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人工知能 x 次世代マーケティングはマルチラリティをもたらすか(前編)

2016年08月31日 01時54分 JST | 更新 2016年09月06日 16時23分 JST

iPhone、Android端末などスマートフォンの発展とクラウドコンピューティングの普及に伴い、人工知能(AI)の焦点とされるディープラーニング(深層学習)は、日常の場面で適応が進んでいます。こうしたなか、消費者が企業のマーケティング活動を通じて自己実現をかなえるという次世代マーケティングがどう具体化するのか。そして、人工知能が人間の脳の処理能力を超える特異点、いわゆるシンギュラリティが個々人それぞれに訪れるというマルチラリティはどうやって訪れるのか...。

5月20日(金)に開催された、筆者がボランティア運営委員を務める次世代マーケティングプラットフォーム研究会(NMPLAB) 第8回総会をもとに考察します。今回の総会テーマは、前回の出席者アンケートで決まった「AI-人工知能」。過去最大規模の参加者数から、その注目度の高さがうかがわれました。この前篇では、マーケティングと人工知能の歴史をひも解き、関連性に着目します。

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次世代マーケティングプラットフォーム研究会(NMPLAB)とは、発起人の株式会社アイ・エム・ジェイ執行役員CMO江端 浩人氏を中心に、ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院SCジョンソン特別教授フィリップ・コトラー氏が提唱するこれからのマーケティングのあり方を研究する会。

東京を拠点に、Facebook上で3,842名(5月20日現在。8月26日に5,000名を突破)が集うボランティア運営の団体として、旬なテーマを巡り識者と議論を深める研究会を実施しています。

コトラー氏は来る2016年10月14日(金)・15日(土)、広島市内でビジネスと平和構築のあり方との関係を議論する「2016国際平和のための世界経済人会議」(実行委員会会長:湯﨑英彦 広島県知事)に参加予定。「より良き社会に向かうために人を動かす学問がマーケティング」(出典: 5月30日 日経MJ「広島訪問、コトラーも――マーケティングで平和を(斜光線)」)と語る氏の来日により、本研究会もさらなる盛り上がりが期待されます。

1.デジタル&ソーシャルで自己実現をかなえるマーケティングへ

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今回の開会挨拶に先立ち、江端氏が過去1年半におよぶNMPLABの活動を紹介するビデオ上映。バックグラウンドでコトラー教授の肉声で、日本のビジネスパーソンにデジタル時代の新しいマーケティング活動を呼びかけるメッセージが流れました。続けて会の研究趣旨説明。次世代マーケティング、マーケティング4.0とは、コトラー教授が、World Marketing Summit 2014で必要性を説いた、マズローの欲求5段階説の第4段階にあたる、自己実現の欲求を満たすマーケティングのことです。

マーケティングの変遷を辿ると、1.0は消費者の生理的、安全の物理的な欲求に応えるカタログによる製品差別化の段階、2.0は消費者の所属、愛の欲求に応えるよう心をつかむブランディングの段階。3.0は消費者の承認、尊重の欲求に応えるよう精神をつかむCSR活動やクリーンな企業イメージ重視の段階。4.0の段階、消費者の自己実現の欲求に応える時代を迎えた今、消費者が製品開発や改善に関わりながら企業と新たにつながる過程が生まれています。

こうして消費者の自己実現がマーケティングと連動する背景には、デジタルとソーシャルの関与があります。World Marketing Summit 2015でコトラーが「Digitalize or Die (デジタルか死か)」(参考:2015年10月28日AdverTimes「Digitize or Die: ワールド・マーケティング・サミットで見えてきたマーケティングと経営の融合」)と唱えたとおり、企業はデジタル革命に乗り遅れると生き残れない。

そして今回のテーマAIは、そのデジタル革命の重要な一角をなすものです。

2.人工知能の過去、現在、未来

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キーノートスピーチには「人工知能は私たちを滅ぼすか」の著者、児玉 哲彦氏が登壇。去る3月に韓国で開催された囲碁の対局では、Google(傘下で人工知能を研究するDeepMind)が開発したAI「アルファ碁(AlphaGo)」がプロ棋士に圧勝しましたが、それは折しもその出版の前夜だったほど連日、人工知能の話題が尽きない昨今。児玉氏は、AIとともにこれからマーケティングがどう変わるのか、という視点で基調講演。著書のエッセンスを織り交ぜながら、人工知能の過去、現在、未来を俯瞰して、マーケティングについての考察を述べました。

