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中堅・中小企業のためのデジタルマーケティングの基礎解説 Web広告で成果を上げるポイントは何か? 広告代理店依存の落とし穴とは?

2017年02月14日 17時15分 JST | 更新 2017年02月14日 17時34分 JST

(1)デジタルマーケティングとは

① デジタルマーケティングの進展

Webの発達とデバイスの多様化・高度化により、メディアの形態は大きく変わりつつある。

従来の「四大メディア」と呼ばれるテレビ・ラジオ・新聞・雑誌では、企業はそれらの媒体を使うことでモノを紹介したり、企業情報を消費者に伝達したりし、販路拡大につなげていた。しかし、デジタルトランスフォーメーションが進むにつれて、情報はインターネットを通じて企業から直接消費者に伝達されるようになった。

また、デジタルデバイス(PC・スマートフォン・タブレットなど)の普及によって、消費者のメディア接触時間の内訳が大きく変わってきた。四大メディアの接触時間は減少する一方、デジタルデバイスの増加が近年目覚ましい伸長を見せている。特に若年層においてその伸びは大きく、隙間時間を利用した消費者とのコミュニケーションが主流となってきている。

また、デジタルには従来のメディアにはない重要な特徴があった。それがビッグデータに代表されるようなデータによる効果の定量化・可視化を可能とする点である。企業活動の中でも、製造・開発や会計については早くからデジタル化が進んでいたが、マーケティングは成果との因果関係が不明な点が多いことからデジタル化のメリット・恩恵が少なく、対応が遅れていた。

しかし、Webが膨大なデータのコネクションとなって大きな価値を生むことが広く社会に浸透してきた昨今では、マーケティングのデジタル化のニーズが急速に高まってきている。

しかし、一方で、初めてデジタルの世界に足を踏み入れる企業にとってデジタルマーケティングは極めて難しい。現在、様々なWeb解析ツールが存在しているが、実際、それらを使いこなせている企業は非常に少ないと言ってよいだろう。

特にデジタルマーケティングの世界は業界構造が複雑であり、マーケティングの知識のほか、システム関連の知識やビジネス関連の知見なども要求される。ネットを活用している企業は多いが、内情を理解し、事業展開に生かしているところは少ない、というのがこの業界の特徴だと考えている。

② デジタルマーケティングの定義

デジタルというキーワードが世間に拡大している中で、デジタルマーケティングという言葉が独り歩きしている印象がある。そもそも、Web上で情報を発信し、直接、閲覧者に伝達する、というスタイルは目新しいものではない。

たとえば、eコマースやそれを元としたECサイトは90年代には既に導入されていたし、もっと言えば、ネットショッピングやオークション、オンラインバンキングなどをこれまで全く使ったことがない人はほとんどいないだろう。これらも情報をネット媒体に提供しているという、広い意味ではデジタルマーケティングである。

もちろん、自社のウェブサイトを高度化し、閲覧者にPR活動を行うこともデジタルマーケティングのひとつだ。SEO対策などはその例にあたる。このように、デジタルマーケティングという言葉は使用していなくとも、すでに類似の施策を実施している企業は多いのではないだろうか。しかし、この領域では常にイノベーションが起きており、アドネットワーク・DSP(Demand-Side Platform)のような新しい広告が誕生している。

以下ではWeb広告を狭義のデジタルマーケティングとして説明するが、広義のデジタルマーケティングとは、デジタル・Webの世界で消費者に訴求する手法のすべてが包含されると考えていただいてよい。

(2)デジタルマーケティングにおけるメディアの役割

メディアの種類とその役割

デジタルマーケティングを考える前に、消費者へのコミュニケーションチャネルであるメディア全体を俯瞰しておきたい。メディアには「ペイドメディア(Paid Media)」「オウンドメディア(Owned Media)」「アーンドメディア(Earned Media)」がある。最近ではこれに「シェアドメディア(Shared Media)」を追加し、トリプルプラスワンメディアと呼ばれているが、これらはプロモーションチャネルを整理した用語である。それぞれ簡単に事例を紹介する。

まず、ペイドメディアは、その名の通り、支払いが発生する広告である。新聞広告・TVCMなどのマスメディアやインターネットではWeb広告が該当する。膨大な消費者に訴求でき、費用をかければかけるほどインパクトが大きくなる。

次に、オウンドメディアは自社が保有している媒体を意味する。自社Webサイト、メルマガ、ブログなどが該当するだろう。現状のサイトを認知しているなど、自社のことをある程度理解している既存客が対象となる。新規開拓は難しいが、顧客関係を太くするには有効な手段になる。

