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著作権保護期間延長にまつわる「法の不遡及」について

2014年05月24日 15時18分 JST | 更新 2014年05月24日 15時18分 JST

TPP交渉の一環として著作権の存続期間が著作者の死後50年から70年に延長になる可能性が十分にあることはちょっと前に書きました。これに関して、延長の効果が既存の著作物にどう影響するか、つまり、遡及効の問題が重要な論点になっています。

一口に「遡及」といっても実はいくつかのパターンに分けられますので、整理して考えることが重要です。

パターン1:著作権保護期間の延長により過去に適法であった行為が遡って違法になる

過去のパブリックドメイン作品の流通が違法になってしまうということです。「法の不遡及の原則」の本来的意味はこれが起きないことです。さすがにこうなることはあり得ません。日本であれば憲法39条に反します。

パターン2:著作権の延長により、いったんパブリックドメインになった著作物の著作権が復活する

英語ですと”copyright restoration”と呼ぶパターンです。前回書いたように前例がないわけではありません。とは言え、ベルヌ条約18条(2)に「従来認められていた保護期間の満了により保護が要求される同盟国において公共のものとなつた著作物は、その国において新たに保護されることはない」と定められていますし、Wikileaksが流出させたTPPのドラフトでも、Article QQ.A.11(2)に「加盟国は協定が有効になった日にその地域でパブリックドメインになっているものの保護を復活させることを要しない」と書いてありますので、仮にTPPにより著作権保護期間が延長されても、こうなることはないと思います。

朝日新聞に青空文庫の文学作品の著作権が復活する可能性があるというような記事が出ましたが、その可能性はないと思います。もし、この記事が私の先日のブログ記事(もしこうなったらいやだな〜レベルのつもりでした)がベースになって書かれたのだとしたらどうもすみません。

パターン3:今著作権が残っている著作物(著作者の死後50年経っていない著作物)の著作権保護期間が延長になる

英語ですと”retrospective extention”と呼んでいるようです。retrospectiveは「遡及的な」と訳されますが、パターン1やパターン2でいう「遡及」とは意味が違います。

これは一見問題ないように思えますが、そもそも、既に創作された著作物の保護期間を延長しても創作のインセンティブには結びつかない(ましてや、著作者が死亡している著作物の保護期間を延長してもその著作者のインセンティブには関係ない)ので著作権法の目的に反するのではないかという見方もあります。また、著作権が著作者死後50年続くという前提で対価を設定して売却した人は、後になって急に20年伸びたわけで不測の損害を受けることにもなります。

とは言え、日本も米国も含め今までほとんどの著作権保護期間延長はretrospectiveに行なわれてきてますのでTPPも当然そうなるでしょう。

本当に「遡及」の問題がないようにしたいのであれば、法律改正後(条約批准後)に創作された著作物のみが保護期間延長の対象になるのが筋と思うのですが。そうなることはないでしょうね。

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(2014年5月8日「栗原潔のIT弁理士日記」より転載)