BLOG

「手術直後にわいせつ行為」起訴後も不当勾留中の外科医師の保釈を要求する

2016年12月05日 16時41分 JST | 更新 2016年12月05日 17時25分 JST

第1章 協力依頼の趣旨

2016年8月25日に準強制わいせつ罪の疑いで逮捕された柳原病院(東京都足立区)勤務の乳腺外科医師は、公訴提起(起訴)された後も身柄を拘束され、起訴後2か月以上 、逮捕から3か月近く経過した現在も東京拘置所の独房に勾留されています。

これまで弁護団は、4回にわたり保釈請求を行ってきました。しかし、勾留担当の刑事第14部(大野勝則部長)をはじめとして東京地方裁判所刑事部は、「具体的にその理由を附す」ことなく「罪証隠滅の虞(おそれ)」 を要件に勾留を継続し、保釈を認めません。

本件の資料や諸事情を充分に検討し勘案したところ、刑事訴訟法第60条第2項に定められた、起訴(公訴提起)後2箇月を経過した現時点において、これ以上の勾留期間更新の必要性はなく、保釈の相当性と必要性も明らかです。このままでは、個人の基本的人権を侵すことになる上、喫緊の現実問題として、ご家族が経済的困窮に追い込まれている状態です。

今後、仮に保釈が認められた場合も、その金額は2000万円程度とも予測され、8人からなる弁護団の費用や裁判準備費用など、諸経費も1000万円は優に超える額になると推測されます。

そこで、本稿読者には、裁判所に向けた「直ちに外科医師の保釈許可を求める署名活動」の支援、および設立した「外科医師を守る会」基金(ゆうちょ銀行 店名 〇五八(ゼロゴハチ) 店番058 普通預金 7045221)へのご協力をお願いします。「外科医師を守る会」の作成した(I)支援基金ご協力の呼びかけ文書(II)署名用紙(III)会則を添付いたします。

1.準強制わいせつ被告事件(平成28年(刑わ)2019号)の概要

2016年5月10日、乳腺外科専門医が右乳腺腫瘍摘出手術直後の患者診察の際に、健側の右乳首を舐め、一旦退室し、その後更に同人の右乳房を見ながら、陰茎付近をさすり自慰行為をするなど抗拒不能に乗じてわいせつな行為をしたという被疑事実をもって、千住警察署は、手術から任意取り調べを一回もすることなく、100日以上経過した8月25日に、突如として逮捕・勾留しました。

東京地方裁判所は勾留を決定し、東京地方検察庁は、9月14日に起訴しました。起訴状の公訴事実では、「乳房を露出させた上、その左乳首を舐めるなどし、もって同人の抗拒不能に乗じてわいせつな行為をした」とあり、逮捕時の勾留状の被疑事実の「自慰行為」は削除されています。

2.背景となる事実経過

2016年

5月10日 手術

7月7日 柳原病院が申入書(詳細な事実経過)を千住警察署に提出

8月25日 逮捕 (逮捕以前の任意取調なし)

8月27日 勾留決定

勾留決定準抗告⇒棄却

勾留取消請求⇒却下

8月28日 捜索差押(柳原病院)

被疑者自宅および所属医療機関捜索差押

9月4日 捜索差押(柳原病院・二回目)

9月5日 勾留理由開示公判 被疑者(外科医師)が被疑事実を否定

9月8日 第1回公判期日前証人尋問 A証人(医師) 2時間

9月9日 第2回公判期日前証人尋問 B証人(看護師) 2時間

9月14日 公訴提起(起訴決定)

9月16日 保釈請求 (刑事第14部)

9月21日 保釈請求 却下

9月23日 準抗告 却下

10月11日 保釈請求(二回目、刑事第14部)

10月13日 東京保険医協会 保釈嘆願書送付

10月14日 保釈請求 却下→準抗告 却下

11月14日 起訴(公訴提起)後2箇月

3、4回目の保釈請求も却下され11月20日に初公判が予定。

第2章 協力依頼の理由

はじめに

私は、2002年の東京女子医大心臓外科手術事件で逮捕・勾留・起訴され、勾留90日にして保釈金2000万円を払わされ、冤罪を晴らすために7年以上を費やした経験があります(ちなみに、保釈金は3年後の一審無罪判決でその額のまま返還され、3年間の利子などありません)。この経験や、福島大野病院事件が医療崩壊を誘発したことなどから、異常に増加した医療刑事事件を抑制する活動をしてきました 。

