広告はこのまま続くのか ー 自己実現につながり生き残れる会社とは

「動画マーケティング」をテーマに企業マーケティングおよび動画の制作、分析、配信、運用に関する登壇者が、最新動向を議論しました。

2月13日、米インタラクティブ・アドバタイジング・ビューロー(IAB)の年次総会で、ユニリーバのCMO キース・ウィード氏が「ソーシャルメディアからソーシャルレスポンシビリティ(社会的責任)へ」と謳い、信頼性が欠ける広告を排除する考えを述べたのを受け、日本経済新聞を含む世界各国のメディアがデジタル広告への影響を報じました。これが示すとおり4K/8K、5Gへとデジタルコンテンツを取り巻く環境が進化し、企業広告を中心とする動画マーケティング市場が伸びる中、メンバー6000人を抱える次世代マーケティングプラットフォーム研究会第13回 総会では、「動画マーケティング」をテーマに企業マーケティングおよび動画の制作、分析、配信、運用に関する登壇者が、DeNAセミナールームに集った200名以上の登壇者に向けて最新動向を議論しました。

Kazuko Kotaki

■ 富士フイルム ―より多い情報量、少ない接触の「動画」でエンゲージメント強化

動画マーケティングを実施する企業の立場で登壇した富士フイルム e戦略推進室 マネージャー 一色 昭典 氏は、同社の変遷およびユーザーニーズに即した動画活用の取り組みを述べました。もともと写真フイルムのBtoCビジネスで創業してブランドを築いてきた富士フイルムは、医療、印刷、ドキュメント、ヘルスケアといったBtoB事業を拡大してインターネットとデータの活用による事業変革(デジタルトランスフォーメーション)を推進する一環として2011年にe戦略推進室を立ち上げ、全社的なデジタルマーケティング底上げのため各事業部にデジタルオフィサーを置いています。今回は同イベント開催時(2017年12月)に合わせ、毎年数億円規模の予算を投じ、TVCMは会長が目検するほど長年テレビに力を入れる写真年賀状のBtoCマーケティングに話題を絞りました。

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富士フイルムのe戦略推進室は、視聴者データが取りづらいTVCMから、より情報量が豊富で、少ない接触でつながり(エンゲージメント)を持てるオンライン動画へのシフトを率先しています。一色氏は、e戦略推進室でさまざまな動画マーケティング会社を使い、目下はVeleTにより自社で取得可能なユーザーデータを活かして、年賀状の宛名・写真の印刷から柔軟な投函までのECサービスに動画で誘導してコンバージョンを図るマーケティング、リターゲティング、リマーケティングの取り組みを説明しました。

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■インスタ映えとアウトストリーム型広告を巡るトレンド

Facebook Japan, Head of Vertical Industry 執行役員 黒田 俊平 氏は、くしくも2017年の流行語大賞が「インスタ映え」となった当日に同イベントに登壇し、2012年の買収で傘下となったInstagramの利用が、過去1年で敷居の高い写真共有から短尺の動画を楽しむプラットフォームになった、とコメント。Facebookは家族、友達などが実名でつながり、Instagramは同じ興味や特定のテーマのもとに情報を取るコミュニティ形成のプラットフォームとして、企業による「人」ベースのマーケティングに使われている事例を紹介しました。今後はInstagramの中で写真を見て価格を見て購入アクションにつなげられる、ショッピング促進の方向性を示しました。

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パネルディスカッションでは、2007年から動画ビッグデータを蓄積するアンルーリー・ジャパンの代表取締役 香川 晴代 氏が、動画広告の有効性を解説。1917年設立から100年の歴史を持つイギリス広告業協会IPAの調査(出典:Binet and Field Marketing Effectiveness Week Nov 2016)もとに、①収益に最大の効果をもたらす広告投資配分は長期的なブランディングが6割、短期的な販促キャンペーンが4割、②長期的な収益増を遂げる企業のマーケティング予算の投下対象は動画が6割、静止画が4割といったデータを示し、動画が長期的なブランディングと収益増に効果的と説明しました。また、なぜ動画広告の効果が高いか、と言う点について「神経心理学的にも動画は感情を喚起し人の行動に最も働く」と補足し、「動画は人の感情を動かすパワフルな手段」と述べました。

