「もんじゅ」行政への最後通牒 〜 次回はない、今回がラストチャンス

「もんじゅ」はJAEAが擁する数多ある研究部門の一つとしてJAEAの中で埋没した形になってしまった。

高速増殖原型炉「もんじゅ」は、1983年に旧「動力炉・核燃料開発事業団」が国の原子炉設置許可を受けて開発され始めた。ウラン資源の利用効率を飛躍的に向上させる高速炉サイクル技術の要として期待され、94年に初臨界を達成。世界で唯一のループ型というタイプで耐震性に優れ、西側諸国で現存する唯一の『ナトリウム冷却炉』として、世界中から注目を集めていた。

20年前のトラブルをいつまでも引きずっている...

翌95年には初発電に至ったのだが、その年末、二次主冷却系配管からのナトリウム漏洩事故が発生。この配管に取り付けられていた温度計の鞘管からナトリウムが漏れた。原因は、温度計の鞘管の形状に係る重電メーカーによる設計ミス。

ナトリウム漏洩量は640kgで、このうち410kgは屋内で回収され、残りの230kgは屋外に放出されたが環境への影響は認められなかった。この過程で、ナトリウムの温度はそれほど上昇しなかったので、ナトリウムを迅速に回収し、適切に処理することは、本当は可能だった。

しかし、当時の規制当局であった旧科学技術庁や原子力安全委員会が"現場の保全"を指示したため対応が遅れた。しかも、二次系のナトリウム漏れ程度のことを重大事故と決め付けた上に、いわゆる"ビデオ隠し"が二度も起こってしまったため、「もんじゅ」運営を正常に戻す機会は失われた。

その後、旧動燃事業団は別の原子力事業を行う特殊法人と統合され、「日本原子力研究開発機構」(JAEA)へと改組された。JAEAは複数の原子炉を保有することになり、型の異なる新型炉の開発や放射性廃棄物の処理といった幅広い研究を手掛けるようになった。

これにより、「もんじゅ」はJAEAが擁する数多ある研究部門の一つとしてJAEAの中で埋没した形になってしまった。こうした情勢変化の中で、「もんじゅ」の運営責任の所在も曖昧になり、その状況は今にまで至っている。

原子力規制委員会からの宣告の善し悪し

原子力規制委員会は昨年11月、JAEAには「もんじゅ」を運転する能力がないとして、所管する文部科学省に対して、新たな「もんじゅ」の運営主体を決めるよう勧告をした。これを受けて文科省は、昨年12月から広くヒアリングや現地調査を行った上で、「もんじゅ」の運営主体が備えるべき要件を抽出した報告書を今年5月末に取りまとめた。

この報告書では、研究ばかりに比重を置くなど偏った運営形態が相次ぐトラブルの背景にあるとして、原子炉の保守管理活動について自主的に定めた現行の「保全計画」の抜本的な見直しを求め、それに相応しい保守管理体制の整備や、有益な情報の収集・活用、技術の継承・高度化、強力なガバナンスを求めている。

これは、具体性に欠ける部分はあるにせよ、極めて現実的かつ妥当なものである。この方向性を志向しながら、国の「エネルギー基本計画」に沿った放射性廃棄物の減容と有害度の低減を行え、また、2018年に期限を迎える日米原子力協定の延長を念頭に置いたプルトニウムの安定的な消費を行える核不拡散技術としての「もんじゅ」を活用すべきだ。

一部の大衆マスコミなどで蔓延している「もんじゅ」廃炉論に与するのではなく、今いる現場の技術者を中心として「もんじゅ」の運転・保守管理に特化した開発を進める新たな組織を設けることが肝要だ。現行の保全計画は、08年末に旧原子力安全・保安院が出した指示に基づき、2ヶ月程度で策定された。当時、他の原子力発電所での保守管理が強化されたのに合わせて、急場凌ぎで拙速に作られたもの。

