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増税先送りなら、社会保障費を中心に5~6兆円の追加削減が必要

2013年08月29日 17時56分 JST | 更新 2013年10月28日 18時12分 JST

安倍政権の当面の主要課題の一つは、2014年4月に実施予定の消費増税の判断だ。当初は予定通り実施するとの見方が強かったが、増税実施時期の残り8か月で突然、雲行きが怪しくなった。理由は、安倍首相が、消費増税が景気にもたらす影響を再検証する「場」を設けるよう指示したからだ。現在、この場では、増税慎重派も参加し、増税がマクロ経済に及ぼす影響を複数案(①予定通り14年4月に8%、15年10月に10%に2段階で引き上げる、②最初に2%増税、その後1%ずつ増税、③毎年1%ずつ増税、④増税の先送り)に分けて検証中である。

この動きの直前の8月上旬、政府・与党は、「国・地方の基礎的財政収支(対GDP)の赤字を2015年度までに半減し、20年度までに黒字化する」との国際公約を達成するため、「中期財政計画」の閣議了解を行った。またそれと同時に、「中長期の経済財政に関する試算」を公表した。以下、これらの問題点を簡単に浮彫にする。

まず、中期財政計画では、国の一般会計のうち社会保障費や公共事業等にあてる政策経費の赤字を14年度から15年度に計8兆円削減する方針であるが、この8兆の削減には14年・15年の消費増税が不可欠である。この理由は単純である。まず、大雑把には、社会保障・税一体改革の合意により、消費増税5%分のうち、社会保障充実分を除いた4%分の約10兆円が、国・地方の基礎的財政収支の改善に資する(注:基礎年金国庫負担を2分の1に引き上げるための財源2.6兆円は、現在は年金特例公債で賄われている)。ただし、消費税率が8%から10%に引き上がるのは2015年度の中間時点(10月)であるから、15年度時点では5%ではなく実質4%(=3%+1%)分の増収効果しかない。したがって、厳密には、国・地方の基礎的財政収支の改善に資するのは10兆円×(4/5)=8兆円と試算できる。このうち、国の取り分は7割程度であり、5~6兆円程度が国の基礎的財政収支の改善に資する。よって、増税を先送りするならば、中期財政計画の8兆円削減目標を達成するため、社会保障費を中心に、さらに5~6兆円の歳出削減を進める強力な政治力が必要となるが、この中身は曖昧となっている。増税と歳出削減ではマクロ経済に及ぼす影響は異なるのは当然であるが、中長期試算では増税を予定通り実施したケースで、中長期のマクロ経済や財政の姿を推計している。

次に、中長期試算における「経済成長率の前提」である。中長期試算では、アベノミクスが掲げる3本の矢(大胆な金融政策、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略)が成功し、今後10年の平均成長率は実質2.1%、名目3.4%となる「経済再生ケース」を基本シナリオとしている。だが、この前提は「(名目成長率が)1-2%程度の民間調査機関の予測に比べるとかなり強気」(日経新聞・2013年8月9日朝刊)であり、財政見通しとの関係では「楽観的な」ものとなっている。むしろ、世界標準の財政見通しでは、慎重な成長率の前提を採用するのが常識である。このため、ここ数年(2010年-12年)の中長期試算では「慎重シナリオ」を基本シナリオとしてきたにもかかわらず、今回の中長期試算では、民間の予測に近い「慎重な成長率」は「参考ケース」(今後10年の平均成長率=実質1.3%、名目2.1%)に位置づけられてしまった。もし慎重シナリオの方が妥当な場合、「中長期財政計画」の中身も若干修正が必要なはずだが、その辺の記載はない。

 

いずれにせよ、民主主義の下では痛みを伴う改革よりも懸案の先送り(例:「増税の先送り」や「楽観的な成長率」)が選択されることが多いが、日本の政府債務(対GDP)は200%にも達する状態にあり、危機的な状態であることは明らかである。誰しも痛みを伴う改革を望む者はいないが、もはや財政・社会保障の抜本改革は不可避であり、早急に政治決断することが望まれる。2016年まで国政選挙がない期間は稀であり、安倍首相が担う責任は重い。