そして、アーンドメディアは消費者側から情報を獲得するプロモーション活動であり、SNSや口コミサイトなどが当てはまる。この手法は、既存客・潜在顧客とコミュニケーションを取ることができる情報の双方向性が特徴である。マスメディアのような爆発的な訴求力はないが、潜在顧客を掘り起こし、囲い込むには非常に有効な手段といえる。またアーンドメディアはペイドメディアほど資金がかからないことも特徴だ。

最後にシェアドメディアだが、平たく言えば他社と協力して行うプロモーション活動である。コラボ商品などは関与する企業それぞれのプロモーションに貢献するため、2社にメリットがある手法である。

デジタルマーケティングにおけるそれぞれのメディアの利用方法としては、ペイドメディアでユーザーを自社のオウンドメディアに誘導し、ユーザーの声をアーンドメディアにて収集する、という形が一般的である。ビジネスによって各メディアの重要性は異なるが、基本的にこの3つのメディアを組み合わせて利用する。

(3)運用型広告と広告代理店の功罪

① 運用型広告の仕組み

デジタルマーケティングで最も市場規模が大きいのが運用型広告である。運用型広告とは検索やユーザーがWeb閲覧に使うブラウザのCookie情報によって最適化された広告を表示するものである。例えば、検索した用語に応じて検索結果に表示させる検索連動型広告や、ブログやニュースサイトなどの多様な媒体を集めた配信ネットワークを構築し、閲覧者側の興味によってバナー広告を掲示させるアドネットワークがある。

ここで、少し詳しくアドネットワークについて補足する。あるウェブサイトを開いた際、バナー広告が若干遅れて表示されるという経験がある方は多いかもしれない。その広告はウェブサイトに埋め込まれている広告ではないことはご存じだろうか。

ウェブサイトが開かれると同時にそこの広告枠が生まれる。この枠を入札によって決定するのがアドネットワーク広告の特徴である。閲覧者の特徴などを分析し、ターゲットとなりうる場合は入札に参加する。入札開始から表示までは0.05秒以下で処理されるため、閲覧者側からは若干遅れて表示されることになるのだ。

運用型広告ではない従来のメディア(純広告と言われる)では、「どのメディアに広告を出すべきか」という視点で選ばれるのに対して、アドネットワークでは「どんなユーザーにいくらで広告を出すか」という視点で選ばれる。

運用型広告、純広告の種類は多岐にわたり、データ分析手法などもまちまちだ。これらを取りまとめてすべてを自社で管理することは現実的ではない。そこで、通常は広告代理店にその買い付けを一任することが一般的である。

② 広告代理店の功罪

広告代理店はWeb広告を中心としたデジタルマーケティングのプロフェッショナルであり、クライアント側からすると大きなサポーターになることは間違いがない。ただ、デジタルマーケティングの世界に限らず、人事・会計・総務など全てにおいて業務委託先に丸投げしてうまくいくことがないことはご経験のある方も多いのではないだろうか。デジタルマーケティングの世界も同様である。

たとえば記憶に新しいのは電通とトヨタの事例である。この事例は端的に言えば運用型広告の配信レポートの改竄である。運用型広告は入札がベースなので落札できないと出稿ができない。この時、電通は思うように広告枠を落札できず、トヨタから委託された運用方針に基づいた出稿ができなかった。そのため、運用レポートを改竄し、あたかも定期的に出稿していたというように見せかけていたという事案である。

このように出稿していないものを出稿しているかのように報告することは明らかな不正であるが、実務では不正とは呼べないまでも、クライアントにとって本質的に意味がない広告が行われることはよくある。

たとえば、クライアントから「とにかくサイト訪問者を増やしたい」という曖昧なオーダーがあり、クライアントがクリック率など単純な数値しか見ていないと、代理店はBOT(自動でサイトを巡回するプログラム)や不正クリックが多いネットワークに意図的に広告を流すことがある。そうすると、「クリックを獲得する」ということだけは実現することができるため、代理店としては要求を実現したことになる。しかし、BOTや不正クリックでは、当然、商品・サービスの問い合わせなどのコンバージョンが生じるようなマーケティング効果は得られない。

そうしたことが分かっているにもかかわらず、数字を稼ぐためにこのような運営を行っているケースもあるのだ。さらには、どうしてもクライアントと合意した目標の数字が達成できない場合、広告代理店が自らで補完し、数字を達成する自爆営業のようなやり方をしているケースもある。

