだ。

●画像を確かめる

偽ニュースの検証作業の一つとして、証拠のように掲載されている画像がオリジナルのものか、ネット上にあるものをコピー、もしくは加工したものかを調べる手順がある。

最も一般的なのは、グーグルの画像検索の利用だ

「クリントン氏流出メール担当のFBI捜査官、無理心中」の偽ニュースでは、火災現場とおぼしき写真が使われていた

この画像をグーグル画像検索にかけて、調べていくと、写真共有サイト「フリッカー」上で公開されている、2010年撮影の写真であることがわかる。

こういう細かい確認も、偽ニュースの判断には役に立つ。

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■ダン・ギルモア著『あなたがメディア ソーシャル新時代の情報術』全文公開中

(2016年12月17日「新聞紙学的」より転載)

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