  • 人工知能を生んだ計算機

歴史を振り返ると、人工知能の歴史は軍事技術と深く結びついてきました。映画「イミテーション・ゲーム」の主人公、数学者アラン・チューリング氏が1941年、計算機によりあらゆる計算機を模倣(シミュレーション)するエミュレーターを積んだ「チューリングマシン」(今日のコンピュータのもととなる概念)を作り、これに則ってナチスの暗号が解読されました。チューリング氏は、機械はほかの機械だけでなく人の神経や心まで模倣できると考え、機械を人間と対話させ審判が判別できるかをみるチューリングテストを考案し、計算による人工知能を考えだしました。

そして1945年、数学者ジョン・フォン・ノイマン氏が、ナチス打倒のためアメリカで最初のチューリングマシンの原理に基づく大規模なデジタルコンピュータ「ENIAC」の開発に携わり、その経験に基づいて今日では「ノイマン型コンピュータ」と呼ばれるデジタルコンピュータの設計指針をまとめ、原爆の計算、水爆の開発などに携わりました。ちなみにこのノイマン型コンピュータは今日のiPhone、Android、Mac、Windowsなどの設計の基礎となっています。

1940年代~1950年代は、ノイマン氏も関わった「サイバネティクス」、生物がおこなう制御を機械で模倣するという理論が盛り上がり、これに則して「ニューラルネットワーク」の開発が行われました。ニューラルネットワークとは、チューリングマシンで人間の神経細胞(ニューロン)の仕組みをまねる手法です。これにより、計算によりあらゆるものを模倣できるという仮説が正しいと受け止められました。

後にこのニューラルネットワークの技術が、今話題のディープラーニングの基礎となりました。しかしこの時代、十分なデータを集めること、十分な計算力を持たせることが難しくニューラルネットワークの研究は進みませんでした。

  • ムーアの法則とメカトーフの法則

1960年代に入ると、ゴードン・ムーア氏の「ムーアの法則」が登場し転機を迎えます。ムーアの法則は、コンピュータの処理能力をつかさどる中央演算装置(CPU)、半導体の集積度は2年で2倍になる、40年で100万倍になるというものです。これがパーソナルコンピュータとインターネットの原理につながり、インターネットはDARPA(アメリカ国防高等研究計画局)のもと脳科学者、心理学者が主導的な役割を果たし発展しました。

1980年には、今日も現役のネットワーク規格Ethernetを開発したボブ・メトカーフ氏が、「メトカーフの法則」を発見します。これは、ネットワークの価値はつながっている端末(ノード)の数の2乗に比例して指数関数的に上がる、というものでインターネットの発展を支えました。

さらに1992年、「インターネット」の商用接続に伴い、ティム・バーナズ・リー氏がインターネット上で誰もが情報が見られるようにする仕組み、WWW (World Wide Web)を発表。アラン・チューリング氏とともに最初のコンピュータを作った両親の影響を受けたバーナーズ・リー氏は、(通説となっているクモの巣ではなく)細胞同士がその時々で結合して偶発的に連結するような神経網にならった情報ネットワークを設計したのでした。

1996年には今や時価総額世界一、人工知能を支えるクラウドコンピューティングのバックエンドを作り、AI企業の代表格となろうとしているGoogleの誕生。人工知能研究者でもあった指導教官テリー・ウィノグラード氏を師とする創業者ラリー・ペイジ氏らが立ち上げたGoogleはWeb情報の解析、検索から事業を発展させ、2015年36億ドル、約4200億円(参考:2016年3月25日DIAMOND online グーグルはなぜ、人工知能に莫大な投資を行うのか?)を検索以外に投資し、人工知能の開発に邁進しています。

人工知能が目に見える形、フロントエンドのパーソナルコンピューティング分野では2003年に脳科学者ジェフリー・ホーキンズ氏が世界で初めてのスマートフォン、Palm(パーム)を発表。これは人間の脳の仕組みを研究して手書き文字認識の精度向上を図り、成功した製品でした。