そのため、高速炉という特殊な炉でありながら、商業用として稼働している軽水炉と同じ点検項目が採用されているなど、内容的な不備も散見される。

「もんじゅ」の現場はしっかりしている

私は今年3月、「もんじゅ」の現場を視察し、原子力規制委が指摘した"点検漏れ"は保全計画の記述の不備に起因しているものが大半であることを直接確認した。例えば、「一式の点検」としている箇所に対して、"可視可能範囲のみを対象とする等、点検内容のとおり実施していない"という一方的な指摘がなされており、他の点検手法の可能性や存在すらも否定されている。

しかも、こうした指摘の件数が、装置の数ではなく、パーツ・部品の数として数えられる。"点検漏れ"の件数が合計で万単位に膨れ上がってしまうのは、こうした数え方の問題だ。

「もんじゅ」の信頼を回復していくためには、規制される「もんじゅ」の現場側だけでなく、規制・推進する側にいる原子力関連当局にも大きな責任がある。だから、元々の不備が多い保全計画を抜本的に見直すとともに、保守管理を徹底することで安全レベルを引き上げていくべきなのだ。

「もんじゅ」の現場に行けば体感できるが、職員の士気はとても高い。「もんじゅ」は、入域の所は年季を感じさせる部分が多いものの、全体として20年も経っているのに整理整頓が行き届いてピカピカであり、『マイプラント意識』が徹底されている。「もんじゅ」の賛否両勢力の人々は、一度、現場を見学してみるべきだ。

ナトリウム漏洩事故を起こした建屋4階の現場については、床も壁も新たにライナーを張り、空調装置を一新し、万一に備えた窒素ガス供給装置を新設するなど、再発防止策も徹底されている。

新組織をまた作るのか???

今、大きく気掛かりなのは、先の文科省報告書を根拠に設立される新法人の位置付けである。馳浩文部科学相は、「もんじゅ」の運転・保守管理に特化して推進する新法人を文科省の下に設立し、自ら高速炉開発を進めることを考えているようだ。しかし、研究ばかりに比重を置く偏った運営形態を排し、敢えて研究を度外視するには、新法人は文科省の下ではなく、経済産業省の下に設けるべきだろう。

文科省の所管のままでは、研究ばかりに比重が傾く過ちを繰り返しかねない。発電事業も含めた運転・保守管理に特化する業務である以上、原子力発電事の現業を進める立場にある経産省の所管とする方が合理的と考えるからだ。

私は以前から、「もんじゅ」改革の落とし所として、今年5月に公布された再処理等拠出金法に基づき新設される『再処理機構』に「もんじゅ」を移管することが唯一無二の解決策である、と提起してきた。

これに対しては、『経産省が「もんじゅ」を引き取る可能性は、権限面からも、予算面からも、あり得ない』、『経産省には、文科省の尻拭いをしてまで「もんじゅ」を引き取る考えは全くない』、『経産省は、「もんじゅ」を廃炉にし、フランスが開発を進めている「アストリッド」という高速炉の共同開発に完全に移行すべきだと考えている』といった反響が寄せられた。

そうであれば尚更、この際であれば、権限と予算を経産省に全面移管し、高速炉開発を国家プロジェクトとして強力に推進すれば良いではないか。もちろん、予算を長期的にダラダラと付け続けるのではなく、例えば「予算は従来の倍にするが、必ず5年で100%出力を達成して基本データを取る」というような即効性のある予算配分を行い、短期で目標達成を図るよう一定の制約を付すべきであることは言うまでもない。次がラストチャンスだ!とするのだ。

「もんじゅ」は国が進める核燃料サイクル政策の柱の一つ。現在、①既設の原子力発電所に係る軽水炉サイクルと、②「もんじゅ」など高速炉サイクルに分かれている。

①軽水炉サイクルは、第三者機関であるエネルギー総合工学研究所が工場全体として安定運転に向けて準備が整っていると評価した 「六ヶ所再処理工場」(青森県六ヶ所村)や、既設の原子力発電所に係る軽水炉でプルトニウムとウランをミックスして燃やす実用技術である「プルサーマル」を中核とする。