当該柳原病院では逮捕直後から5人の医師を呼びかけ人として「外科医師を守る会」が立ち上がり、保釈を求めてきました。これに対し、今回の外科医師の身柄拘束は、麻酔薬等を用いる各医師個人の基本的人権にかかわる問題であることから、私個人だけでなく東京保険医協会において何回も開催された勤務医委員会や理事会、複数の医師弁護士のダブルライセンサーや医療に詳しい法律家や法律に詳しい医師らからなる複数の団体メンバーらと検討してきました。

また、被害を訴える患者さんを尊重しつつ、主任弁護人や柳原病院の事務局と複数回お会いし、客観的な事実や可能な限り正確な証拠収集を慎重におこない充分な討論を行ってまいりました。

さらに、外科医師が勾留されている東京拘置所に通い、被告人となった当事者本人との接見を数回にわたり繰り返し、ご家族らから何回も事情を聞いてまいりました。

無罪か有罪かの判断はもっぱら裁判所にゆだねられるものです。また、麻酔薬の薬理効果およびベッドサイドの診療現場の状況を日常臨床の場で知る私にとって、本件の勾留状の被疑事実も、これとは犯行態様が変遷した起訴状の公訴事実も真実でないと確信的に考えておりますが、この公訴事実が合理的な疑いを差し挟む余地のない事実であるかどうかについては、裁判所が厳正な手続きと慎重な審理によって必ずや正しい判断をされると信じています。

一方で、勾留更新・延長の必要も理由もなく、保釈の相当性と必要性が存在するについては絶対的に明らかであると私は判断しています。これまでの東京地方裁判所の保釈請求却下決定では、「罪証隠滅の虞(おそれ)がある」とされてきました。しかし、諸事情を勘案すれば、外科医師が実効性のある罪証隠滅行為に及ぶという、具体的な可能性を示唆する根拠は存在しません。

むしろ、公訴提起され2箇月が経過した現在においては、とうに捜査官において証拠が収集されておりますし、また起訴前の証人尋問によっても裁判所における証言が得られていることからして、「具体的な」証拠隠滅の可能性は想定できません。他方、このような状況の中で医師が逮捕勾留され、しかも、起訴後においても勾留が継続するのでは、外科医師の基本的人権が侵害され、また医療行為をなし得ないという医師としての極めて重大な不利益が認められるのみならず、類似の医療行為、類似の薬品を扱う保険医に極めて深刻な萎縮作用が生じかねません。

したがって、このまま身柄を拘束し続けることについては断固として反対し、10月14日には、私個人だけでなく東京保険医協会の総意として外科医師を直ちに保釈することを東京地方裁判所長、刑事部長、刑事第14部部長(勾留担当)、刑事第3部部長(公判担当)に嘆願書を提出し、司法記者クラブで記者会見をしました。

以下協力依頼の理由の詳細を述べます。

第1 罪証を隠滅するおそれがないこと

1.起訴状の公訴事実と勾留状の被疑事実では犯行時刻・時間・態様が変遷していることから必要な捜査が終了していると判断されること

勾留状の被疑事実と起訴状の公訴事実は以下のように整理できます。

(1)犯行時刻・時間:

被疑事実 (I)午後2時45分から50分まで(II)午後3時7分から12分頃まで.

公訴事実 午後2時55分から3時12分頃まで.

(2)犯行態様:

被疑事実 (I)乳首を舐めた.(II)陰茎付近をさすり自慰行為をした.

公訴事実 乳首を舐めるなどした.

これらを検討すれば、21日間の逮捕・勾留期間中には、検察官による捜査と要求によって、外科医師本人や被害を訴える患者さんからの供述、当該柳原病院の医師や看護師ら病院関係者の異例ともいえる期日前証人尋問を経て、自慰行為の存在は麻酔後の譫妄による誤解だと判断されて落とされたものと推測されます。患者さんの供述の変遷をもとに検察官がこの判断がされたのであれば、その供述者の信用性が減殺されるのが当然であることはさておき、被疑事実を翻すほどの充分な取調は終了しているといえます。

2.証拠調べには相当な時間の経過からも必要な捜査が終了していること

警察官は犯行があったとされる本年5月10日当日から捜査を開始し、8月25日逮捕までの107日間で、国家権力をもつ警察組織として医師逮捕勾留に踏み切るために充分で捜査を行ったはずです。また、警察、検察ともに、起訴までの21日間にわたり集中的に捜査を追加し、結果として検察官は、公訴を提起(起訴)しました。

