花が教えてくれること。暮らしと寄り添う「いけばな」の心

最後に花を見たのはいつですか?

最後に花を見たのはいつですか?

花なんて最近見てないよ。家と職場の往復で花と触れ合っていないよ。という方もいるでしょう。

でも、果たしてそうでしょうか? 花や植物と関わりがないと思っているだけで、実は身の回りに花や植物は意外にあるものです。テレビ番組のセットやお店のウインドーディスプレイ、花屋やスーパーの店先の生花や、道端の街路樹、公園の花壇など、気づかぬうちに目にしているでしょう。

日本人は昔から花と寄り添って暮らしてきました。その証拠にひな祭りや七夕として年中行事になっている「五節句」も、花や植物と関係が深く、それぞれの節句には植物の名前があてられた呼び方もあります。

五節句は奇数が重なる日の節目に邪気を払う目的から始まったと言われます。但し、1月だけは元旦が特別な日にあたるため、1月7日を人日(じんじつ)の節句としています。

・人日の節句(1月7日)

「七草の節句」とも呼ばれ、セリ・ナズナ・ゴギョウ・ハコベラ・ホトケノザ・スズナ・スズシロの春の七草の入った粥を食べれば、1年が無病息災で過ごせるといわれる。

・上巳の節句(ひな祭り)(3月3日)

桃の花が咲く時期であることから「桃の節句」とも呼ばれ、古来中国で邪気を払うと言われた桃の花を飾る。

・端午の節句(5月5日)

別名「菖蒲の節句」。香りの強い蓬や菖蒲を軒に飾り邪気を払い、菖蒲湯に入って無病息災を願う。菖蒲を「尚武(しょうぶ)」にかけて男の子の健やかな成長を願う節句になったとも言われる。

・七夕の節句(7月7日)

「笹の節句」とも呼ばれ、短冊に願い事を書いて笹竹に吊るす七夕飾りは今でも欠かせない行事となっている。

・重陽の節句(9月9日)

奇数(陽)の最大数「9」が重なる大変おめでたい日。「菊の節句」とも呼ばれ、菊酒など菊を用いて延命長寿を願う。

このように植物は古くから日本の人々の暮らしと深くかかわりを持っていたのです。

■菖蒲湯の菖蒲はサトイモの仲間!?

昨年5月に開催された寺社フェス「向源」では、"伝統の体験"ということでいけばな体験講座が開講されました。五節句と植物の関係について触れ、端午の節句にあわせて菖蒲の花を参加者の方々がいけるというプログラムです。

「菖蒲といえば思い浮かぶのは菖蒲湯。子供の日に、菖蒲の葉が浮かんだ湯船に入った思い出がある方もいるのではないでしょうか。しかし、実は菖蒲湯に使う「菖蒲」と、いけばな等に使う「花菖蒲」とは分類的に全く違うものです。」

講師のいけばな松風 副家元塚越応駿さんはこのふたつの"菖蒲"の違いについてこう説明します。

「菖蒲湯に使われている『菖蒲』はサトイモ科ショウブ属、飾る『花菖蒲』はアヤメ科アヤメ属。2つとも葉の形は刀のような形状で、主脈がはっきりと突出していますが、菖蒲湯に使う葉は香りがよくその香りで邪気を払うといわれています。『菖蒲』の花は『花菖蒲』のような華やかなものではなく、蒲(ガマ)の穂のような形状をしています。」

この話を聞いた参加者の中には、「知らなかった」と驚きの声もあがっていました。

■「花菖蒲」「アヤメ」「カキツバタ」の見分け方

どちらもすぐれていて選択に迷うという意味の「いずれ菖蒲(アヤメ)か杜若(カキツバタ)」という言葉がありますが、「花菖蒲」と、同じアヤメ科アヤメ属の「アヤメ」「カキツバタ」も非常に似ています。これらを見分ける方法をご存知でしょうか?

塚越応駿さんによると、花の中心に黄色の線があり、葉を触るとでっぱりのあるのが「花菖蒲」。主に湿地帯に生えます。花に編み目模様、文目(あやめ)模様があるものが「アヤメ」。主に畑の脇などに生えます。「カキツバタ」は花の中心に白い線があり、池や沼に生息しています。さらに、「アヤメ」「カキツバタ」は葉の主脈が目立たないという特徴があるとのこと。

花の開花時期については、おおよそ花菖蒲は5月下旬〜6月ごろ、アヤメは5月上旬〜中旬、カキツバタは 5月中旬〜下旬ごろになります。

■花をいけるその先に

春には桜や菜の花。新緑の時期には花菖蒲、梅雨のあじさい、夏にはひまわり、秋にりんどうや菊。年末年始が近づくと松や南天などと、花屋の店先に置かれる花も変わっていきます。花をいける、花を飾ることによって、おのずと四季の移り変わりを感じることができるのです。

さらに、お客様や家族など、だれかのためを思って花を飾ることは、他者への思いやりやおもてなしに繋がります。前述した「向源」のいけばな体験講座でも、どんなシチュエーションで花を飾るのか、あらかじめイメージしてからいけるように説明がありました。

同じ花材、花器を使っているのにもかかわらず、出来上がった作品は人それぞれ違ったものになります。参加者からも

「終わった後、周りを見渡すと、同じ花材なのにそれぞれ人によって違うんだなと思いました。」

「引き立て方や技など、ちょっとしたことで違うんだなと思いました。」

といった声がきかれました。

そして花をいける時は、ただ漠然ではなく、飾るイメージをしてからいけることが大切です。出来上がった作品が変わってくることももちろんですが、花との向き合い方も変わってきます。

花をいけることは人工物でない花との対話です。花をいけることで人は自分が自然界の一部であることを意識し、同時に、自己と他者を意識します。すべてはつながっている、仏教の「縁起」の考えにも通じます。

これから春へ向かっていくと様々な花がお花屋さんの店頭に並びだします。四季を感じながら誰かのために花をいける、そんな時間もいいものです。花は見る人を元気にしてくれます。桜以外の花も時には"花見"をしてみてはいかがでしょうか。

(ライター satomin)

[参考:「加茂花菖蒲園」( http://www.kamoltd.co.jp/kakegawa/ )]

【向源からのお知らせ】

本コラムは、日本最大級の寺社フェス!「向源」のスタッフより執筆されています。寺社フェス「向源」は、宗派や宗教を超えて、神道や仏教などを含めたさまざまな日本の伝統文化を体験できるイベントです。

■ボランティアスタッフ募集

向源は企業が主催し、イベント会社が運営する一般的なフェスとは違い、ボランティアで運営されているフェスです。普段なかなか触れる事の無い伝統文化を学びたい、体験したい、感じたいと思ってきてくださる来場者様と、伝えたい思いと伝統を携えたお坊さん、日本文化の伝統の後継者を繋げるのが私たち含めボランティアスタッフの仕事です。

そんな『向源』を成功させるため、一緒にお手伝いをしてくれるボランティアスタッフの募集にあたり、説明会を開催します。

<向源ボランティアスタッフ説明会>

2月24日(水)19:30より (19:00 受付開始)

2月27日(土)16:00より (15:30 受付開始)

2時間ほどを予定しています。内容は両日とも同じです。どちらかにご参加ください。

会場:浅草神社 (浅草寺本堂に向かって右側にございます。三社祭で有名な神社です)

詳細・お申し込みは向源HPをご覧ください

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