そして2012年、ニューラルネットワークの概念を型(パターン)に落とし込んで機械に学習させるパターン認識の仕組みとしてジェフリー・ヒントン氏が開発した「ディープラーニング」(深層学習)の技術が、「画像認識」と「音声認識」の精度を劇的に向上させました。ヒントン氏のパターン認識により、画像認識ではイギリスで開催された国際的なコンペティションでぶっちぎりの優勝。音声認識では、マイクロソフトがその精度を想定の4倍(5%が25%)に向上させ、この年、ディープラーニングが一躍脚光を浴びました。

ディープラーニングはその元になっている原理が最初に提案された1986年から約30年かけて、今年のアルファ碁の人間への勝利につながりました。これは、パターン認識で計算量を劇的に減らすことで、不可能と思われていたことを可能にしたものでした。

今後2〜3年にかけ、論文や学会をにぎわせている「自然言語処理」は、ディープラーニングのパターン認識を言語、音声に用いています。自然言語処理は、AppleのSiriほか、Googleフォトの撮影された対象物を自動的に分類してくれる仕組に用いられ、恐ろしさを覚えるような精度をみせています。

  • スマートフォンとクラウドコンピューティング

なぜ今、人工知能が1940年代からの歴史をもって結実してきているのか。それはスマートフォンとクラウドコンピューティングによるといえます。計算手法そのものが大きく変わっていたのでなく、膨大なデータがスマートフォンのような様々な機器から収集されるようになったこと、その膨大なデータを計算能力を並列化して処理できるようになったことが要因です。

IntelのCPUは、1971~2011年の40年間で35万倍(ムーアの法則の誤算の範囲)の性能向上を、微細化により集積度を上げることで実現しています。Googleがクラウド上にもつコンピュータは500万台〜1000万台分といわれるCPUを搭載しています。つまり、1970年代と比較して人々が使える計算量は35万倍x1000万台(3兆5000億)分も増加しています。そしてインターネットに接続するコンピュータは1975年~2015年で1000台から10億台へと、40年間で100万倍へと桁違いの延びを見せています。

この40年間区切りの未曾有の計算能力の伸びと、2010年に10億個を超えたウェブサイトなどによるデータが相まって、人工知能を成長させたといえます。

  • AIを取り巻く産業構造

AIを取り巻く産業構造でいうと、アメリカは官(政府、軍)が大きな予算を研究に投じて学術機関(スタンフォード、MIT、SRIインターナショナル、Xeroxのパロアルト研究所など)を支え、その研究成果に産業界(Google、Appleといった大企業)が莫大な予算をつけて大きく事業化し、そこから得た資金がまた研究に回る、というトライアングル関係による技術開発、産官学連携ができています。アメリカでは、研究開発において政府、軍が大きな役割を担い、DARPA(アメリカ国防高等研究計画局)がインターネット、インターネット、コンピュータ、半導体、GPS、AI、Siri、ロボティクスチャレンジなどを次々と生んでいるところが特徴的です。

一方で日本は、文部科学省が概算請求で、人工知能/ビッグデータ/IoT/サイバーセキュリティ統合プロジェクトに100億円新規予算(参考:情報科学技術委員会(第91回) 議事録)を割り当てています。民間では大手としてはトヨタ、リクルートなど、またベンチャーではトヨタ、ファナックなどのファクトリーオートメーションのAIを担うプリファードネットワークス、などが人工知能の開発における存在感を示しています。

  • モラベックのパラドックス

今後の人工知能のロードマップを展望すると、人間の成長と逆をいく「モラベックのパラドックス」に則ると予想されます。

人間は、赤ちゃんがまず身体をばたばたさせて周りを認識し、それから耳や目でパターン情報を認識するようになり、成長に伴って言語や数字による記号情報処理をするようになります。反対に、コンピュータは、そもそも数学の記号情報処理をするために開発され、人間と逆の発達段階を経て今、パターン認識によるディープラーニングで人間以上のパフォーマンスを出せるようになってきています。

とはいえ今日でも、機械に現実の空間で運動をさせることは最もむずかしく、介護、肉体労働などでロボットが活用するのはまだ先と考えられています。

実際のライフスタイルの場面でみると、人工知能はすでに様々な分野で応用されています。フィットネスにおいては、Apple Watchなどのウェアラブル端末が、消費カロリーを図ったり運動を促したりといった機能を提供して広く使われています。

投資では、