少しテクニカルだが興味深い手法としては、動画に広告を出す際、あえて「作業用BGM」に広告を出すという手法がある。YouTubeで動画を見ている人はご理解しやすいかもしれないが、動画を閲覧しているとき、途中で動画広告が始まるとスキップしたくなる。しかし、音楽を聴きながら何か作業をしているときは動画を閲覧しているわけではないため、「スキップしなくてもいいか」と視聴者は考え、最後まで広告動画を流す可能性が高い。そうすると、数字上は目標を達成できる。

しかし、本来は最も効果が得られるサイトに広告を出すことが目的であるため、「スキップされにくいサイト」に出稿することは本来の目的から反し、クライアント側の期待に応えているとは言えない。

こういった事例は枚挙にいとまがないが、なぜこのようなことが起こってしまうのか。それは代理店が広告買い付け費用に対して一定の料率のマージンを乗せて請求するビジネスモデルになっていることに原因があると考えられる。

代理店の目的は「クライアントの広告予算を最大限使う」ことであり、「クライアントのマーケティング目標」の達成ではないからだ。この点、プロジェクトの達成に対する対価をもらうフィーモデルのコンサルティングとは大きく異なる。

(4)自律的なデジタル運用に向けて

とはいいながらも、複雑なデジタルマーケティングの様々なチャネルを使いこなすために代理店の存在が非常に有効であることは間違いない。予算と運用方針を代理店に伝え、決められた広告量を指定することで運用を委託することができる。広告代理店は、訴求効果の高いキーワードやコンバージョン率を上げるための施策をプロの観点から実施してくれる。確かにこの効果は大きいが、すべてを任せては期待した効果は得られない。自社の事業戦略と照らし合わせて、運用方針を決めるという流れは絶対に欠かせないところだろう。

まず、必ず自社で進める事項としては、目標の明確化だ。サイトの目的や期待する効果を明確化することだろう。ここがはっきりしないままでは最適な広告が打てない。できる限り具体的な数値に落とし込むことが必要になる。たとえば、ECサイトであれば購入者が何名であるとかサイトリピーターが何名など定量的な目標を設定しておくことが必要だ。

また、レポーティングのコンテンツも検討しておくべきだろう。デジタルマーケティングでは多様な切り口で分析できるが、自社がどのような基準で見たいかが明確でないとうまくいっているのかどうかが分からず、次の施策に活用することができない。運用レポートで何が閲覧したいかということを自社内で決めておくことが重要になる。

最後に社内の体制整備である。ウェブ担当者の設置が望ましいことは言うまでもないが、人員数の都合でそうもいかないことが多いことは十分に想定される。その場合は兼務になるだろうが、よほど大きなサイトでない限りはそれで事足りる。

ただし、知識を身につける教育は実施すべきである。ウェブの世界は専門用語が多く、また横文字なので馴染みがないと代理店の担当者とコミュニケーションを取ることや運用レポートを読むことすらできず、結果、全てが代理店の言いなりになり、ただコストばかりかかってしまうということがある。セミナー出席や書籍の購入など簡易な形式で構わないので会社として取り組むことが重要だろう。

売上に直結するECサイトなどでない限り、なかなかWebまで管理が及んでいない企業が多いと考えている。ホームページを作ってから大きな更新をせず、ベンダーに保守をまかせっきりというケースもよく耳にする。しかし、経営環境や事業戦略が外部環境の変化などで常に移り変わっていくように、閲覧者のタイプや行動も変わっていく。閲覧者が変化しているのであれば、情報の発信内容もそれに合わせてリバイズしていかないと効果はどんどん下がっていく。

しかし、Webは一方通行のコミュニケーションであるため、なかなか求めている情報を発信することが難しいのが現状だろう。デジタルマーケティングはそこを可視化していく。クリック、コンバージョン、CTR(Click Through Rate)などの専門データを使い、効果測定することでウェブにどれくらいの影響力があるかを把握することができる。しかし、データはあくまでもデータでしかない。これを使い、企業戦略を検討し、プロモーション活動につなげていくことこそが最も重要なポイントだろう。

Webは廉価で多様なターゲットに訴求することができ、かつ膨大なデータを取得できる。その点は非常に有効だが、一方で、先の事例のような不正も起きやすい。ターゲットが明確になっているということは、言い換えれば誰もが認識できるものではない。つまり、「あなたの知らないところで広告を出しました」と言われてしまったらそこで終わってしまう。

データの改竄やヤラセのような嘘を見抜くには、正しい知識を持って、正しくデータを取り扱うことが重要になる。だからこそ、しっかりとした準備・体制を整えたうえで実施していくことを欠かしてはいけない。そうすれば、これまで気付かなかった新しい顧客やサービスを掘り起こせる可能性が十分ある。

(2017年2月14日「コンサルティングレポート | 三菱UFJリサーチ&コンサルティング」より転載)