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グーグルがAI向けの半導体を開発した意味

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グーグルがディープラーニングを高速に実行するための、専用LSI(ASIC)を開発し、すでに囲碁AIの「AlphaGo(アルファ碁)」などにも使われていると発表しました。

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かねてからグーグルは半導体のベンチャー企業を買収したり、私の専門分野でいうとストレージコントローラーを自ら設計しているという噂がありましたので、ディープラーニング専用の半導体を開発してもそう意外なことではありません。

iPhoneやiPadに搭載されているCPUはアップルが開発していますし、ITのサービスを手掛ける巨大企業が、サービスの差別化のためにも半導体まで手を出すというトレンドは、これからも続くのでしょう。

半導体の最先端技術の製造は、数千億円もの初期投資が必要で、参入障壁が非常に高い分野です。

一方、半導体の設計については億円単位のフォトマスク代はかかるものの、設計自体はエンジニアさえ集められればできますし、製造はファンドリに委託することができます。

従って、アップルやグーグルが手掛けている半導体の設計は、グーグルやアップルほどの巨大企業であれば、参入が(製造に比べれば)比較的容易な分野ではないかと思います。

こうしてアップルやグーグルのようなITサービスを手掛ける企業が半導体という部品まで手掛けるようになると、これはまるで一昔前の日本の総合電機メーカーのようです。

例えば、ソニーはプレイステーションのゲーム機やソフトだけでなく、ゲーム機に搭載される半導体のチップも自ら(IBMや東芝と連携しながら)設計・製造していました。

日本の電機メーカーが凋落して行った時に、自社で半導体という部品から消費者向けの最終製品やサービスまで手掛ける垂直統合は悪で、得意な分野だけに事業を「選択と集中」する水平分業が善、と言われました。

それが、勝ち組の米国企業の方が垂直統合に向かっているとは、皮肉なものです。

結局のところ、垂直統合と水平分業のどちらが良いというよりも、その運用で良くも悪くもなるのでしょう。

こうした垂直統合モデルは、部品からサービスまで、全ての分野で競争力がある時(現在のグーグル)には、相互が連携して大変有効です。

しかし、統合している一部の分野が競争力がなくなり、全体の足を引っ張りだすと、難しい問題に直面します。

例えば、もしインテルやnVidiaといった外部のCPUメーカーが、グーグルのAIチップ以上の性能の半導体製品を出してきた時に、グーグルはどうするのか。

グーグルにとってはAIを使ったサービスこそが最も重要でしょうから、場合によっては自社の半導体開発部隊を冷遇してでも、外部の半導体を採用できるのか。

でも、そんなことをされたら、グーグルの中の半導体開発者はやってられません。

また、グーグルのAIチップは外販はしないようです。

グーグルの中でこの半導体を開発している人たちは、外販ができない状態、つまり売り上げが立たない状態で、社内でどのように評価されるのか。

半導体の事業のことだけを考えたら、外部のITサービスベンダ、グーグルのライバルにさえもチップを販売した方がよいのです。

以上述べたことは、かつて垂直統合モデルで事業を展開した、日本の総合電機メーカーが苦しんだことです。

果たしてグーグルやアップルが、どのように垂直統合モデルをマネジメントしていくか、新たな挑戦なのだと思います。

(2016年5月21日「竹内研究室の日記」より転載)