ペルー最高峰のレストランから、食材の原種を辿るべくアマゾンへ!料理をめぐる太田哲雄シェフの冒険譚最終章|KitchHike

世界中で料理修行を重ねた、太田哲雄さんのインタビューシリーズもいよいよ今回で最終章。

皆さま、こんにちは!お腹をすかしてお待ちでしょうか?KitchHike編集部のスズキです。

世界中で料理修行を重ねた、太田哲雄さんのインタビューシリーズもいよいよ今回で最終章!世界最高峰のエル・ブジを経て、ミラノのわがままマダムにプライベートシェフとして仕えた後、念願の渡南米。砂漠村での修行、注射おばさんとの出会いを経て、憧れのガストン氏のレストランへ。しかし、そこで留まらないのが太田さん。正社員のオファーを断ってまでアマゾンへ向かった理由とは?!

イタリアンマフィアも、注射おばさんを震えながら探したことも「懐かしいですよねー」と語る太田さん。

食うか食われるか、文字通り命がけ、それだけでは収まらないアマゾン旅のエピソードと、太田さんの料理への情熱がいっぱいの冒険譚・クライマックスをお届けします!

インタビュー前編と中編をまだ読んでいない方は、ぜひこちらから。必見ですよ!

今回作っていただいた手料理

ペルーのチチャロンサンド

口を開けたような形がかわいい!彩りも美しいですね。

ペルーの代表的ストリートフード。3時間煮て余分な脂を抜いた豚肉を、ひまわり油でカリっと揚げました。旨味が凝縮された豚バラ肉を、さつまいも、赤玉ねぎのスライス、ミント、唐辛子と共にバンズに挟みます。ソースは使わないことが多いそうですが、ペルー風マヨネーズに唐辛子ペーストのピリ辛ソースを合わせるのが太田さん流。

ストリートフードひとつでも手が込んでいるのがペルー。見た目の可愛さと美しさと裏腹に、ボリュームもあり、大満足。お味の方は、もう、本当においしすぎて、言葉にできません......!

太田さん流トマトのガスパチョ

鮮やかすぎるトマトスープ!ハッとする、目の覚めるような味わい。

ガスパチョとほぼ同様のトマトのスープ。違う点はニンニクは入れないところ。太田さんの料理はみじん切りのニンニクを入れることはなく、使う場合は香りだけつけて、すぐに取り出すそう。食後のもたれを残さない為に、マダム時代の創意工夫から生まれたアイデア。

イタリア料理というとニンニク必須のイメージですが、なるほどですね。確かにコクはあるのに何杯でもいけちゃうさっぱりしたスープで、夏にピッタリ!

美味しすぎるランチをいただきながら、おまちかねのインタビュー再開です!

2014年 ペルーの最高峰レストラン「ガストンアクリオ」の日々

印象深いできごとはありますか?

-太田

ガストンアクリオでの思い出は、ペルーなんですけどスタッフが世界中から集まっていたこと、それとスタッフの間にエルブジみたいなピリっとした空気ではなく、どこか南米気質の陽気さが漂っていたことですね。音楽がかかったら自然と踊り出すような。ディエーゴというエルブジ出身のシェフが1人いたのですが、神経質でだいたい常に怒っていたので、彼がいる時はピリっとした空気が流れていましたが(笑)。

アマゾンの食材である「唐辛子・アマゾン河の生き物・フルーツ」をかなり使っていたのも印象的でした。アマゾンの唐辛子だけで朝から何キロも掃除して、毎朝手が大変な事になりましたけどね。食用ネズミ「クイ」も250匹くらいは捌いたなと(笑)。

私の働いていた部署の冷蔵庫の奥には、いつも冷たい飲み物が隠してあり、部門シェフ含め、スタッフが定期的に来ては冷蔵庫の中に首を突っ込みながら、シェフに見つからないように冷え冷えの飲み物を飲んでいたのも懐かしいです。初めて入った初日、少し緊張していた私ですが、同僚達が「テツ、しゃがんで冷蔵庫の中に首を突っ込んでみろ。」って言って、私の緊張を和らげてくれたのが印象的です。

まるで映画に出てきそうな雰囲気ですね。素敵な職場です!