②高速炉サイクルは、「もんじゅ」や、アメリシウムやネプツニューム、キュリウムを原料に混ぜて放射性廃棄物の消滅処理をする核燃料を製造する「高速炉燃料製造工場」を中核とする。

これまでは①と②は互いに別モノとして扱われてきたが、今後はこれらを包括的に進めるために経産省へと所管を集中させ、日本の核燃料サイクル政策の総合的な司令塔機能を一本化することが現実的かつ最適である。

本来ならば、米国エネルギー省のような組織を新設し、原子力発電・核燃料サイクル政策も含めたエネルギー政策を総合的に推進する体制にすべきなのだが、日本の場合にはこうした改革には莫大な労力と長い時間を要する。だから、経産省への一本化が現実的な最適解となる。

"核燃料サイクル先進国"フランスの新技術は日本には不的確

フランスが開発を進めている「アストリッド」は、「もんじゅ」とは異なるタンク型というタイプの高速炉。両者には、耐震性能の面で大きな差がある。「アストリッド」の耐震性能は330gal程度しかない。「もんじゅ」の耐震性能は現状でも760galで、実際には1000galでも十分に対応可能だ。将来的に「アストリッド」が実用化されても、日本のような地震多発国で採用できるのか、大型化して経済性を追求できるかといった大きな課題がある。

実は、フランスは経年劣化した軽水炉の延命研究のための「ジュールホロビッツ炉」というタイプの導入を優先しているだけでなく、原子力関係の研究開発予算を削減する傾向にある。そのため、「アストリッド」の推進に必要な予算がなかなか付かず、25年の竣工予定が4年ほど遅れる見通しとなっている。

こうしたフランスの動向は、今年5月のOECD本部の国際会議でも大きな話題になったようだ。日米欧など世界7ヶ国・地域が共同建設するフランスの国際熱核融合実験炉(ITER)の計画の大幅遅延と相俟って、国際協力の危うさとともに、自国主導の国家プロジェクトの重要性が改めて浮き彫りになったと言える。

『準国産資源』であるプルトニウムの平和利用は日本の国是

先日、ある主要国の駐日大使館のエネルギー担当者のコメントとして、次の2つのようなものがあった。

(1)大津地裁の仮処分決定で関西電力高浜原子力発電所3・4号機(プルサーマル)の稼動が停止した。プルサーマルの推進は、最高裁まで行けば否定されないだろうが、事実誤認や偏向判断が多い地裁が介在するためにかなりの年月がかかるのではないか。余剰プルトニウムを発生させないための政策を日本は具体的にどう実現するのか。国際的な原子力協定上も重要ではないか。

(2)再処理等拠出金法はどういう法律か、何を目的としているのか。本国から照会が来ている。

このうち特に(1)の点についてであるが、まず、六ヶ所再処理工場で生産される核分裂性プルトニウムの量は年間4トン強で、大間原子力発電所(現在建設中)は年間1.1トンを消費し、他のプルサーマル炉(現在12基のプルサーマル炉が原子力規制委に再稼動を申請中)は年間0.3〜0.5トンを消費するので、大間・伊方の他に7〜8基のプルサーマル炉が稼動すれば、余剰プルトニウムは発生しない計算。

次に、「もんじゅ」のプルトニウムの初装荷は1.6トンで、以後毎年0.5トンのプルトニウムを燃焼する。こうした「もんじゅ」のプルトニウム消費能力には期待すべきものが大きい。

日本が掲げる原子力平和利用・核不拡散の理念を一層確実にしていくため、国のエネルギー基本計画などにおいて、プルトニウム消費の円滑化という視点も含め、「もんじゅ」の位置付けをきちんと再構築することには、大きな意義がある。

そのためにも、現行の「もんじゅ」行政には、"最後通牒"が出されなければならない。

誰もこういう言い方はしないが、未だ豊富な資源を自給することのできない我が国において、核燃料サイクルによるプルトニウムは、国内にある既設の原子力発電所を起源とする『準国産エネルギー資源』なのである。

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