米国の元原子力規制委員会幹部「柏崎刈羽原発の安全対策は世界最高水準。米国政府ならば再稼働させない理由はない」

福島第一原発事故の際、アメリカ原子力規制委員会を代表して来日し、事故対応に協力したチャールズ・カスト博士に、現在の日本の状況について聞いてみた。

2011年3月の東日本大震災による東京電力・福島第一原子力発電所事故の直後に、米国・原子力規制委員会(NRC)を代表して来日し、事故対応に協力した安全・危機管理コンサルタントのチャールズ・カスト博士(Dr.Charles Casto)と先月30日、私は懇談させていただく機会を得た。

石川)福島事故は、発電中の事故ではなく、停止中の事故。だが日本では、政治もマスコミも、"発電しているから危険、停止していれば安全"という空気となっているせいか、全ての原発は定期検査で停止した後、今もまだ発電を再開していない。

カスト)TMI事故(1979年;米国)もチェルノブイリ事故(1986年;旧ソ連)も、運転員による運転ミスが引き起こした。福島事故は、震災時に運転員が最善の対応をしたので人為的ミスではなかった。

TMI事故の際、今の日本のように、国中の原発を停止しろ!などという声はなかった。TMIでミスをした運転員の責任が追及されたし、TMIを保有していたメトロポリタン・エジソン社が悪者扱いされたというのはあった。しかし、電力業界全体が悪者扱いされたことはない。

石川)日本で化石燃料輸入増や、それによるエネルギー安全保障上の問題を説いても、なかなか理解が得られない。一般大衆のみならず、多くの政治家も同じような感じだ・・・。

カスト)それを一般大衆に理解させるは難しいだろう。スイッチを押したら電気は点くものだ、とみんな思っている。政治家に理解させるのが難しいのは、米国も同じだ(笑)。

石川)日本の原子力規制委員会(NRA)は新基準を策定したが、それに適合していないと発電再開を許さない運用にしており、政権与党もそうした運用を追認。NRAのこうした運用をどう思われるか?

カスト)今のNRAは、とにかく可能な限り高い基準を適用して規制しようとしている点で、非常に保守的。「一番安全な原子炉とは、運転を停止している原子炉だ」と思っているようだ。日本の政治的な状況を見ると、NRAだけが原子力安全に関する全責任を負っているという構図。

だが、それは健全ではない。安全責任は、NRA単独で負うのではなく、電力会社と分担すべき。説明責任を最も負うべきは電力会社で、NRAは監督役。

外国の助言者たちが日本に「NRAは独立していなければならない」と多く助言した。だが、NRAは「独立」ではなく「孤立」している。NRAは電力会社を監督するが、NRAを監督するのは政権。

石川)安倍政権は、NRAが合格とした原発だけを再稼働させることとしている。これをどう思われるか?

カスト)原発が長期停止している状態が安全上いかにマイナスの影響があるかをNRAは本当に理解しているか疑問。長期停止していると、現場職員たちは運転の感覚を失ってしまうし、設備や機器も劣化する可能性が高い。

稼働しながらでないと、良いパフォーマンスを発揮できない。原子力安全の基礎は、定期的に稼働していることによって成立するもの。今のNRAは「絶対的な安全」を求めているので、「合理的な安全」とはなっていない。

石川)それは例えて言うなら「ペーパードライバー」であり、そんなドライバーばかりでは交通安全のレベルは向上するはずもなく、逆に危険な状況が生まれてしまう。

カスト)まさにその通りだ。停止し続けること自体は簡単なことだが、停止し続ければ安全レベルが維持されるというわけではない。

石川)昨日、東電・柏崎刈羽原発を視察されたそうだが、どうだったか?

カスト)私の知識で見る限り、柏崎刈羽原発は、今すぐ再稼働できるほど十分に安全性は確保されており、安全対策の中身については、私がこれまで原子力界で見てきた多くのプラントのいずれも遥かに超える対策が講じられている。柏崎刈羽原発の安全対策は世界最高水準。米国政府ならば再稼働させない理由はない。

石川)米国では今年、原発新設が実現する見通し。TIM事故から約40年経っているは言え、自国で原発事故を経験した米国民が原発新設を容認したことは、今の日本から見るとたいへんなことなのだが、米国民が容認できた理由は?

カスト)米国では、世論調査でも原発を支持する声の方が以前から多い。米国で原発新設が進んでこなかったのは、世論ではなく、経済的理由。日本では、原子力に関して政府と国民の間に健全な対話がもっとなされるべきだ。今のところ、それが不十分なのだと思う。「停止=安全、発電=危険」ではない。

石川)使用済み核燃料の再処理や、高レベル放射性廃棄物の最終処分は?

カスト)再処理について、米国は、核不拡散政策の下、使用済み核燃料の全量を、再処理はせず、直接処分する。ただ、再処理技術の維持・向上のためには、日本での再処理は必要であるし、米国は日本の核不拡散を信頼。

最終処分については、米国ではもはや話題にならない。廃棄物は発電所敷地内に貯蔵することが最も安全で、しかも原子力発電の妨げにならないということで、その路線で定着。(筆者註:この件は、米国NRCも認めている。)環境団体も、それを容認。

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