-太田

ガストンで初めに配属された部署のシェフが、とても恰幅の良いシェフでみんなからデブって呼ばれていたのも笑ってしまいました。なにか仕込みの質問をする時も、皆が彼の肩に手を当てて、「デブ、これどうするの?」って聞いていたのが印象的。ヨーロッパでは考えられない事だったのでビックリしましたが、私もすぐに馴染みました。

ペルーの調理場では、名前以外にスタッフ同士で、息子、娘、親爺、デブ、ネグロ・ネグリータ(色の黒い子、という意味)、チーノ(東洋人、という意味)など様々なあだ名でスタッフ同士、愛情を持って呼び合っていました。ガストンの職場は高級店なんですけど、人間臭さ、温かみに溢れたレストランでしたね。

今でも一番やりとりするのはガストンのスタッフ達ですね。私はガストン氏に会いたくて、一緒に働きたくてペルーに飛びました。ガストンのレストラン無くしてはペルーには行ってなかったと思います。

「アストリッド・イ・ガストン」にて。中心のスーツの男性がガストン・アクリオ氏!

そんな憧れのガストン氏のレストランからのオファーを断ったのはなぜですか?

-太田

ある日、「契約書を作成するから、うちの正社員になって一緒に盛り上げて行こう!」と言われたのですが、ガストンさんのレストランは料理が土着的じゃなくて、クリエイティブすぎちゃって。クリエイティブなものって、むなしさを感じるんですよね。写真に撮ると凄くキレイだけど、それ以外の部分は食べられるのに捨てちゃうんですよ。

例えば大根の大きさが3cmと決まっていたら、残りは捨てちゃって。それは僕の求めている料理と違うなと思い、原点に戻ろうと決めていて。「日本に帰ろうと思います。」と伝えたんですが、完全帰国するのも面白くないので(笑)、アマゾンに行ってきました。

2015年 伝統を探りにいざアマゾンの奥地へ!

ついに出ましたね、アマゾン!

-太田

ペルーは国土の60%がアマゾンなんですよ。 ペルーのレストランで働いているときに、唐辛子にしてもフルーツにしてもアマゾンのモノをたくさん使っていて、「現地ではどう食べられているんだ?」って聞いても皆知らないんですよ。こんなに豊富な食材の価値をその国の人が知らないのはおかしいけど、「なんで知らないんだ?」って聞くと、危ないし、遠いから行きたくないとか言って。じゃあ僕が行って教えてやるよと(笑)。

まず、アマゾンの玄関口のイキトスという街まで行きました。イキトスには、2kmのスラム街に立つ無許可の市場があって「この世の全てが並ぶ市」と有名で、一度行ってみたくて。やっぱり凄く面白かったですね、ホントに何でもあるんですよ!

イキトスの市場にて。活き活きとした臨場感のある空気が伝わってきます!

見たこともないような形の小さなチリ!もちろんアマゾン産です。

衝撃的な食材はありましたか?

-太田

そうですね、猿とかワニとか......ワニはおばさんが一匹ぶつ切りにしていましたね (笑)。でも、ワニも皮だけ剥がれて財布にされるよりも、嬉しいだろうと。アナコンダとかも来るらしいですね。バナナは房じゃなく、1mほどの幹枝ごと売ってるし、鴨とか鶏もタライに入れられて生きたまま売っているんですよね。食べたけりゃ自分で捌け!と見たこともないフルーツもたくさんあって味も美味しくて。あの市場では無い物を探した方が早いですね(笑)。子どもも大人も、皆生き生きと働いていて、活気があって良いんですよね。

できるだけアマゾンの奥まで行きたかったので、市場に寄った後に街の中を徘徊して、ツーリストセンターを片っ端から訪ねました。でも、まったく相手にしてもらえなくて。アマゾンに行く観光客は、野生の動物たちと触れ合う体験ツアーをして、国立公園のラグジュアリーホテルに泊まるのがスタンダードなんです。僕がやりたいって言ったのは、現地民の村に住んで、狩りを一緒にして、現地の料理を作る、っていう(笑)。

そんな現地ツアーは存在しないですよね!

おや?この鱗と形は、まさかワニの腕先......

大きな枝豆のような形をしたフルーツ!一体、どんな味がするのでしょうか?

