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「声明公演 〜宗派を超えた響きと香り〜」AKB48のルーツも!? J-POPの源流、ここにあり。

2015年04月27日 23時02分 JST | 更新 2015年04月27日 23時08分 JST
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西のグレゴリオ聖歌、東の声明(しょうみょう)。こう言われて「そうだよね」と返せる人は、そう多くはないかもしれません。ましてや、テレビやラジオから流れてくるJ-POPのルーツが「声明」にあると言われたら?

日本の音楽の源流と言われる、声明。

だけどそもそも、それって、一体何だ?

音楽好きの迷える現代人を勝手に代表し、お話を伺って参りました。

■声明って、何だ?

お話を聞かせてくださったのは、台東区谷中にある天台宗金嶺寺(こんれいじ)のご住職であり、大正大学でも講義を持たれている、末廣正栄さん。

真言宗と天台宗の僧侶が結成した「声明の会・千年の聲(こえ) 」にも参加され、国立劇場をはじめ、青山スパイラルホールでの定期公演(近年では、現代作曲家とのコラボレートも!)などの国内活動はもとより、ジョン・F・ケネディ・センター(ワシントンD.C.)や聖バーソロミュー教会(ニューヨーク)、広くヨーロッパでも公演を重ねていらっしゃる、グローバルなお坊さまです。

この機会は、ワールドツアーも敢行する「日本の伝統声楽家」へのインタビューなのだと気付いたわたし。向かう道中、ドキドキワクワクが止まらなくなった。

胸の高鳴りをひた隠し、枝垂れ桜の散り際も美しいお庭の先に庫裡を訪ねると、笑顔の末廣さんがお出迎えくださいました。

――恥ずかしながら、仏教の予備知識に乏しいわたしです。まずは、声明とは何かということを、判りやすく教えてくださいますか?

穏やかな笑みを浮かべつつ、静かなトーンでお話を始めてくださる末廣さん。

「声明のはじまりは、原始仏教と共に生まれた、祈りの歌です。古代インドでは、大切な学問の一つともされていました。仏教の教えが形になるにつれ、儀式の大切な要素となり、日本にも伝来しました」

「いわば声明は、お経に旋律を付けて唱える、仏教における聖歌なんです。海外では、グレゴリオ聖歌と並べてお話されることも多いですね」

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――声明は、法楽のひとつと聞きました。そもそも、法楽とは?

「仏法を味わって楽しみを生じること。仏の教えを感受した喜びを自身が体現して、音や舞などで奉納することを意味します」

仏教の祖である釈尊(ガウタマ・シッダールタ)は、現在のネパール南部に位置した小さな国の王家に生まれました。大小の周辺国には争いが絶えず、人に生・老・病・死の苦しみがあることを感じた釈尊は、王子の肩書きを捨て、旅に出られたと聞きます。

長い旅路、いくつもの気づきを経験され、深い瞑想ののちに、ついに悟りを得た釈尊。

「悟りを得た釈尊は、その場に座ったまま1週間、ご自分が悟ったことを回想して、喜びとともに楽しまれたんです。これが法楽の原義なんですよ」

なんと!

――日本の声明は、どんな歴史をたどってきたのでしょうか?

「日本の声明の歴史について言えば、最も古いものは、天平勝宝4年(西暦752年)に執り行われた奈良東大寺の大仏開眼供養会において、総勢千人以上の僧侶により声明が唱えられたという記録が残っています」

「その後、9世紀の初めに弘法大師空海により真言声明が、中頃には慈覚大師円仁により天台声明が伝えられました。これらが、現在、声明の二大潮流として伝承されています」

――1200年以上の歴史があるのですね。日本の音楽の源流と言われる所以も、教えてください。

「民謡・浄瑠璃の語り物・お能の謡曲・浪花節など...声明は、広くそれらに発展して、日本の音楽の源流となっていきました。そこから派生したのが、現代の音楽にも脈々と受け継がれている、遊び歌・祝い歌・仕事歌・酒盛り歌・盆踊り歌などです」

毎年楽しみにしている盆踊り。宴の場で、友人たちと歌った酒盛りの歌。

今流行している歌もまた、そこから生まれていったんだ。

昭和生まれのわたし。肌感覚で理解できる。

■完成した音楽理論、西洋音楽にも転用された用語

――声明は、普段どんな時に唱えられるのですか? 人数や構成楽器についても教えてください。

「わたしも含め、僧侶は普段から朝と夕のお勤めや法要でお経を読みますが、いわゆる棒読みのお経と、音楽性が高いと言われる声明とを特に区別はしていません。お経を棒読みする唱え方も、声明のひとつと言えるからです」

「声明の原則は、男声による単旋律音楽で、基本的な流れとして独唱(ソロ)に始まり、斉唱(ユニゾン)に続きます。輪唱もありますよ。人数に決まりはありません。構成楽器としては、まずは人の声。そこに、木魚や鐘と言った打楽器を合わせます」

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――楽譜のない時代、声明はどのように伝えられて来たのですか?

「現代は録音の技術がありますが、古の時代は事情が違います。原型が発祥した当時は、すべて口伝によって伝承されていました。今でも声明には、直接の伝授を受けなければ唱えることが許されない曲がいくつもあるんですよ」

悟りの喜びに端を発した声明が、はるか古代のインドから、人から人へ口伝で伝わり、国々を超えて、ここ日本にも伝来しただなんて。

壮大なドラマを感じずにはいられない。

祈りを必要とする現代のわたしたちとそう違わない人々の日常が、そこにもあったに違いない。

「口伝されるうちに、声明にも楽譜が生み出されました。"博士"と呼ばれるものですが、西洋音楽が伝わる以前から、そこには、"調"や"律"などが定められ、独自の音楽理論が完成しています」

ピアノなどを教わる時に出てくる"調"や"律"の単語も、ここから引用され、当てはめられたのだろう。

声明! 聞けば聞くほど、その奥は深い。

――声明にはどのようなメッセージが込められているのですか?

「様々ありますが、たとえば云何唄(うんがばい)は、"いかにすればこの経により悟りの境地に達することができるのか、願わくは一同のために、秘密の教えを開いて広く説いてください"という、修行者から仏への祈りが込められています」

向源の声明公演は、般若心経で締めくくられるという。

般若心経は、わたしたちの最も身近にあるお経で、「色即是空空即是色」を説いたその意味は、現代のわたしたちに理解できる言葉にも訳され、ネット上に多数あふれている。その深淵を、目に耳にしたことがある人は多いだろう。

――最後に、向源での公演の聴きどころをお聞かせください。

「"体感"していただきたい、そう思っています。日本の声明は、1200余年に渡り人々の魂と体に響いてきた、祈りの音。今回は、数多くある天台声明のエッセンスを凝縮するだけでなく、日蓮宗の木剣加持、真言宗の太鼓の音、そして香司の今井先生がこの公演の響きに合わせ特別調香したお香の香りと共に、お聞かせします」

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普段は、仏様に向かい唱えられる声明。

向源の公演では、客席に向かい演奏される。

細胞が振動するような迫力を感じられるはずだ。

響きもさることながら、声明とともに、花びらを散らしたり、礼拝したり。お坊さま方が法楽を奉納するお姿も楽しみだ。

五感をフル活用して、日本の音楽の源流を体感するチャンス。

向源でしか聞けない倍音を、身体中に響かせたい。

(大槻令奈)