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「私たちは年をとりました。あなた方は年をとらないけど」―住民投票から考える民主主義の諸問題(2)

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前回、東京都小平市で行われる住民投票について、その概要を紹介した。同住民投票は、応援している私自身も驚くほどに注目を集めている。新聞各紙に連日記事が掲載され、特に投票まで一週間を切った今週は、報道ステーション(5/20放送分)とNews23(5/21放送分)という代表的なテレビニュース番組でも大きく報じられた。朝日新聞の「天声人語」(5/22)でも住民投票を取り上げている。

それだけの注目を集める小平の住民投票。今回は問題となっている都道328号線計画についてもう少し詳しく紹介したい。

小平市住民投票が対象としているのは、多摩地域を南北に走る「府中所沢線」と呼ばれる道路の小平市部分、「小平都市計画道路3・2・8号府中所沢線」(以下、「328号線」)と呼ばれる区間である。府中所沢線の総延長は27km。小平市部分の328号線は1.4kmある。幅は36m(一部32m)で4車線の巨大な道路である。
(こちらが府中所沢線を紹介するホームページ
http://www.kensetsu.metro.tokyo.jp/kitakita/kodaira328/index.html

 東京都は多摩地域の道路ネットワークの充実、都市間の連携強化などを主な建設理由に挙げている。また震災以降は、火災の燃え広がりを巨大道路が防止するという理由を強調するようになってきている。

何よりもまずこの計画について指摘しなければならないのは、この計画が半世紀前の1963年(昭和38年)に策定されたものだということである。交通を巡る状況は、当然その頃とは異なっている。だが、もとの計画のままに道路計画が進められている。当時は交通量の爆発的な増大が予測されていたと思われる。事実そうなった。しかし今はむしろ、自動車の販売台数の減少が心配されている時代だ。交通量の減少は誰もが口にしている。本当に新しく巨大道路を作る必要があるのだろうか。

また、この付近に道路がないわけではない。328号線建設予定地のすぐ脇を並行して府中街道という道路が通っている。東京都はこの道路について次のように述べている。

府中街道は、そもそも幹線道路としての役割を担っておらず、その機能も有しておりません。現状では都市計画道路ができていないため、幹線道路と同様の役割を担っているという状況です。
http://www.kensetsu.metro.tokyo.jp/kitakita/kodaira328/qa/index.html

 この文章はおかしい。「そもそも」幹線道路としての「機能」を有していないならば、「幹線道路と同様の役割」を担うことはできない。今それを担っているにも関わらず、そのような「役割」をそこに認めることができないのは、単に「この道路は幹線道路ではない」と決めているからである。

もちろん、府中街道の機能には限界があるだろう。府中街道は2車線である。4車線の道路とは違う。昼はスカスカなのだが、確かに朝夕には渋滞もある。しかし、この渋滞の事実は4車線の道路を新たに作る理由になるとは思われない。なぜかというと、東京都はこの府中街道を少しも整備していないからである。

府中街道は北側部分で、市道であるたかの街道と交差している。この交差点が朝夕の渋滞の一つの原因になっている。なぜそこで渋滞が起きるのかというと、府中街道には右折帯も左折帯も作られていないからである。たかの街道は市道だというのに、それがある。不思議である。同じ問題が、より南側の久右衛門橋の信号にも言える。またずっと南では西武線と交差しているが、もちろん高架にはなっていない。

どうして、「幹線道路と同様の役割を担っている」都道に右折帯や左折帯がないのか? 理由は簡単だ。50年前から328号線の計画があるからである。それを作ることになっている以上、府中街道の渋滞を緩和する必要はない。なぜならいつか大きな道路が脇にできることになっているのだから。したがって、府中街道はすこしも整備されない。

東京都は、「府中街道の渋滞をどうにかしたい!」と心から願っていて、「だから328号線を作らせてほしい!」と考えているのではない。328号線を作る計画があるから、府中街道の渋滞を口実に持ち出してきたのであり、328号線を作る計画があるから、府中街道の渋滞がなくならないのである。その意味では328号線計画によって、府中街道に渋滞がもたらされたという側面すら指摘できる。

