驚くべきことに、やや太り気味の人の方が、体重が正常な人よりも死亡率が低かったのだ。これは従来の常識とは全く反対の結果だ。一体、どう解釈すればいいのだろうか。まず、こういう場合は、肥満と死亡の双方に関連する要因の有無を確認しなくてはならない。

米国大統領夫人のミシェル・オバマは、「Let's Move」 という肥満対策キャンペーンを実施している。このキャンペーンの目的は、子供達の肥満を防ぐために、親の支援、学校でのヘルシーな給食の提供、安くて健康的な食事の普及、そして、運度不足の解消だ。

僕も日本人として唯一参加した国際共同研究である「世界の疾病負担研究(GBD 2010)」が、今回は、このキャンペーンのエビデンスとして用いられることになった。

約10名の我々国際共同研究チームと100名を越える米国側の研究者と共同で夜を徹して書き上げた。

7月10日にミシェルのホワイトハウスでの会見と同時に「米国医師会雑誌(JAMA)」に掲載された。

サイエンスと政治との連携による政策推進のやり方が実に上手いと思う。

今回のキャンペーンを打ち出さなければならない背景には、米国が肥満対策を真剣に行わなくてはならないことデータが如実に示しているからだ。

肥満は、心臓病、脳卒中、一部のがんなどの生活習慣病の危険因子である。世界でも肥満人口は増加の一途をたどっており、グローバルヘルスの大きな課題の一つになってきている。

肥満対策の方法をまとめて分析した最近の研究でも、運動療法や食事療法などは多くても5%くらいの体重減少効果しかない。薬を使っても最大10%程度である。しかも効果は長期間続かない、というとても厳しい現実を見せつけている。

だからこそ、世の中には様々な肥満対策ビジネスが成り立っているのだろう。

しかし、今年1月に同じ「JAMA」に掲載された米国疾病予防センター(CDC)のキャサリン・フリーガルらの論文は大きな議論を呼んでいる。

驚くべきことに、やや太り気味の人の方が、体重が正常な人よりも死亡率が低かったのだ。これは従来の常識とは全く反対の結果だ。一体、どう解釈すればいいのだろうか。

まず、こういう場合は、肥満と死亡の双方に関連する要因の有無を確認しなくてはならない。

例えば、タバコだ。タバコを吸う人はやせている人が多い。タバコを吸う人は吸わない人に比べて死亡率はずっと高い。肥満と死亡の関係を見る場合には、喫煙者と非喫煙者をきちんと区別しなければならない。

もう一つの可能性は、がんなどの病気だ。病気に罹っている人は体重を落とすことが多い。そして、死亡率はもちろん高くなる。だから、病気にかかっている人とそうでない人を分けて分析する必要があるのだ。

さらに考えられるのは、薬の影響だ。肥満は高血圧や高コレステロールを合併しやすい。そうすると、医師は降圧剤や脂肪を下げる薬を処方する。結果として、そうした薬は、心臓病などによる死亡を予防する効果を持つために、やや太り気味の人の方が体重の正常な人よりも死亡率が下がるという可能性も排除できない 。

フリーガルらの論文では、タバコも病気による影響も考慮されていなかった。

だから、フリーガルらの論文を鵜呑みにして、太っている方が長生きなんだ、やはり好きなもの食べて人生楽しく過ごした方が良いんだ、と思うのは早計のようだ。

やはり、ミシェルのキャンペーンが示すように、肥満は大きな問題であり、小さいうちから肥満にならないことが何よりも大事だ。