エルニーニョの意味するもの:先進国では"暖冬でスキーの雪がない"、エチオピアでは"大干ばつによる飢え"

エルニーニョが意味するのは、先進国では暖冬でスキーができない、ということかも知れない。けれどもエチオピアのような世界の最貧国では、飢えを意味する。
©Kiyori Ueno

エルニーニョが意味するのは、先進国では暖冬でスキーができない、ということかも知れない。けれどもエチオピアのような世界の最貧国では大干ばつを起こす原因であり、飢えを意味する。

昨年、エチオピアをエルニーニョが原因とされる大干ばつが襲った。この、実に30年ぶりといわれる大干ばつにより、現在1000万人以上(9人に1人)が食糧支援を必要とする深刻な状況に陥り、私が最近まで働いていた国連世界食糧計画(WFP)を含めた国連各機関は支援を加速している。私がエチオピアにいた頃は食糧支援の対象者は500万人ほどだったので、一気に400万人以上増えたことになる。

東アフリカの「アフリカの角」と呼ばれるこの地域は、歴史的にも干ばつが定期的に起きてきた。エチオピアでは1980年代半ばの大飢饉で40万人が犠牲になった(100万人という説もある)。読者の中には、ガリガリに痩せた子どもたちの姿や、歌手マイケル・ジャクソンたちがチャリティー・ソング"We Are the World" を歌ってアフリカを救おうとしたこの大飢饉を鮮明に覚えている方も多いと思う。

私は4年前、仕事で訪れたエチオピアの農村部で出会ったエチオピアの少女ヒクモちゃん(当時8歳)が忘れられない。貧しい農家の娘であるヒクモちゃんが一日に食べるものといえば、朝学校に行く前に小さなインジェラ(エチオピアの主食。テフという穀物を原料とするクレープのような食べ物)をひとかけら食べ、午後学校から帰るとパスタと野菜が少し入ったスープ。夜は牛乳だけ。ヒクモちゃんはWFPが提供する学校給食を頼りに生きていた。

ヒクモちゃんの父親はエチオピア人の80%を占める自給自足の貧しい農民の一人。ほんの小さな畑でモロコシを育て、5人家族がそれを消費する。けれども雨が降らずに干ばつになると収穫は一気にゼロになる。そうするとヒクモちゃんの家族は食べるものが全くなくなる。当時ローマ本部で働いていた私が、「現場で仕事をしよう」と思った、私の仕事の原点ともなった出会いだった。

ヒクモちゃんと私たち先進国に生まれた人たちとの差は何か。なぜ私は大学院まで行き、国連で働くことができているのか。その答えは一つ、運だ。先進国が豊かだった時代の、豊かな国だった日本の、比較的余裕のある家庭に生まれ落ちたという運。

そして飢えはもはやエチオピアなど最貧国だけの話ではない。グローバル化が進むなか、成長が止まり、貧富の格差が広がる先進国でも起きている。経済大国日本でも餓死者が急増し、アメリカでも4500万人がフード・スタンプ(食料費補助)を受け取っている。

"貧困"、"飢え"をどのように解決するのか。これは私がWFPで働きたいと思った理由であり、ジャーナリストとして追い続けたいテーマであるが、世界中で解決策を探し続ける必要がある課題でもある。

(写真は4年前に私が出会ったヒクモちゃん。今はどうしているだろうか。©上野きより)

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