しかも、府中街道の渋滞は交通量の減少によって緩和している。20年前はバスが30分遅れるのは当たり前だったという。いまではそんなことはない。また、府中街道が最も渋滞していた時期には328号線計画は凍結されていたのである。328号線計画がなぜか──今もってその理由は謎めいたままなのだが──復活してきたのは10年前のことだ。渋滞を理由に328号線を作りたいのではない。何らかの理由で、突如、50年間凍結されていた計画が復活してきたから、必死に理由が模索されたのである。

必死に模索した末に発見された道路建設理由の代表が、「火災燃え広がりの防止」である。おそらく、震災の記憶が新しい今ならば、そして、「震災被害」という言葉を持ち出せば、誰もが黙り込むと考えたのであろう。

(これは軽く読み飛ばしてほしいのだが、私は最初に行った道路建設の説明会で思わず失笑してしまったことがあった。東京都の職員が真面目な顔をして、「阪神大震災で得られたデータによると、巨大道路の脇は火災の燃え広がりによる被害が少なかった。だから地域の被災率を減少させるために巨大道路を作る必要がある」という趣旨のことを述べたのである。確かに燃えやすい住宅が密集していて、道路幅も極端に狭い地域では、火災の燃え広がりによる被害は大きくなるだろう。この場合、仮に、そうした道路の幅を広くすることができるなら、その地域における、火災の燃え広がりによるおける被害を現状よりも少なくできる。ところが、328号線は新しい道路である。すると計算はどうなるか? 新しく作られた巨大道路の脇は被害が少なく、もとから想定されていた被害数は変わらないから、地域全体の被害の割合は減ることになる。つまり、現状で想定されている被害の〝数〟は変わらないが、被害を受けない家屋を総計に付け足すことによって、地域全体の被害の〝割合〟が減るというわけだ。分かりやすい数を上げるとよいだろうか。400戸のうち100戸が被害を受けるなら、被害のパーセンテージは25%になる。そこに、被害を受けない100戸を付け足して、「500戸のうち被害を受けるのは100戸だから、地域全体としては被害のパーセンテージは20%に下がる」というのが説明会において私の目の前で真顔で開陳された理屈であった。)

確かに、町中を巨大道路が網の目状に走れば、火災の燃え広がりを防ぐことができるだろう。しかし、だからといって町を巨大道路で切り裂いていくつもりだろうか? 小平市には328号線を含めて24本の都市計画道路の計画があるというから、これももしかしたら冗談にはならないかもしれない。だが、この災害の話について冗談ではすまない話がある。それは328号線がほぼ全滅させようとしている雑木林がもたらすであろう延焼防止機能のことだ。

森林が延焼防止機能(火災が燃え広がるのを防ぐ機能)をもたらすことは広く知られている。「延焼防止」「森林」で検索すればすぐに資料が見つかる。たとえば、「やまがた公益の森づくり支援センター」が挙げている「森林の公益的機能」、あるいは愛知万博の際に作られたという審議会「森と緑づくりのための税制検討会議」の資料がある。

328号線が潰そうとしている雑木林は、災害時の避難場所である中央公園のすぐ脇にある。避難場所が雑木林によって守られているとすれば大変心強い。しかし、そうしたことはまったく無視しながら、「町中を巨大道路が縦横無尽に走れば、火災が燃え広がらないから安心だ」と東京都は説明していることになる。

この道路計画は50年前のものだが、実は、二号団地と呼ばれる、道路が貫通する予定の住宅地は、この計画が策定される直前にできたものだった。小平には今も畑が多いが、建設予定地もかつては畑ばかりだったようだ。そこに人々が土地を買って家を建てた。その住宅地の周囲は畑であったらしい。ところが、住宅地が出来上がってすぐに、この道路計画が策定される。住民は猛反発した。なぜ我々が家を建てたばかりのこの土地に道路を通すのか? 脇には宅地化されていない土地があるではないか? ──まったくもってもっともな意見と言う他ない。二号団地の方々はいまも道路建設に反対されている。もう50年間である。

なぜ脇に宅地化されていない土地があるというのに、宅地化された土地に道路を通そうとしたのだろうか? 理由は簡単である。道路を真っ直ぐに通したいからだ。今も建設予定地の地図を見てもらえば、府中街道がクランク状になっていることが分かる。それを真っ直ぐにしたいというのが、この道路建設計画を突き動かしている根源的な欲望である。

