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原発の使用済燃料問題:再処理等拠出金法案の隠れた論点 〜 「徒らに増える規制コスト」は誰が負担するのか?

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先月21日、自民党首脳と経団連幹部との懇談会が開かれ、今国会での重要政策課題を巡って意見交換がなされた。年始以来の株価低迷の中で、首脳たちの発言は、次の通り、経済運営・景気対策一色であった。

◎榊原定征・経団連会長「アベノミクスと経団連将来ビジョン(昨年1月公表)は軌を一にしており、車の両輪のように一層連携強化したい」
◎高村正彦・自民党副総裁「我が国の実体経済はしっかりしている。早期の予算成立が何よりの経済対策になる」
◎谷垣禎一・自民党幹事長「今はデフレ脱却の正念場。財政健全化のため経済成長を実現するしかない」

そうした中、自民党重鎮の一人は、党部会の席上、次のような趣旨の発言をしている。

東日本大震災による東京電力福島第一原子力発電所事故から5年も経っているが、再稼働している原発は九州電力川内1・2号機の2基だけ。今月から来月にかけて関西電力高浜3・4号機が順次再稼働するが、5年経っても再稼動が4基というのはあまりにも酷い。

1基新設するのに100万kW級の原発で4000億円以上の投資。更に全ての原発において、新基準対応の審査などを通じて原子力規制委員会から要求された地震対策などを実施するために様々な強化工事が行われている。全国の原発での投資額を合計すると3.5兆円。これがまだまだ増えそうだ。

政府は設備投資が増えたなどと言っているが、これは全て原発関係の工事。民間企業である電力会社は、そんな大変な投資をしながら耐えている。しかも、あと1年以内に何基動くか分からない。

そういう状況は、いわば民間経済に対して政府が不当な介入を行っているに他ならないと思う。一定の安全審査は必要であり、ある程度の時間がかかるのは仕方ない。だが、ルールに則ってもっと速やかに審査対応し、早く稼働させるべき。

関西電力は、高浜が再稼動すれば料金を5%引き下げる方針だが、審査が早く終了していれば引き下げはもっと早く実現した。規制対応の工事が合理化されれば、料金引下げ幅ももっと大きい筈だ。

原発が再稼動すれば、エネルギーコストが下がっていくのは当然。しかし、原子力規制委と政府はそれを全く看過している。極めて微細な申請文書の調整を行ったり、追加的な注文を出したり、後から基準を変更したりと、事実上、原発再稼働を阻害しており、甚だ遺憾。

この発言趣旨は、原発再稼動遅延の影響の広がりや、国民負担、国家的正義更には地方創生の視点からも、至極真っ当である。原子力規制委の審査その他の規制運用や、それに係る規制対応の工事が合理的に要求されるようになり、政府がそれらを促進するようになれば、電力各社の料金は速やかに下がり、その引下げ幅も大きくなる −−−---- とても理に適った指摘だ。

初の技術系の経団連会長として、東電・柏崎刈羽原発を視察してきた榊原会長は、「如何に現場の技術者が震災対策への努力や改善をし、基準地震動等に対応しているかつぶさに見てきた。まさに我々がこれからしっかりと民間企業の代表という立場に立って頑張っていかなければならない」と語ったそうだ。"安倍政権ベッタリ"などと揶揄されている榊原氏ではあるが、財界総理に相応しく、真贋と本質を見抜く眼力はお持ちのようだ。

今月5日、原発の使用済燃料の再処理事業に責任を持つ認可法人の新設などを柱とした『再処理等拠出金法案』(正式名は「原子力発電における使用済燃料の再処理等のための積立金の積立て及び管理に関する法律の一部を改正する法律案」)が閣議決定された。

今年4月の電力小売全面自由化に伴い、地域独占・総括原価方式が撤廃されることで原子力事業を巡る事業環境に大きな変化が生じる。原子力発電を行う電力会社の経営状況が悪化し、必要な資金が安定的に確保できないことや、各社の共同子会社である事業実施主体(現在は日本原燃)が存続できないことにより「再処理」が滞る恐れがあるため、早急な対応が必要となる。

再処理とは、国の「エネルギー基本計画」で核燃料資源の有効利用や、高レベル放射性廃棄物の減容化・有害度低減のために必要とされる核燃サイクル事業の主軸。今回の再処理等拠出金法案は、再処理を伴う核燃サイクルが安定的に続けられるよう、国家管理を強化して必要資金を確保することと、既に再処理の技術・人材が蓄積されている民間活力の発揮を促進することの両立を主眼としている。主要事項は次の3つ。

(1)拠出金制度の創設
発電時に再処理などに必要な資金を新設する認可法人「使用済燃料再処理機構」に拠出することについて、原子力発電事業者に義務付ける。再処理工程と不可分な関連事業の実施に要する費用(MOX燃料加工、廃棄物処分など)も拠出金の対象とする。

(2)認可法人の新設
新設された再処理機構の主な業務は、事業全体を勘案した実施計画の策定や、拠出金額の決定・収納、使用済燃料の再処理の実施など。再処理機構は、日本原燃に事業委託することができる。

(3)適切なガバナンス体制の構築
機構は、第三者(有識者)を含む運営委員会において意思決定を行う。その運営には、認可・承認を通じて国が一定の関与を行うこととし、事業全体のガバナンスを強化する。

電力全面自由化など事業環境の変化と、それに伴う事業リスクの増大を踏まえると、撤退が自由な株式会社という組織形態には懸念が大きい。核燃料サイクル事業の安定的運営の継続のためには、再処理機構という認可法人の新設を含めた今回の制度変更は、基本的に望ましい方向と思える。

だが、危惧される点も幾つかある。原子力規制委からの要請や、新規制基準への適合に対する要請から、全国の原発の規制対応に係る工事費は3.5兆円にも上る。六ヶ所再処理工場など核燃料サイクル施設についても、同様の要請で追加的な工事が発生することは不可避。

私は、原発4基分程度の工事量を有する六ヶ所再処理工場だけで、追加工事費用は数千億円に上るものと想定している。これは、原子力規制委の新しい視点によるものか、勝手な判断によるものか、どうであれ、今後、事業者側の想定を遥かに超える膨大な工事コストが発生する可能性が高い。

これは、事業者の自助努力では到底賄い切れないだろう。そんな不測の事態により、今回の法案による拠出金が急増することも予想される。しかし、その場合の対応に係るルールは今回の法案では全く触れられていない。

こうした追加工事コストの規模については、あらかじめ想定することは難しいかもしれないが、政省令で今から詳らかにしておくことが強く求められる。このままでは、追加工事コストや、そのために要する拠出金が、果てしなくゼロリスクを求める原子力規制コストとして要請されかねない。

そうなると結局、事業継続が覚束なくなるともに、それこそ必要な安全投資が進まなくなってしまう。原子力規制委は、新規制基準の適用に対して適切な猶予期間を設定しながら、『安全性の確保』と『安全投資資金の確保』を並行させていく規制運用に転換していくべきだ。

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