高速増殖炉「もんじゅ」のゆくえ 〜 国の行政責任はなぜ問われないのか?

11月13日、原子力規制委員会は高速増殖炉「もんじゅ」の運営を巡り、JAEAを"能力不足"だとして、別の運営主体を探すよう文部科学省に勧告を行った。

先月13日、原子力規制委員会高速増殖炉「もんじゅ」(福井県敦賀市)の運営を巡り、保守管理上のミスが続く日本原子力研究開発機構(JAEA)を"能力不足"だとして、別の運営主体を探すよう文部科学省に勧告を行った。加えて、半年以内にJAEAとは別の運営主体を決定できなければ「もんじゅ」を根本的に見直すべきと、原子力規制委は文科省に注文を付けた。

だが現実的には、高速炉を扱うことができる専門家集団は、JAEA以外にはない。そんな状況ではあるが、「もんじゅ」は国のエネルギー基本計画にしっかりとした位置付けがなされていながらにして、規制委は突如"退場勧告"をしたわけだ。

高速増殖炉に関しては、「もんじゅ」の不祥事に関する報道ばかりが目立っている。しかし、世界に眼を向けると、ロシア、フランス、インド、中国などでは、高速増殖炉の開発と実用は推進されている。この方面に詳しい専門家や政府関係者に事情を伺ったところ、現状は概ね次の通りだ。

ロシアでは、「BN-600(60万kW;1980年に商用運転開始)」、「BN-800(88万kW;今月に商用運転開始)」、「BN-1200(120万kW;計画中)」という順で段階的に開発が進められてきている。BN-800は、今月11日に商用運転が開始されたと報じられた。発電能力88万kWは、もんじゅの3倍。

フランスでは、次世代原子炉「アストリッド」という60万kWの高速増殖炉の開発が進められている。2025年の完成を目指す。既に、JAEAや三菱重工業は、フランス原子力大手アレバなどとの間でアストリッドの研究開発協力で合意している。フランスは、原発から出る使用済核燃料の再処理や、放射性廃棄物の減量・有害度低減技術の実証にも活用するようだ。

そうした中、日本がこれまで長年にわたって築いてきた高速増殖炉に係る技術は、突如として大きな危機に瀕してしまった。原子力規制委による先の勧告を受けた文科省では、検討体制を敷く準備を進めている。第1回目の検討委員会を今月中に開催するとのことだが、急ごしらえの拙速な対応に見える。

マスコミ報道の多くは、JAEAを一方的に悪者扱いしている。だが、複数の関係者によくよく聴いてみると、電力会社やメーカーがもんじゅの現場から技術者らを引き上げたために深刻な人手不足となった状況で、少なくとも1年は要する複雑な保守・点検に関して、原子力規制庁の職員が3か月ごとに現場にやって来ては、"まだできていない"などとして一方的に判定し、保安規定違反としたようだ。しかも、違反と指摘された監視カメラは、安全上重要な機器リストにはなく、保安規定違反の対象ではない。問われるべきは、国の行政責任ではないのか。

もんじゅが躓いた発端は、1995年12月のナトリウム漏洩事故。配管に挿入して取り付けられたナトリウム温度計(熱電対温度計)ウェル(さや管)の細管部が折損し、折損によって生じたさや管太管部と熱電対との隙間を通って当該配管の外へ漏洩した。これは、さや管の中の熱電対の設計ミス。その設計を改善すれば直ちに解決するものだった。それを、ビデオ隠しなどの不祥事で、あたかも"大事件"のようにされてしまった。

技術的には、もんじゅのようなナトリウム冷却炉は「ナトリウム−水反応」という潜在リスクがあるのは事実だ。しかし、きちんとした管理をすれば、そのリスクの顕在化は抑えられる。これは、長年の「常陽」(茨城県大洗町)の運転実績や、ロシアのBN-600の成功例が証明している。常陽は1977年の臨界以降、累積運転時間は5万時間を越え、11回の定期検査を含め、20年間にわたって安定・安全に運転継続を達成した。ロシアのBN-600は、最初の10年間に27回のナトリウム漏れを経験した。だがその後は問題を克服し、1993年以降ではナトリウム漏れはなく、2001〜2012年の平均稼働率は78%以上となった。

だから、点検すべき対象機器はナトリウム漏洩検知系だ。それを捉えずに、揚げ足を取るような形で徒らにJAEAを叩くことは、全く公平さを欠いたものであろう。国は、もんじゅがどうすれば立ち上がれるかという視点で、点検漏れを防止する現実的な点検メソッドを整備するよう原子力規制委に要請することが先決だ。

新たな組織を一から創るなどという愚は避け、文科省など関係省庁が一体となってオールジャパン体制で、事業者・メーカーを含めてJAEAの人材を短期的にも中長期的にも充実・強化していく体制を整備すべきだ。予算を長期的にダラダラと付け続けるのではなく、例えば「予算は従来の倍にするが、必ず5年で100%出力を達成して基本データを取る」というような即効性のある予算配分を行い、短期で目標達成を図る方がコスト合理化に繋がるはずだ。

もんじゅの建設費は5886億円で、運転維持費が1989〜2015年で4339億円に上る。運転維持費は年額約200億円。短期で目標達成することが、コスト削減に有効であるとは明らかだ。JAEAをただ叩き続ければ良いわけはない。

JAEAに反省点が多いのは周知のことであり、それを改善するのはもちろんJAEAの責務に決まっている。しかし同時に、これは国が長年にわたって、振興する側としても、規制する側としても、直接関与してきた国家事業なのだ。この点でも、一番問われるべきは、国の行政責任であると私は思う。

それを痛感している行政官は一人もいないのだろうか??

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