米国における万引き犯情報共有システムについて(+リカオン社特許について)

「客の顔情報「万引き対策」115店が無断共有」というニュースが議論を呼んでいます。リカオンという会社が開発した、万引き犯やクレームの顔情報を店舗間で共有し、該当者が来店すると、顔認識により検知して通知するシステムの話です。

客の顔情報「万引き対策」115店が無断共有」というニュースが議論を呼んでいます。リカオンという会社が開発した、万引き犯やクレームの顔情報を店舗間で共有し、該当者が来店すると、顔認識により検知して通知するシステムの話です。(追記:リカオン社より「顔情報を共有するのは本人の同意を得た場合だけである」という主旨で記事に抗議するリリースが出ています)。

Twitterで「こんなこと考えつくのは日本だけ」というような趣旨のつぶやきがあったので米国の状況を調べてみました。

"face recognition shoplifter"というキーワードで検索してみると、米国では、一昨年頃から同様のテクノロジーが採用され始めていることがわかります。

たとえば、LP Magazineというサイトの"Facial Recognition: A Game-Changing Technology for Retailers"という記事(2013年5月12日付)では、同様のテクノロジーについて紹介されています。(ただし、「センシティブな問題なので発言者と企業は仮名とした」と書いてあるので、米国においてもまったく問題なしというわけではないということがわかります)。

ところで、このLP MagazineのLPとはLoss Prevention、要するに万引き防止担当者ということです(日本で言えば「万引きGメン」でしょうか)。アメリカではこういう専門家向けのポータルがあるということですね。

顔認証で検知とは言ってもいきなり警報が鳴ったりつかまったりというわけではなく、以前に万引きを行なった人の入店が検知されると、LP担当者に通知が送信され、LP担当者が目視で確認した後に、本人に近づいて名前の確認の後に退店を命じるというプロセスが基本のようです。

また、法律に関する知恵袋的なサイトの情報(専門家の回答ではない可能性があります)によると、顔認識の話とはまた別に、米国の小売チェーン(たとえば、Walmart)で万引きでつかまると、二度とそのチェーン店舗(万引きをした店だけではなく、店舗すべて)に入店しないという誓約書を書かされ、それに違反すると不法侵入として退場を命じられるルールになっているらしいことがわかります。つまり、顔認証が使われるずっと前から、少なくとも同一小売チェーン内では店舗間で万引き行為をした人の顔写真を含む情報をシェアーしているようです(推測)。

さらに、Stores Mutual Associationという組織があり、小売店チェーン向けに万引き犯(および、不正行為を行なった従業員)のデータベースサービスを提供していることもわかりました(データベースに顔写真が含まれているかどうかは不明)。上記のLP Magazineの記事では同様の仕組みにより、万引き犯の顔認識情報を小売店チェーン間で共有することも将来的にはあり得るというようなことも書いてあります(法律的にクリアーされているという意味ではありません)。

まあ(特にプライバシー問題に関しては)米国でやっているから日本でもやっていいかというとまったくそんなことはないのですが、客観的事実としてご紹介しました。

日本においても何らかのルール作りをしないとまずい段階に来ていると思います。禁止されているのかされてないのかがうやむやな状況で、違法ではないから問題ないと先走る人だけが得をするような状況は避けなければなりません。

話は変わりますが、リカオン社のサイトでは、このシステムに関する発明が特願2013-248885として特許出願されていることわかります。番号から見て昨年末の出願なので公開されるのは来年の春以降になりそうです。そして、リカオン社のサイトで「特許出願」のバナーをクリックすると、以下の情報が表示されます。

出願しただけで登録されてない(公開すらされていない)のに「特許権の侵害」について警告するのはちょっと微妙ですね(出願公開の前に登録されることもないことはないですが、もしそうなのであれば出願番号ではなく特許番号を表示すべきです)。よく読むと「特許権取得後において」と注記しているので大丈夫という判断なのでしょうか?

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(2014年4月6日「栗原潔のIT弁理士日記」より転載)

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