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工藤啓 Headshot

リアリティのためにプライバシーを犠牲にするのは無理と言うものです。

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参議院選挙が近づいています。選挙に限りませんが、社会的なイシュー、大きな事件や事故があると多くのテレビメディアから取材依頼が入ります。

子どもや若者の課題解決に臨むにあたり、メディアの皆様のお力を借りて問題を社会化することもまた大きな役割であると考えております。

その意味で、日頃からご取材を多数いただき感謝しております。実質的にテレビメディアからのご取材は非常に少ないです。

2000年代前半から後半にかけては若年無業者・ニートの文脈で多くの依頼をいただきましたが、いまは活字メディア、ウェブメディアの取材依頼数と比較すればゼロに等しい状況です。

しかしながら、今回の参議院選挙のように社会的イシューに絡むときは、テレビメディアからの取材依頼が殺到します。若者の雇用問題では、無業や非正規雇用で働く若者、今回の選挙から投票権を持った若者たちなどがそれにあたります。

年齢や状況などの条件設定を前提とした当事者探しで、私たちのようなNPOにご連絡をいただけるということは、テレビメディアの皆様に存在を認知していただけているのかなと考えます。

もちろん、意味や意義のあることを発信していただくこと、対峙する問題を社会化することはNPOの重要な仕事ですので、可能な限り協力したい気持ちはいつも持っています。

しかし、テレビメディアの皆様に申し上げたいのは「リアリティとプライバシー」を天秤にかけての取材依頼には応えられないということです。

確かに、実名顔出しがリアリティを持ち、視聴者に対する報道価値を担保するのかもしれません。しかし、家庭が貧しかったり、働けない状態であったり、非正規雇用から正規雇用になかなか移行できない若者のプライバシーを毀損していいことにはなりません。

また、自宅や職場でも撮影したいというのは、ご家族や職場の許可が必要になります。

仮に許諾があっても、どの部分が報道されるかわからないわけですから、放送終了後、ご家族との関係や職場での人間関係がギクシャクするリスクを背負うことになります。それは取材許可したひとたちの自己責任になるのでしょうか。

付け加えて申し上げるならば、放送日が決まっており、いつまでに撮影を終えなければならないご事情はわかりますが、取材依頼から数日で撮影可否の結論を出さなければならないのは、私たちにとっても若者との関係性にリスクを負うことになります。

一般的にテレビに出ることは大きな決断です。ましてや、彼ら・彼女らはテレビ業界で働いているわけでもありません。

しかも、プライバシーを懸けてまで撮影に臨む場合、決断までの時間的猶予やご家族などへのコミュニケーションも必要になります。

それを伝える私たちも、取材を受けるかどうかの決定権を持つ若者にとっても短期での決断はリスクでしかありません。社会的価値がどれほど大きくても、です。

結論も短期、撮影スケジュールも短期間となれば、そもそもテレビメディアに実名顔出しで始めから出たいひとを探しておく方がいいのではないでしょうか。それがリアリティと直結するかどうかはわかりませんが。

これまで若者がテレビメディアに出たこともあります。ご家族もあります。なぜ、本人がプライバシーをさらしてでも承諾したのか。

その理由を振り替えってみますと、ディレクターが事前に団体にヒアリングに来る。現状を話してもよい若者たちとカメラなしでコミュニケーションをする。家族や職場なども撮影したい場合はそちらにもカメラなしで伺う。場合によっては数週間から数か月、ディレクターがカメラなしで彼らと話をしたり、ときには一緒に活動をしたりしています。

その上で、若者自身が「このひとのためなら」と意を決してテレビメディアに出ることを決断しています。

これだけの時間やコストをかける余裕はないと思います。撮影のタイムラインは事前に引かれているでしょう。そのなかでご自身の職務、場合によってはミッションを果たすべく人生を懸けているものと思います。

若者自身もリアリティや報道価値に対して、プライバシーという人生を懸けて決断することになります。そういう空気や雰囲気が伝わって初めて、テレビメディアへの出演というハードルを越える若者がごく少数いる、というのが現状です。

何卒、ご理解のほどよろしくお願いいたします。

(2016年6月20日 「若者と社会をつなぐ支援NPO/ 育て上げネット理事長工藤啓のBlog」より転載)