-太田

そうやって探し回っていたら、ひなびてさびれた誰も入らないボロボロの場所があったんですよ。そこのオジサンはふたつ返事で、「できるよ、おれが全部やってやるよ。」と。彼の家に泊まらせてもらって、船着き場から船に乗って、じゃあいざアマゾンへ!と3時間ぐらい北上していったらオジサンがある村で帰っちゃって。前歯が4本ぐらい抜けてる裸足のオジサンに引き渡されました。今度はその人の小舟に乗って、2時間ぐらい北上して。

いよいよアマゾンに入って行って、水没している小さな小屋が見えてきたら、また「じゃあな!」と、今度は太ってる現地民のオジサンに引き渡されて (笑)。そしたら「......お前何やりたいの?」と全然話が通っていなくて、1時間ぐらい話してやっと伝えられました。

前途多難ですね (笑)

-太田

それで寝泊りする部屋に連れて行ってくれたんですけど、13人ぐらい子供がいるんですよ。さらに「コイツと一緒に寝て。」って言われて、小さいナマケモノを渡されて (笑)。ペットらしいんですけど。そんな感じでアマゾンでの生活が始まりました。

太田さんと寝食を共にしたナマケモノちゃん。現地では、意外と働き者らしいです。

命を頂くアマゾンの料理

もうすでに色々と想像を越えていますが......アマゾン料理はどのようなものでしたか?

-太田

アマゾンは水道・ガス・電気がないので、薪で火を起こしてました。食材は捕りに行くか、自分の家で飼ってる豚や鶏をしめて食べるか。意外と原始的な料理が一切なくて、茹でたり蒸したり。

狩りは本当に命がけなんですよね。害虫も多いですし、タランチュラなんて山のようにいるし、ハチや獰猛な蛇もいるし......刺されても薬も病院も無いので。動物保護の人たちが乱獲乱獲ってうるさいんですけど、そんなに乱獲するほど獲れないんですよ。僕も4日間入って狩れたのカメ1匹ですからね。

こちらが捕獲したアマゾンの亀、マタマタ。筆舌に尽くしがたい味だそう。気になります。

カメ1匹......!どんなお味なんでしょう......

-太田

最高に美味しかったです。50年物のマタマタだったのですが。現地の人に教わりながらきちんと捌くところから調理までやりました。カメの甲羅はグリルでかんかんに焼いて、お肉は湯通しして、じゃがいもやバナナのすりおろし、唐辛子等でスープにするんですよ。塩も貴重だから少ないし油も少量で、とても健康的な料理です。

日本は魚や肉はキレイにして売られていますが、アマゾンは足から内臓から全部食べるんですよね。しゃぶるようにして食べるのが食材への感謝であると。ゲテモノ食ではなくて、伝統食なんですよね。カカオも半分に割って実を食べるんですよ。そういうことをペルーの人も知っておくべきだと思います。

まさにアマゾンの水先案内人。鼻を5ヶ所も蜂に刺されたオジサンは、怒ってナタで蜂の巣を叩き落としたそうです。

食材はすべてアマゾン河流域で獲られたもの。シンプルなグリルで、素材の薫りが立ち込めてくるよう。

確かにアマゾンというと私たちとは遠い世界というイメージでしたが......そうやって生活が営まれているんですよね。

-太田

南米、アマゾン、ペルー領土というと世間の方たちは汚い、危ないとゲテモノの括りにしてしまうことが多いですが、実際はとても綺麗好きだし、奥がとても深く、歴史や起原で深く繋がっていたりするんです。アマゾンの奥地に住まわれる方たちも、そのことを言っていました。伝統的であって昨日、今日パッとできたのもではないと言うこと。

アマゾンという国ではなく、アマゾンを含めてペルーがひとつの国であることをわかってもらいたいと言っていました。現代人が豊かになればなるほど、アマゾンの自然が汚染されていっているのも事実。いつの日かきちんと文章や資料にまとめて、失われつつあるアマゾンの伝統料理の本を作りたいですね、まあ、売れないかもしれませんが (笑)。でも売れなくても、図書館にあったらきっと良い本だと思います!

日本で始める一軒家レストラン

今後の太田さんの野望はありますか?

