デジタル経済のなかで企業はどう信頼(再)構築できますか?

学んだものは未来に手ごたえを感じさせるものでした。

師走最初の金曜日12月2日、大きく報道されたWELQをはじめとするDeNA社のキュレーションメディア休止、記事の非公開化は、ソーシャルメディアの悪用例として情報を扱う企業、個人を震撼させています。ソーシャルメディアの仕組みや技術、シェアリングエコノミーをなすクラウドソーシングなど、社会に益をもたらすべきものを一企業の利益のために濫用した悲惨な例として、わたし自身PRに従事するものとして他山の石にしないよう心に刻みます。

一方で、同じ日にあった講演と、そこから学んだものは未来に手ごたえを感じさせるものでした。

ここでは手短に、この2時間半ほどの講演のエッセンス、下記の3つのローンチ、わたし自身のポジションを鑑みた考察を述べます。

次世代マーケティングプラットフォーム研究会第10回総会

この日、筆者がボランティア運営委員を務める次世代マーケティングプラットフォーム研究会第10回総会が開催されました。

今回のテーマはアンケート結果で決まった「B to Bマーケティング(アカウントベースドマーケティング(ABM)、データドリブンマーケティング)」。

ABMがBtoBマーケティングのバズワードとして注目度が上がるなか、日本ではまだ数少ない専門家、実践者、リサーチャーが登壇するこの会に、夜にも関わらず100名を数えるマーケターが集まりました。

3つのローンチ

今回の総会は、2冊の本と1つの"カード"がでるタイミングでした。

本のひとつは、本研究会のきっかけとなった現代マーケティングの父、ノースウェスタン大学Philip Kotler教授の「Marketing 4.0: Moving from Traditional to Digital」。

もうひとつは、本総会のキーノートスピーカー、シンフォニーマーケテイング株式会社 代表取締役 庭山 一郎さんの「究極のBtoBマーケティング ABM(アカウントベースドマーケティング)」(12月7日発売予定)。

そして"カード"は、本総会のパネリストの一人、B2Bハック.コム創設者 B2Bハッカー 飯室淳史さんの「B2Bハックカード」β II(10枚タイプ)でした。

B2BハックカードβII #b2bhack

  • PRに関する問題意識(ポジション)とABM

そもそもわたし、本業はPR(コーポレートコミュニケーション、広報)の企業コンサルの立場ですが、なぜマーケティングプラットフォーム研究会の運営をボランティアで務めるか、動機はというと、PR(という言葉や行為)がソーシャルメディアの普及とともに氾濫する一方で、本義的な "企業が関係者(ステークホルダー)と信頼構築する活動" に紐づいていないものも多いことへのジレンマの解消を狙うためです。

言葉は生き物なので、企業の信頼構築のためのコミュニケーション活動の呼び名は、PRでもペンパイナップルでもなんでもいいというのが私見なのですが、企業が長期的視点でとるべき戦略を再考すべき時では、という課題意識があります。パブリシティ、メディアリレーションを中心にしてきたPRを、メディアを単純にトラディショナル+デジタル(ソーシャル含む)と接ぎ木するのではなく、マーケティング活動全体のなかで再構築しよう、という試みを意図しています。

もちろん世の同業のPRプロフェッショナル、協会や企業の方々の倫理的、真摯な活動は学びの対象とし尊重しています。ただし将来を見据えて、この拡大するデジタル経済のなかで、組織および既存活動の枠を超えた "PRの再構築" を構想しています。

今回の講演(キーノート、パネルディスカッション)の論点を一般化、簡略化(マーケターが怒るレベルにしてすみませんが)すると

1. ABMは企業対個人取引(BtoC)における顧客生涯価値、顧客関係管理(CRM)の概念を、企業対企業取引(BtoB)に当てはめたもの

2. ABMは、訴求対象を企業名、部署名、役職名まで名前レベルで落とし込んで働きかける。全社的なデータマネジメントが要

3. ABMの導入は、従来の見込客の獲得・育成、受注のプロセスを劇的に効率化、多角化、高次化する。営業とマーケティングの連携を必須とするため、組織改革につながる

といったものでした。

PRの再構築という意味では、顧客生涯価値、データ活用による個への訴求、コミュニケーションの効率化・多角化・高次化、組織改革のいずれも、これまでの活動の見直し、改善につながる視点を投げかけました。

Marketing 4.0とB2Bハックカード

この講演の前後で実は、あせったことがありました。

それは、この日にライセンス提供いただいた飯室さんのB2B ハックカードβIIの前バージョン、 prototypeを使えていない、という事実でした。

B2B ハックカードβII prototype #b2bhack

11月半ばに受け取り、開封し注意事項を読み、解説ビデオを見るのは30分もあれば十分でしたが、ビジネスファシリテーション能力にハードルを感じ挫折。

そこで作者の飯室さんのリアルイベントに行こうとして、2度も行きそびれ挫折。

それが、本総会の直前の立ち話で、Sansan株式会社 マーケティング部 マーケティングマネージャーの石野 真吾さんが「めっちゃ使えます」と軽く言われて初めて心が動きました。飯室さん曰く、会社で部下に働きかけるでも、上司を動かすでも、自分のプロジェクトでも何にでも使えるよ、とのこと。

帰宅して、挫折感を引きずりながら新バージョンを開封してユーザーコメントを読み、これは旧バージョンを使わねばと一念発起しました。

とはいえ、自分のゴールは "PRの再構築" という抽象度の高いものなので、カードを並べるまでの要点整理が必要でしたが、ここでなんと「Marketing 4.0: Moving from Traditional to Digital」が補足図書として活躍。コトラー先生恐るべしです。

この本は、拡大するトラディショナル+デジタル環境のなかでどう消費者を捉え、マーケティング活動のモデルを作るかを解説したもので、(最近のコトラー先生の発言を考えると愛とか平和とかを語るかと思っていたわたしの事前予測に反し)実務的です。図解もあって読みやすいので、ぺらぺらめくってサマリーを中心に自分に関係のあるところをつまんで、カードを並べるのに必要な要素を書き出しました。

リソース(お金、時間、人)およびPDCAといった具体的部分については、飯室さんのスライド、冨永裕子さんのブログを読み「リーンだ、リーン。細かいこと気にしてダラダラしない」をモットーに、今の自分の等身大で弾き出したものを書きました。

これでたったの3時間。土曜の午後、参考資料を片手に子供のテーブルにクレヨンで落書き(←子供には一応、勉強だと説明)したら出来ました。これまで2週間以上、挫折して「あー、やっぱり自分にビジネスファシリテーション能力なんてないわ」と敗北感を感じていたのがウソみたいに出来ました。

B2B ハックカードβII prototype (Case: Kazuko Kotaki with Marketing4.0) #b2bhack

まとめ

Marketing 4.0: Moving from Traditional to Digital」とB2Bハックカードは好相性です。汎用性が高く、問題抽出・課題解決の具体化を支援してくれる図書およびツールとして、業界・業種・企業・個人を問わずさまざまな課題解決に使えると思います。

BtoBマーケティングの分野ではABMが、デジタル経済のなかで効果的なアプローチとなりえる、その適用方法、運用形態は企業・組織によるといえます。

企業の信頼獲得のためのコミュニケーションのあり方を取り戻すには、以上を鑑みたPRの再構築が有用と考えられます。

本ブログはコウタキ考からの転載です。

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