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アンルーリー香川氏は、強力な動画マーケティングの例として視聴数2,170万回、シェア数67万回(シェア率 3.1%)を記録した2014年冬季オリンピック時のP&G社CM「Thank you mom – Pick them back up」を紹介し、視聴数あたりのシェア数が、観た人の共感を示す純粋な投票として評価できる値としました。

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また、YouTubeに代表されるインストリーム型広告と、アンルーリーが取り扱うその他のアウトストリーム型広告ならびにそのサブカテゴリ―としてのインバナー、インフィード(もしくはインリード)の分類を整理。先んじて富士フイルム一色氏も、動画広告のネガティブ要素をなくす視点で1300件のアンケートをもとに精査した結果として、ストレスを感じさせず好きになってもらえるのはインバナー/インフィード広告であるという見解を共有しました。

UNRULY
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■アドフラウドは犯罪、ブランドセーフティは品質の話

パネルディスカッションでは、先の富士フイルム一色氏、アンルーリー香川氏と、Crevo(クレボ) 代表取締役 柴田 憲佑 氏、ファイブ 代表取締役社長 菅野 圭介 氏、ブライトコーブ デジタルマーケティング アカウントマネージャー 大野 耕平氏、ならびに本研究会の主宰 江端 浩人氏が並び、「アドフラウド」(広告詐欺)と「ブランドセーフティ―」について議論しました。

ブランドセーフティ―についてアンルーリー香川氏は、YouTubeといった世界のUGC(ユーザー生成コンテンツ)動画の8割が、コンテンツ自体の安全性をプラットフォームで確保できない、また前後のコンテンツをコントロールできない、といった出稿リスクを抱える現状を指摘。TAG(Trustworthy Accountability Group)と呼ばれるデジタル広告の透明性確保のための組織(米国広告代理店協会(4A's)、米国ナショナルクライアント協会(ANA)、インタラクティブ・アドバタイジング・ビューロー(IAB)による設立)が規定した広告の配信先の審査基準への準拠がより重要になっていると述べました。

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モバイル動画広告配信プラットフォームを提供するファイブの菅野氏は、「アドフラウドは犯罪、ブランドセーフティは品質の話」と切り分け、「動画広告は今、配信先をホワイトリストとして開示することに始まる。広告出稿できるメディアと広告主を限定するPMP(プライベートマーケットプレイス)への注目が高まっている」と述べました。クラウド型動画プラットフォームを提供するブライトコーブの大野氏は、海外でもプレミアムメディアだけに広告出稿する動きを指摘しました。

広告主の立場で富士フイルム一色氏は、「経営層がグローバル企業としてブランドセーフティ―に対し非常に敏感」とし、PMPはもちろん、広告が自社のイメージ低下を招くようなサイトに配信されていないかを検証するアドベリフィケーションも必須と述べました。

■ユーザーの気持ちに寄り添う文脈、圧倒的な動画が持つ力

企業のデジタル動画制作を担うクレボの柴田氏は、顧客から求められるクリエイティブについて、「まず目的の定義がありき。とりあえず見てもらいたいという認知目的が多い」と述べ、誰に見てもらいたいのか細かくターゲティングしてメディア選定する流れを説明。ブライトコーブ大野氏は、動画マーケティングの目的別KPIとして、「認知」段階ではインプレッション、再生数、ユニーク視聴数が、「比較検討」から「行動」の段階では再生率、再生時間、完視聴率がKPIになる、と述べました。

ブライトコーブ
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最後に、本研究会発足のきっかけとなったMarketing 4.0のテーマ「自己実現」についての考察として、ファイブ菅野氏は「メディアは価値観やコミュニティを育てる効用がある。メディアがコミュニティの役割を支え、ユーザーの気持ちに寄り添う文脈が大事になってきている」と述べました。また富士フイルム一色氏は、「広告はこのまま続くのか、と反芻すると、気持ちに寄り添う情報であれば心が動くが、ほしいと思えないものはレコメンドされてもいらない。圧倒的な情報量がある動画だからこそ、ほっこりするようなものであれば、お客様の自己実現や気づきにつながり、生き残れる会社になる」と締めくくりました。

コウタキ考の転載です。

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