-太田

東京で一軒家レストランをオープンしたいですね。なんで一軒家かというと、料理以外でも道具でも空間でも、伝統を大切にしたいので日本らしい建物を使いたくて。あと僕は海外で凄く多くの人に助けてもらって、その恩返しの為というのもあります。

修行時代にレストランの二階に住まわせてもらったりしていて。海外には日本で学びたい料理人の子は山のようにいますが、生活費も高いしなかなか来れないんですよね。でも僕が一軒家を借りたらそこに住みながら働いてもらって、それをステップアップにして彼らの未来への橋渡しにできればいいかなと。

お世話になった国や次の世代へ恩返しをしたい、と何度も語った太田さん。

あと、日本でも薪でご飯炊いてる家は少ないですがそれはペルーやイタリアでも同じで、近代的になりすぎて本当の大切にしなきゃいけない物が失われつつあるんですよね。僕はそういうのを伝えていきたい。味だけじゃなく手法も原点に戻って、便利にし過ぎなくて良いものは便利にする必要はないと思いますね。

これから若い子たちが料理を志す時に、古典的な手法を知らないというのはすごく悲しいことなので、クリエイティブな方向にいくにも、スタート地点をきちんと見てからいくというのがとても大切ですね。

太田さんのレストラン、皿洗いでも良いのでぜひ働きたいです (笑)!楽しみにしていますね!

インタビューはこれにて完結!太田さんの料理をめぐる映画のような半生、いかがでしたでしょうか?

ただやみくもに好奇心だけで世界中を飛び回るのではなく、常に「原点を学ぶ」ことを目的としてストーリーを大切に、修行を重ねてきた太田さん。次はどんなドラマが待っているのでしょうか。太田さんの益々のご活躍、KitchHikeメンバー一同、心より祈念いたします。太田さん、今回は本当にありがとうございました!

それでは最後に太田さんから直接いただいた熱いメッセージで、インタビュー三部作を〆させていただきます。これをきっかけにシェフを目指す10代の若者や、"食"に興味を持って世の中を楽しく沸かす人たちが増えたら、これ以上嬉しいことはありませんね!

インタビュー後、キッチンを背景にパチリと1枚撮らせていただきました!

私は今まで3カ国で修行させてもらいました。 これから若い子達で料理の修業に行かれる方、それぞれの目的で海外に行かれる方がいらっしゃると思います。 色々な方に聞かれる事があります。あなたはそんなに色々な料理をやってるけれども、あなたの料理ってどんな料理なの?と。

私の料理のベースはあくまでもイタリア料理です。 何十年とイタリア料理に携わってきましたが、未だに勉強させられる事が山のようにあります。日々勉強です。 スペインのカタルーニャを選んだのもイタリアと繫がりがあるからです。 私は、スペイン料理はカタルーニャ料理しか学んでいませんし、他のスペインの場所の料理を勉強する事は今後もないと思います。

ペルーに飛んだのも、イタリアやスペインで使われている食材の起源をさかのぼる、また食材の原種に会いに行くという目的でした。 ペルー文化の中にイタリア、スペイン、日本が入っている事も修行に行った理由です。ペルー料理も未だに日々勉強させてもらってますし、これからも一生付き合って行きたいと思っています。 日本や海外ではさまざまな料理をミックスした物を無国籍料理とかフュージョンとして捉えるのですが、安っぽく、なおかつ大雑把過ぎて、私はその捉え方が好きではありません。

大切なのは常に自分の中で線引きをすること。私は、踏み出して良いラインと踏み出しては行けないラインを自分なりに判断してきました。今後、私のレストランではこの3カ国の料理を提供していこうと思っています。文章では、うまく伝えられないかもしれませんが、もしこの文章を若い世代の子達が見てくれるんであれば、そこをきちんと理解してもらいたいなと思います。

ただ好奇心でどんどん進むのではなく、自分の中できちんとしたストーリーを作って行く事がとても大切なんです。そこには歴史、文化、食の繫がりが必然だと思っています。 後は私の場合は本当に人に恵まれたと思っています。自分ひとりでは何もできなかったし、周りの人が助けてくれた御陰でこのような経験を積む事ができました。海外で心底嫌な目に遭わなかったのも、周りの人達の御陰です。 これまでお世話になった方達、そしてその国に、ゆっくり恩返しして行きたいと思っています。

2015年7月30日 太田哲雄

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(「KitchHike マガジン」より転載)

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