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ツイッターが無ければ生まれなかった論文

2015年04月13日 00時36分 JST

6月に京都で開催される、集積回路の世界のトップ学会の一つであるSymposium on VLSI Tehnology and CircuitsでSSDに関して3件の論文を発表します。

論文のタイトルと要旨はこのブログの最後に記載しました。学会発表の日までは、学会のホームページに記載されいてる技術情報しか開示できません。

ここでは少し、開発に至る背景を書きます。ビッグデータ、IoT、CPSなどと言われるように、人間のみならず社会の様々な場所にあるセンサからデータが集められ、活用されるようになりました。

その結果、データを記憶するメモリ(SSD)への需要が高まっています。ただ、データと言ってもその属性は様々です。データを記憶するSSDへの要求も多様になってきているのです。

例えば子供の卒業式や旅行の時にとった写真はできるだけ長時間、できれば永遠に記憶しておきたい。

一方、クレジットカードの番号や若気の至りでSNSにのせてしまった写真やつぶやきなど、秘匿したかったり、ある期限が来たらデータ自体が消滅してもらいたいデータもあります。実際にはEUで訴訟なども行われており、Googleなどの検索エンジンによってデータをヒットしなくなるようにすることを、「忘れられる権利」などとも言われています。

実際、Snapchatという、写真を友達などの間で共有するけれども、10秒以内に消滅するというサービスが人気を集めました。

ところが、実際は消えていなかった、ということで騒動になりました。

SSDに話を戻すと、私たちはかねてから、SSDの信頼性を高める技術を開発してきました。

機械的にクラッシュしてしまうHDDと比べて、SSDでは蓄えていた電子が抜け出すことで、データが壊れています。

電子の挙動を理解した上でエラーが生じにくいように制御することで、高い信頼性、例えば100年、1000年といった長期間にわたってデータを記憶するメモリを開発してきました。

一方、文末の発表リストの一番最初に書いた論文では、要旨に書かれているように、ある決まった時にデータを自動的に壊すことで、「忘れられる権利(Right to be forgotten)」をハードウエアのレベルで実現する方法を提案しました。

実は、この「忘れられる権利」という概念は、ツイッターがきっかけで知りました。私がフォローしている方には技術者だけでなく、政策やITの運用・プライバシーの仕事をされている方もいます。そういった方々のつぶやきをきっかけにして、「忘れられる権利」をネットで調べ、この権利を実現するメモリというアイデアを思いつきました。

まだ「忘れられる権利」自体が決まった概念ではなく、検索エンジンが特定のデータを削除してしまうと、ある種の検閲にもつながりかねないため、プライバシーと中立性、客観性、公共の利益などのバランスをどのように確保するか、まだまだ議論の余地があるようです。したがって、技術もこれから変わらざるを得ないでしょう。

「忘れられる権利」といった新しい概念や最新の社会動向を私のような専門外の人間が知ることは、そんなに容易なことではありません。私もツイッターというSNSが無ければこの権利を深く知ることもなく、おそらくこの論文を書くことも無かったのではないかと思います。

CPS(Cyber Physical System)という言葉からもわかるように、ITの世界(Cyber)と実世界・社会(Physical)が融合する時代。

かつてはトランジスタの微細化のように、トレンドに乗ってある特定の技術だけを極めれば良い時代もありました。

ところが、実世界・実社会とITが融合するには、研究室に閉じこもって一つの技術だけを考えるのでは不十分です。

「忘れられる権利」が典型ですが、文系・理系などと分け隔てして考えていては、社会の問題を解決できないのです。

しかも、技術自体も、ハード、ソフトなど様々な分野をカバーして、システム全体として最適なものを作る必要が出てきています。「手に職を持った専門家」という言葉がありますが、一つの専門だけでは不十分。

こうしたマルチな能力が求められている時代では、一つの分野を極めたとしても、生き残れるとは限りません。常に社会の動向を学び、様々な分野を理解しようとする姿勢が必須になっているのでしょう。

その時に、ツイッターのようなSNSは、自分とは異なる分野を情報収集する手段として、とても有効だと感じています。

■ "Privacy-Protection Solid-State Storage (PP-SSS) System: Automatic Lifetime Management of Internet-Data's Right to be Forgotten", S. Tanakamaru, H. Yamazawa and K. Takeuchi

【要旨】A privacy-protection solid-state storage (PP-SSS) system with 1Xnm 3bit/cell triple-level cell (TLC) NAND flash memory is proposed to comply with the recent "Right to be forgotten" data trend. In PP-SSS, private data is automatically corrupted within the hardware itself based on expiration dates that are individually selectable for each file. PP-SSS consists of two proposals: partial bit-flip (PBF) and NPBF page-allocation scheme for rough and precise control of the data-expiration dates, respectively. In PBF, a part of the data is bit-flipped and errors are intentionally injected. Therefore, the data lifetime is limited due to failure of error correction. The larger the number of PBF (NPBF) is, the sooner the data becomes unreadable. Since the reliability of each page is different, and to more precisely control the data lifetime, NPBF page-allocation refers to a prerecorded table which stores the measured NPBF of each page with different data-expiration date and write/erase cycles.

■ "Reliability Enhancement of 1Xnm TLC for Cold Flash and Millennium Memories", S. Yamazaki, S. Tanakamaru, S. Suzuki, T. O. Iwasaki, S. Hachiya and K. Takeuchi

【要旨】Endurance and retention are measured in 1Xnm Triple Level Cell (TLC) NAND. To improve reliability, a flexible nLC scheme (flex-nLC) enables the lowest-cost TLC NAND to be used, as is, in long term storage applications, such as cold flash and digital archive: millennium memory, which require 20 and 1000 years retention, and 100 and 1 W/E cycling endurance, respectively. Previously, n-out-of-8 level cell (nLC) technology was applied to 2Xnm TLC for long term storage with 1-time write. Reliability is further enhanced with the new flex-nLC proposal, which combines asymmetric coding and nLC with an additional vertical flag area. Because all data conversion and flag calculations are handled in the SSD controller, the highestdensity, lowest-cost 1Xnm TLC NAND can be used, as is. Optimization of flexible-nLC for 1Xnm TLC reduces errors in the extreme retention applications by 66% and 71%, compared to conventional nLC.

■ "Inductively-Powered Wireless Solid-State Drive (SSD) System with Merged Error Correction of High-Speed NonContact Data Links and NAND Flash Memory", A. Kosuge, J. Hashiba, T. Kawajiri, S. Hasegawa, T. Shidei, H. Ishikuro, T. Kuroda and K. Takeuchi

【要旨】This paper presents a wireless solid-state drive (SSD) system for future applications of large volume storage in mobile devices or data center. The wireless interface in the developed system consists of an inductive-coupling power link with a fast transmitting power control and high-speed data links with transmission line couplers (TLCs). The wireless power link can deliver 1W from the host side to the SSD side. The full duplex wireless data interface achieved raw data rate of 1.6Gbps/link. The error correction block for NAND flash memory system can also correct the error in wireless data links. The data link has tolerance to the interference from the power link, and both the data and power links show the waterproof property of the system.

(2015年4月12日「竹内研究室の日記」より転載)