したがって、仮に物的証拠収集が存在したとしても診療録など病院側が保持する客観的な証拠や外科医師の自宅や常勤病院における捜査などはすでに捜査機関による調べが終了しているはずであり、改竄などによる物的証拠隠滅は不可能です。すなわち、今後も罪証隠滅が可能な新しい物的証拠が出現する可能性はないはずです。

かろうじて罪証隠滅として推定されることは、被害を訴える患者さん自身や病院関係者への働きかけによることのみであり、前記の収集された証拠からすれば、今後、外科医師が患者さんや病院関係者に働きかけることは具体的には想定されず、将来的にも想定できる「具体的な」証拠隠滅の可能性はありません。

しかし、公判開廷後も法廷での患者さんへの被害状況の尋問が予想されるうえ、当事者の供述については起訴までに警察、検察ともに調書の作成を終了しているはずです。また、病院側関係者についても同様で、検察官は証人尋問を要求してそれに応じた法廷において供述や事情聴取は終了しているはずです。

3.証拠隠滅の意志はなく阻止が可能であること

以上で述べてきたように、外科医師が実効性のある罪証隠滅行為に及ぶという、具体的な可能性を示唆する根拠は存在しません。万が一、患者さん自身などに働きかけて被告人に有利な供述をするという疑いを持っているのであれば、すでに外科医師が弁護人を通して誓約したように、裁判所が、患者さんに接触を禁ずる旨の保釈条件を提示すればよいはずです。

しかも、外科医師は保釈等に伴い、弁護人等から禁止事項の遵守に関する説明等をうけますから、患者さんや病院関係者に働きかけることが保釈取消しになること、ひいては無実を訴える外科医師の供述の信用性を損なうこと等について十分に承知するはずです。自ら、無罪の可能性から遠ざかる行動をするはずがありません。

また、柳原病院関係者については、すでに同院のウエッブサイトのホームページで患者さんの訴えていることに対して齟齬があることを明らかにしているので、外科医師の働きかけによる口裏合わせなどによる罪証隠滅をする必要性はすでになく具体的な実効性もありません。それでも疑うのであれば、患者さんと同様に病院関係者とも接触を禁ずる誓約をさせればよいはずです。

第2 基本的人権を侵す上、医療崩壊を誘発する社会的問題でもあること

1.基本的人権を侵すこと

そもそも勾留状では、住所不定や逃亡を勾留理由としていませんので、勾留当初から罪証隠滅の疑い以外には勾留の要件はありません。したがって、上にみたように現時点において罪証隠滅の「具体的な」可能性を示唆する根拠がないので、勾留理由が存在しないことになります。

東京地方裁判所が、充分な証拠をもって実効性がある「具体的な」罪証隠滅の可能性を示すか、別の勾留要件を示さないのであれば、国民の裁判所に対する信頼感にも疑問が生じることになります。

勾留や保釈を定める刑事訴訟法には、「左の各号の一にあたるときは、これを勾留することができる。」(同法60条1項柱書き)、「勾留の理由又は必要がなくなったときは、裁判所は、(略)職権で、決定を以て勾留を取り消さなければならない。」(同法87条1項)、「保釈の請求があつたときは、次の場合を除いては、これを許さなければならない。」(同法89条柱書き)、「裁判所は、適当と認めるときは、職権で保釈を許すことができる。」(同法90条)等と定められており、起訴後における身体拘束は極めて例外的な場合にのみ許されることは法律上明らかなのではないでしょうか。

さらには、「勾留の期間は、公訴の提起があった日から2箇月とする。特に継続の必要がある場合においては、具体的にその理由を附した決定で、1箇月ごとにこれを更新することができる。」(同法60条2項)との記載からすれば、現時点における保釈は当然なのではないかと考えます。

私は、法律の専門家ではありませんが、すべての国民の人権に関わる法律においては、文言どおりに法解釈、法適用をされることこそ、司法に対する信頼感が生まれるのではないでしょうか。

なによりも、推定無罪の原則からして、被告人が公訴事実を否認しているとしても、恣意的かつ漠然的で具体性のない勾留理由により、一個人に対する不必要な身柄拘束をすることは身体的・心理的・経済的不利益を生じさせることになります。人道的にも容認できることではな