エンジニアは女には向かない職業?

「女には向かない職業」という推理小説の主人公の女性は探偵でしたが、日本で女性が極めて少ない仕事としてはエンジニアがあります。

「一億総活躍」で「女性活用」の政策と言われていますが、政府からすると、これから人口が減っていく日本では、女性も働いてもらわないと困る、というところでしょうか。

その割には、いわゆる「103万円、130万円の壁」、専業主婦を優遇する税制や社会保障制度はなかなか変わらず、政治も言葉だけでなくやるべきことをしっかりやって欲しいものです。

一方、個人にとってはこれからは女性が働くのは当たり前になるのではないでしょうか。

男からの視点になり申し訳ありませんが、今の若い男性で結婚したら奥さんは専業主婦になって欲しいと考えている人はどれだけいるのでしょうか。

価値観がどうだというよりも、これだけ変化の激しい時代に、男性が一人で家族を養い続ける自信があるとしたら、相当すごいことだと思います。

誰でも仕事を一時は失うリスクがある時代には、リスクヘッジとなるのは共働きではないでしょうか。

「女には向かない職業」という推理小説の主人公の女性は探偵でしたが、日本で女性が極めて少ない仕事としてはエンジニアがあります。

大学の学部でいうと電気・電子・機械あたりが女性に不人気です。100人の学生のうち女性はたった2-3人ということも珍しくありません。

電気・電子・機械という学科自体は工学部の中でも学生数が多いです。それはおそらく、就職先、出口としての産業の裾野が広いからだと思います。

最近は日本の電機メーカーは不調ですが、それでも自動車、通信、IT、産業機械、精密機械、電力、交通など様々な産業で活躍するチャンスがあります。

工学部自体が女性が少ないですが、数少ない女性がどこに居るかというと、生命(バイオ)や化学系に集中している場合が多いでしょう。

就職先としては食品・化学・化粧品・製薬メーカーなどに女性の人気が集中しているようです。

しかし、こういった産業は電気や機械に比べればはるかに産業規模が小さく求人数・採用数も少ない。

小さなパイを女性で競っている一方、大きな産業がある電気や機械には女性はほとんど居ない、というとてももったいない状況です。

まあ、仕事選び・学科の選択は好きなことを選ぶのが一番ですから、就職のしやすさで選択するのは本末転倒かもしれませんが。

少なくとも電気や機械にはチャンスが多くあることは女性にも知ってもらいところです。

事実、最近はメーカーも女性枠のようなものがあり、女性を一定数採用しなければいけないようです。

ところが、何しろ女子の学生自体が少ないので、なかなか採用枠を埋める事ができない。

困り果てた企業の方が大学教員の私のところに、「女子学生を紹介してくれませんか?」と連絡が来るくらいです。ただ、「残念ながら女子学生は居ないので・・・」と断らざるを得ないのですが。

電気や機械が女性に不人気の理由としては、高校で習う物理が嫌いだとか、仕事のイメージがしにくいなど、色々なことが言われています。

明確な理由はわかりませんが、「電気や機械、メーカーなんて女が行くところではない」。つまり、エンジニアが「女には向かない職業」だと思われていたとすると、とても残念です。

というのも、エンジニアはむしろ女性に向いた職業だと思うからです。

電気に限りませんが、エンジニアの世界が女性が働きやすいと思うのは、仕事の成果の優劣が数字でわかり、男性社会のややこしいネゴやタバココーナー的な世界・飲み会に参加しなくてもやっていけるからです。

「空気を読む」必要もなく、さっぱりしているのがエンジニアの世界でしょう。

男性にとっても、少々コミュニケーションが苦手な人でも良いものを作りさえすれば評価される、実力主義の世界です。

ですからエンジニアは女性だけでなく、外国人にとっても働きやすい環境だと思います。

ついでに言うと、学歴も関係ないですね。開発の現場では、東大の大学院を出た人が高専卒の人に負ける、ということは珍しくありません。

もちろん、男性の私にはわからないような、「男の嫉妬」で女性が同僚や上司の男に足を引っ張られることもあるでしょう。

ただ、やはりアウトプットの数字という客観的な指標は説得力があるのです。

いいものは誰が作ってもいい、と認めざるを得ない。

また、仕事はチームでやる事が多いにしても、自分の担当が決まれば時間を自分の都合に合わせて調整することも比較的容易です。

例えば一週間後までにある製品の部分を設計するのであれば、いつどのように設計しても構わない。

顧客とやり取りが頻繁にある仕事や窓口対応が必要な仕事に比べれば、エンジニアはマイペースで仕事を進められるので、子育てと仕事の両立も可能なのではないでしょうか。

私も子供が小さい時にはメーカーに勤務していました。例えば子供が急に熱を出して保育園にお迎えに行かなければ行けない、という場合にも対応できました。

さて最近の状況としては、私の身近なところだけかもしれませんが、女性不人気学科の電気・電子もようやく女子学生が増えつつあるようです。

研究室公開などで、電気・電子に進学希望の女子高校生に志望理由を聞くと医療、自動車、セキュリティなど応用製品やサービスをやりたい、という答えを良く聞きます(これは男子学生でも同様)。

つまり、以前よりも電気が何をやるのか、仕事の内容がイメージしやすくなったようです。

その一因としては、メーカーが事業戦略の転換の結果、サービスやインフラ事業へシフトしていることが、結果として仕事内容をわかりやすくし、女子学生の人気を集めることに功を奏しているのかもしれません。

最近は大学の教育も技術だけでなく応用を意識するようになっていますし。

メーカーもハードの性能やコスト勝負ではコモディティ化が進んで勝ち残るのが難しくなり、医療などのサービス分野にも進出しつつあります。

仕方なく(?)メーカーが応用分野にも進出することで、電気・電子分野への女子学生の人気を高めるとするならば、災い転じて福となるで、まあ良いことかもしれません。

メーカーとしてもサービスやシステムに事業では男性以外の多様な視点が必要になります。何よりも、女子学生は優秀な人も多いですから、優秀な人材を獲得できるチャンスが増えるのはメーカーにも朗報です。

ただ、女子学生については残念なこともあります。

工学部では就職するとしても大学院(修士)に進学するのはかなり一般的です。学部ではどうしても基礎的な勉強が中心になります。

企業も研究・開発のエンジニアとしては、修士課程で専門の研究をした人材を採用したい、ということです。

しかし、優秀な女子学生が(男子学生に比較すると)大学院に進学したがらないのです。

ひょっとしたら、高学歴過ぎると結婚しにくいとか、大学に長く居すぎたら婚期が遅れる、などと20年前に言われていたイメージがまだ残っているのでしょうか。

本当にもったいないことだと思います。

社会は一朝一夕に変わるものではなく、多くの人の努力で少しずつ変わっていくものでしょう。

実際にエンジニアになられた女性には、マジョリティである男性の私にはわからない様々なご苦労があるでしょう。

きっとガラスの天井も至る所にあるでしょう。

ただ、エンジニアは「女には向く職業」であることは、きっと確かだと思います。

(2016年1月10日「竹内研究室の日記」より転載)

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