新三本の矢 〜 児童扶養手当は、第1子も第2子も第3子も同等に!

ここでは、「新三本の矢」の具体策として盛り込むべき緊要な施策例を提起したい。

9月24日に安倍晋三首相が掲げた『新三本の矢』という名の新政策の柱は、①強い経済(:GDP600兆円達成を目指す)、②子育て支援(希望出生率1.8を目指す)、③社会保障(仕事と介護が両立できる社会づくりと「生涯現役社会」構築を目指す)の3つ。

これらに関する具体策は未だ示されていないので、政府は早急にそれらを提示すべきだ。もっとも、何でもかんでも政府の発信することに依存するのは、いかにも他力本願の政府陳情団や反政府勢力にありがちな典型パターンのようでもあるので、よろしくない。

ここでは、「新三本の矢」の具体策として盛り込むべき緊要な施策例を提起したい。今回提起したいのは、「第二の矢(子育て支援)」に記されている「ひとり親家庭の支援も充実し、子どもの貧困の問題に取り組みます」という点について。

最近よく「子どもの貧困率」という言葉を耳にする。子ども(17歳以下の者)全体に占める等価可処分所得が一定基準に満たない子どもの割合のことを指す。内閣府資料などによると、我が国における「子どもの貧困率」は16%、「ひとり親の子どもの貧困率」では55%となる。

両親がいる場合でも、16%という数字は看過できない。ひとり親の場合には55%に跳ね上がるが、これはもっと看過できない。そんなひとり親の家庭に対する支援策の筆頭格が「児童扶養手当」。まさに、ひとり親家庭の命綱。

児童扶養手当に関する直近の政府のPR資料を見ると、"大切なお知らせです!"とあって、"これまで、公的年金を受給する方は児童扶養手当を受給できませんでしたが、平成26年12月以降は、年金額が児童扶養手当額より低い方は、その差額分の児童扶養手当を受給できるようになります"とある。

これだけ見ると、何とも喜ばしいことに児童扶養手当が拡充されたではないか!!と一瞬思ってしまう。しかし、実は全然そんなことはない。第1子には月額最大4万2千円が給付されるが、第2子は5千円、第3子以降には3千円。ひとり親の子どもの貧困率が55%に跳ね上がるのも頷ける。

ひとり親家庭は、母子家庭が124万世帯、父子家庭が22万世帯(平成23年度現在)。この25年間で、それぞれ1.5倍、1.3倍と増加傾向〔資料1〕。

<資料1>

ひとり親家庭の就業状況については、①母子家庭では、就労率は8割(うち非正規が6割)、平均年収181万円、②父子家庭では、就労率は9割(うち非正規1割)、平均年収360万円。一般世帯と比べると、ひとり親家庭が相当に苦しいことが見て取れる〔資料2〕。

こどもの貧困問題に詳しい専門家によると、例えば母子家庭で非正規の場合には、パートの仕事を2つ3つ掛け持ちしても収入はそれほど多くはないとのこと。また、父子家庭の場合には、子育てのために残業や休日出勤が難しいため、やむを得ず非正規や派遣になるなど生活が安定しづらい状況にあるそうだ。

<資料2>

こういう状況変化がある中で、少子化対策の必要性を自ら説いておきながら、ひとり親家庭への支援策の筆頭格でもある児童扶養手当において、第1子、第2子、第3子に対して、支援レベルの差を温存しておく理由はどこにあるのか?

財政が逼迫しているからなのだろうが、それに関しては、あまりにも膨大かつ偏重に配分されている高齢者向け予算からの転用で工面すべきである。私がここでいちいち言うまでもなく、我が国は高齢者向けには手厚過ぎる一方で、子育て世代向けには手薄過ぎる。

上述の「第二の矢(子育て支援)」では、「今1.4程度に落ち込んでいる出生率を、1.8まで回復できる。そして、家族を持つことの素晴らしさが、「実感」として広がっていけば、子どもを望む人たちがもっと増えることで、人口が安定する「出生率2.08」も十分視野に入ってくる。少子化の流れに「終止符」を打つことができる」とも書かれている。

にもかかわらず、第1子に対する月額最大4万2千円というのは良いとしても、第2子には月額5千円、第3子以降には月額3千円というのは、いかにも少な過ぎるではないか。

平成28年度予算案編成は既に始まっているが、児童扶養手当に関する要求内容には平成27年度予算からの大きな拡充案は見られない。政府の予算編成プロセスの実情を考えると、今から平成28年度予算案編成に修正を加えることは不可能に近い。

そうであれば、今後編成されるかもしれない今年度補正予算案において、「新三本の矢」に係る具体策として、本稿で提起した児童扶養手当の拡充を盛り込まれたい。新三本の矢が、ただ書きっ放しのスローガンで終わらないよう、実効ある具体的な新政策を一つでも多く断行していくべきである。

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