"原発運転差し止め"による損害は誰が負担すべきか?

関西電力は、損害賠償を請求すべきだ。そして、その賠償金で電気代を値下げし、消費者に還元すべきである。では、その賠償は誰がすべきか?

先月28日、関西電力の高浜原子力発電所3・4号機の運転を差し止めた大津地方裁判所の仮処分を、大阪高等裁判所が取り消した。

その翌々30日、四国電力の伊方発電所3号機の運転差し止め仮処分申し立てが却下された。

高浜3・4号機の運転差し止め仮処分の取り消しに関する大阪高裁の「決定要旨」については、「福井原発訴訟(滋賀)支援サイト」の資料から読むことができる。

これを要約すると、

  1. 新規制基準が福島第一原子力発電所事故の原因究明や教訓を踏まえていない不合理なものとはいえない、
  2. 発電所の基準地震動が過小であるとはいえない、
  3. 津波に対する安全性の新規制基準に適合していることを証明している、
  4. 原子力災害対策は未だ改善の余地があるものの、取組み姿勢や避難計画等の具体的内容は適切なものであり、不合理な点があるとは認められない、

などと書かれいる。

これは、関西電力の訴えを全面的に認めたものだ。

また、その「決定要旨」の中で注目すべきは、「関西電力が安全性の基準に適合することの立証をし尽くしたのだから、それを翻したいならば、原告側が科学的・技術的な合理性を欠くことや原子力規制委の審査及び判断が合理性を欠くことを立証する必要がある」とした点。

私は、この趣旨を大いに支持する。

訴えを起こした住民側に科学的・技術的な立証を負わすのは無理であると思われるだろう。だが、即効性のある「仮処分」手続きを使って運転停止を求めたのであれば、それなりの責任を負うのは当然のことである。

伊方3号機の運転差し止め仮処分申し立てを却下した広島地裁の「決定要旨」は、全国各地で起きている運転差し止め仮処分の申し立てについて「司法審査の枠組みが区々となることは、事案の性質上、望ましいとはいえない」とし、この「司法審査の枠組み」は、九州電力の川内原子力発電所1・2号機の運転差し止めの仮処分申し立てを棄却した「福岡高裁の決定を参照するのが相当である」とした。

地震動評価など慎重な検討を要すべき問題については、「本案訴訟で行われるべきであって、仮処分手続きにはなじまない」ともしている。

伊方3号機は運転を継続することができるが、高浜3・4号機は昨年3月の大津地裁の運転差し止め仮処分決定を受けて1年以上停止している。この経済的損失は誰の責任なのか。

産経新聞は3月29日付け社説「高浜逆転決定 安全に原発再稼働を急げ」で、「電気料金値下げが見送られたため、関電管内の消費者は大きな経済的負担を強いられた。高止まりした電気代に、中小製造業者らは苦しんでいる」と述べ、「原発2基の運転停止に伴う火力発電用の燃料代で毎月90億円前後を余分に支出してきた」と指摘している。

この1年間で100億円の損失は一時的に関西電力が負担しているが、最終的には消費者が電気代として支払っている。

関西電力は、損害賠償を請求すべきだ。そして、その賠償金で電気代を値下げし、消費者に還元すべきである。

では、その賠償は誰がすべきか?

「裁判所が決めたのだから国の責任だ」と考えるかもしれないが、国家賠償法第1条には「故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する」とある。今回の案件をこれに当てはめるのは筋違いというもの。

本筋は、関西電力が大津地裁に運転差し止めを求めた住民側に賠償を求めて、民法第709条の「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」に従って住民側が関西電力に100億円の損害賠償を支払うことではないのか。

全国各地の地裁でも、原子力発電所の運転差し止めを求める訴訟が相次いでいる。「仮処分」による運転差し止め請求には、訴えを起こす住民側に損害賠償の責任が生じ、裁判に負けた場合は自己破産しなくてはならないということまで覚悟している住民側の人々がどれだけいるか。

大阪高裁の決定を伝える3月29日付け朝日新聞の論考で、升田純・中央大法科大学院教授は、「そもそも仮処分は正式な裁判の判決前に損害を避けるための法律手続きで、証拠が限られて簡易なものになる。重大な事案は、正式な裁判できちんと判断されるべきだ」と述べている。

原子力発電に反対する活動そのものについて意見を述べるつもりは毛頭ないが、このような「仮処分」作戦は即刻中止した方が良い。訴える住民側の人々が大損するだけだろう。それに、あまりにもみっともない。

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