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ブラジルの至宝ネイマールに見る、社会的包摂とリーダーシップ

2014年03月09日 18時37分 JST | 更新 2014年05月09日 18時12分 JST

ヨハネスブルグで開催されたサッカー南アフリカ代表とブラジル代表の国際親善試合は0-5と、ブラジルの圧倒的な強さが結果として現れた。サッカー大国ブラジルの10番、バルセロナに所属するネイマールもハットトリックを達成した。先日のコンフェデレーションズカップで、日本代表に先制点を挙げたゴールを思い出されるひともいるのではないでしょうか。

YAHOOニュースでも掲載されていましたが、この国際親善試合の結果以上に広く発信された出来事がありました。

だが試合後に"事件"は起こった。ピッチ脇から警備の網を掻い潜った少年が小走りでピッチに乱入。もちろん慌てた係員は少年に駆けより、ピッチ外へと誘導しようとした。


しかしここでブラジルのエースが意外な行動をとった。ネイマールは係員を静止すると、笑顔で近寄る。するとそのまま抱きかかえて勝利を喜ぶブラジルイレブンの輪の中に連れて行ってしまったのだ。

イレブンはこの少年を胴上げするなど歓迎。DFダビド・ルイス(チェルシー)は携帯電話でネイマールとの2ショット写真を撮るなど、大はしゃぎで迎え入れた。
小さな乱入者が一躍主役...ブラジルのエースが見せた優しさが話題に

サッカーに限らず、スポーツの試合に乱入するひとは少なくない。面白映像などでは、つかまらないように走り回る個人や動物を追いかける大会関係者や選手などの姿が流れることもある。決して許されたものではないが、今回ピッチに現れたこの少年。

どうやって入ったのかはわからないが、トコトコと笑顔でピッチを走る子どもにセキュリティが駆け寄る。そして(当然のことですが)外に出て席に戻るように促す。子どもなので大人が抱えて出してしまえば終わりだし、実際にそうしようとしていた。

そこにネイマールが歩み寄り、子どもを抱えて、チームメートのもとへ。ここは上記映像にしっかりと映っています(80万回以上閲覧されている)。

社会的包摂といってはいい過ぎかもしれませんが、「ある場」に入りたい個人がいたとき、内輪を守る人間がその個人を出そうとします。入り方に問題があるという見方もあるでしょうが、その入り方がわからないひともいるでしょう。それは文化や社会、経験不足などさまざまであり、内輪のひとにとっては「当然」「常識」であっても、外側のひとには知りようもない暗黙知だったりします。

しかし、入るべきパスを持たない個人が入ろうとして、追い出されそうになる。今回は子どもということもありますが、成人男性の場合で悪質だと、追いかけあい、もみ合いになる映像はいっぱいあります。

そこにネイマールという個人が現れ手を差し伸べます。「こっちへおいで。一緒に」とでも言うように。その姿に大会関係者らも笑顔になります。チームメートは、手を差し伸べたネイマールが連れてきた個人を歓迎し、仲間として包摂していきます。

ネイマールは確かにブラジルサッカー界の至宝にして、この試合でハットトリックを成し遂げる、まさにリーダーかもしれません。しかし、彼が持っていたのはリーダーというポジションではなく、リーダーシップであり勇気だと思います。

・仲間に入りたいと思う子どもに手を差し伸べたネイマール(リーダーシップ)

・ネイマールの行動に、子どもから手を離して託した大会関係者(共感)

・ネイマールに抱かれた笑顔の子どもを優しくで受け止めるブラジル代表チーム(仲間)

・一員になれたことが作った子どものはじけそうな笑顔(包摂)

・一連の流れに歓喜するスタジアム(巻き込み)

国際親善試合のスタジアムに入ることはいけませんが、ネイマールが差し伸べた手が、その場にいたすべての人間を一瞬にして巻き込みました。誰かに頼まれた演出でもない行動が、たった1分の映像を通して何かを教えてくれているように思います。

たまたまネイマールがこの試合で調子が悪かったり、負傷してしまっていたら起き得なかったことかもしれません。しかし、さまざまな偶然が重なりながらもひとつだけ言えることは、スタジアムに入ってしまった子どもの存在に気がついたネイマールが、歩み寄り、手を差し伸べ、仲間を巻き込み、社会(スタジアム)を変えた、ということです。

彼のような世界的影響力があったからこそということもできますが、何かに気がついた個人が行動する、ことは日々の生活のなかでできることであり、それが今回の映像から僕が学んだことです。

これは「未来の創り方」だと思います。

(2014年3月7日「若者と社会をつなぐ支援NPO/ 育て上げネット理事長工藤啓のBlog」から転載)