"電力自由化"と『原子力正常化』を両立させるには・・・

東日本方面で初めての「合格」を東電が得ることになる。

9月6日の報道で既報の通り、東京電力・柏崎刈羽原子力発電所(新潟県)6・7号機の再稼働に向けた審査で、原子力規制委員会は東電の安全への姿勢などに対して一定の評価を行い、もうじき事実上「合格」と判断する見通し。

あまりにも時間をかけ過ぎたが、大きな前進には違いない。

これまでのところ、原子力規制委から「合格」が与えられたのは、九州電力(川内原発1・2号機、玄海原発3・4号機)、四国電力(伊方原発3号機)、関西電力(高浜原発3・4号機、大飯3・4号機)であり、立地場所は西日本方面ばかりだった。

それが今般、東日本方面で初めての「合格」を東電が得ることになる。東電と言えば、東日本大震災によって福島第一原発が事故に見舞われた。その東電が運営する柏崎刈羽原発の再稼働が実現すれば、それは東電の再起だけではなく、震災からの日本国の再起を世界に対して宣することに等しいだろう。

今後は、それを担う地元(新潟県民、柏崎市民、刈羽村民)に対して、政府が先頭に立って説明・説得に注力していかなければならない。

さて、8月27日、任期満了に伴う茨城県知事選挙が行われた。自民・公明推薦で新人の大井川和彦氏(53)が、49.7万票(得票率47.5%)を獲得し、初当選を果たした。国内最多の7回目の当選を狙い、県医師連盟や県農政連が推薦した現職の橋本昌氏(71)を約7万票上回っての初当選。投票率は前回(2013年)を11.74ポイント上回る43.48%であった。

現職の橋本氏は、6期24年の実績をアピールするとともに、国体などスポーツ大会の成功や、福祉・医療・教育大県実現、地方創生、災害に強い国土作りという四つの目標を掲げた。「県民党」を掲げ、「中央の介入・支配にノー」と安倍政権批判を繰り返した。そして、日本原子力発電・東海第二発の再稼動に反対を表明した。(結果的に、これが敗因の一つになったようだ。)

NPO法人理事長で共産推薦の鶴田真子美氏(52)の得票数は12.2万票に留まった。鶴田氏は、医療・福祉・雇用確保の重要性を強調した他、脱原発依存を打ち出して東海第二原発の廃炉を主張したが、全く及ばなかった。

大井川氏は原発再稼動について、「県民の意向を重視する」として態度を明確にしなかった。多選禁止条例の制定を公約し、県政の刷新を訴えるとともに、経済産業省の元官僚であったことや、大企業の役員だった経験を生かし、インターネットを駆使して県産品や観光の情報発信の強化を訴えることで支持拡大に努めた。

8月半ば、橋本氏と大井川氏が横一線との分析結果が出た。焦った橋本氏が日本原電に「私が再選されれば東海第二原発の再稼動も悪いようにはしない」と内々に申し入れた、との話が駆け巡った。これが事実ならば、選挙に勝つためだけの"二枚舌"政治家を再選させなかった茨城県民の見識に対して、心から敬意を表するところだ。

総じて、"多選の是非"と"原発再稼動の是非"が二大争点となった今回の茨城県知事。東海第二原発の再稼動に関しては、茨城県民から大きな反対はなかったと言える。

ある専門家は、「東海第二原発は東日本大震災に耐えた。福島第一原発事故を踏まえて策定された新規性基準に照らしても最も問題のないプラント。東京電力・柏崎刈羽原発の審査の優先順位が高くなっているが、東海第二原発こそ早く再稼動させるべきもの。再稼動が遅れている沸騰水型原子炉(BWR)のトップバッターの資格はある」と語る。

東海第二原発は、いわゆるプルサーマル(プルトニウムを軽水炉で燃料とする方式)。与党や政府の一部には、プルサーマルは割高だ!と叫ぶ人は少なくない。だが、プルサーマルである関西電力・高浜原発3・4号機の再稼動により、関電が今年8月から電気料金を4.29%引き下げたことは、プルサーマルの評価に暖かい順風となった。更に、関電は今年3月期、五年ぶりに復配を実現。東海第二原発の再稼動にも、同様の効果が期待される。

ただ、仄聞するところでは、「東海第二原発は首都圏に近過ぎるので再稼動は考えないほうがいい。小泉純一郎元首相の格好の標的になる」という声が経産省首脳から発せられたそうだ。なんと消極的かつ根拠の乏しいことか・・・。もっともその真意は、東海第二原発を諦める代わりに他の原発の再稼働を促すという"政治的取引"ということだろう。(私には、そういうゲーム感覚的思考はよくわかる。そんな官僚の発想に与してはならないことは、言うまでもない。)

大都市周辺での原発立地例は米国にもある。"シェール革命"もあって天然ガス価格が低下し、天然ガス火力発電の競争力が高まっている今、米国では、既設原発の競争力が低下し、閉鎖が相次いでいる。現在、進捗が見られる原発新設計画は2基だけ。そういう中で、ニューヨーク州はCO2を発生しない電源である原発を積極的に評価。ロバート・E・ギネイ原発(1基)、ジェームズ・A・フィッツパトリック原発(1基)、ナイン・マイル・ポイント原発(2基)の3プラント(計4基)が同州で稼働している。

今年6月下旬、トランプ米国大統領はエネルギー政策に関する演説で、『原子力分野の復活と拡大』を宣言した。エネルギー省(DOE)のペリー長官は、「トランプ政権は原子力分野で世界的リーダーへの復帰を目指す」と発言した。

英国では、国が原子力開発を行ってきた。だが今は、電力自由化の進展で空洞化し、老朽化が進む。他方、低炭素電源として評価されている原発の新規プロジェクトが進行しつつもある。35年間に亘って基準価格を決め、その価格と卸価格の差額を補填し合うという制度(CfD ; Contract for Difference)を導入。イングランドの主要都市近郊に建設されたハートルプール原発で更新のための工事が、英国政府によって計画されている。

英国では、原発1基が再稼動すると、燃料コストは1日当たり1~2億円削減され、CO2は年間260~490万トン削減されるとの由。電力低廉安定供給、エネルギー安全保障、地球環境保全など多面的な原発稼働の意義は、洋の東西を問わないという話。

日本が掲げる2030年のエネルギーミックス目標では、原子力は20~22%。東日本大震災による福島第一原発事故以前の目標からすると、やや控え目な数字ではある。しかし、これを実現するには、30基の原子炉が稼動率80%で稼働する必要がある。

新規制基準に適合するためのコストが1基当たり2000億円を超えるという厳しい見通しがある。加えて、電力自由化が進められているため、収益性が低下する原発の稼動継続・存続には大きな困難が伴うようになってきている。だとしても、原子炉30基稼動を実現させる必要がある。

つまり、"電力自由化"と『原子力正常化』を両立させていくための制度改正が緊要となっている。

そのためには、①日本の卸電力市場の設計について、原発の存続が可能となるように修正し、②欧米で乏しくなっている原発建設ノウハウを日本国内では維持すべく所要の措置を講じ、③初号機が大幅に割高になる問題(First-of-a-kind)を克服するための対策を整備し、④電力自由化の下で収益性が低下する原発のためにCfDのような原発事業への保証措置を施すこと ーーー が不可欠だ。

現在検討が進められている『エネルギー基本計画』の改定において、以上のような点を斟酌した制度改正への布石を打つよう、政府・経産省に強く求めたい。原発依存度を極力低くしていくには、「原発を安全に使い切り、所要のヒト・モノ・カネを準備した上で、円滑な廃炉工程に入る」ことが必要となるからだ。

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