正直言うなら、地図だけを見ていると、この道路を真っ直ぐにしたいという気持ちは分からないでもない。いや、カックンと曲がっているところだけを地図で見せられたら誰でも真っ直ぐにしたいと思うかもしれない。

しかし道路は地図の上ではなくて、土地の上を通る。そして、土地には人が住んでいて、家が建っていて、木々が生えていて、水が流れていて、植物や動物や昆虫が生きている。具体的な生がある。土地をいくつかの線に抽象化した地図からでは絶対に分からない、個別具体的なものがある。

(この「まっすぐにしたい」という道路建設の欲望のことを考える時、いつも私は、自らが統治している国をすみずみまで知らない王様が「ここに道路を作ればよいではないか!」と言う場面を想像してしまう。私の頭の中の大臣は言う──「しかし王様、ここには人がたくさん住んでおり、大きな林や、大切な用水路・遊歩道がございまして...」。王様はしかし大臣の言葉に耳を傾けない...。)

現実は具体的である。やや言葉は強くなってしまうが、地図だけでこの道路建設問題を考えられると思うのは、傲慢というよりも、単なる無知への居直りという他ない。私は哲学を勉強しているから知っている。現実は抽象化された時、頭の中で思いのままに組み立てられるオモチャのようになってしまう。

抽象化によって取り逃されてしまうものの最たる例が、328号線が貫通する予定の雑木林である。もし関心をお持ちの方がいらしたら、是非いちど現地を訪れていただきたい。私は何度もテレビ局や新聞社の記者の方をそこに案内しているが、誰もが口をそろえて、「こんなに大きな、こんなにすてきな場所だとは思っていなかった。このすばらしさはここに来てみないと分からない」と言う。

もしよければ写真だけでもみていただければと思う。これは住民投票運動を応援してくださっているグリーンアクティブの石倉敏明さんの撮影した現地の写真である。
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328号線が建設されれば、雑木林とその脇を走る玉川上水の遊歩道に生えている480本の木が切り倒されることになる。

私は328号線計画を変更して、府中街道の整備を行うべきだと考えている。整備といっても、いくつかやり方があるが、まずは右折帯と左折帯を作ることだ。踏切を高架にすることもできるかもしれない。いくつかの案を道路の専門家を交えて考えていければと思っている。

もちろん、府中街道を整備して有効利用するという案が仮に採用されても、府中街道に多少の渋滞は残るかもしれない。だが、その多少の渋滞は巨大道路を建設するための口実になるだろうか? 前代未聞の住民投票まで行われるほどに現地の人が疑問を持っている道路計画、上に説明したように絶対的な必要性があるとはとても思えない道路計画、住宅地の人々のコミュニティーと自然環境を破壊する道路計画を、断行する必要があるのだろうか?

道路建設の総工費は250億円を下回らないと考えられる。そのうち半分は東京都が負担し、半分は国からの補助金になると聞いている。東京都のお金は、都民の方々が働いて稼いだお金だ。国からの補助金は国債によってまかなわれるものだ。ここまで疑問のある計画にそんなにお金を使うべきだろうか? 250億円があったら、いったいどれだけの保育園を作ることができるだろう? どれだけの待機児童を保育園に迎えることができるだろう? なお、250億円のうちのほとんどは、建設費用ではなく、土地の買収費用である。お金のほとんどは住民をどかすために使われ、建設業を潤すのはほんの一部だ。当然だろう。あれだけ多くの人が住んでいるのだから。

先に紹介した二号団地でずっと道路問題に取り組んでいらしたご老人が、説明会で東京都の職員に向かってこう仰ったことがあった。

「私たちはもう50年も反対してきましたよ。だから私たちは年をとりました。あなた方は年をとらないけど」。

どういうことだかご理解いただけるだろうか? 50年前から今まで、計画を進めているのは「東京都の職員」である。数年ごとに担当者は変わる。説明会のたびに前に座る人が変わる。だから「東京都の職員」は50年前からずっと年をとらない。二号団地の方々は実際に年をとりながら、絶対に年をとることがない行政の職員を相手に、ずっと「私たちの声を聞いてください」と言い続けてきた。それが50年間叶わなかった。それが住民投票によって叶うかもしれないところに来ている。

私はいま、猪瀬直樹都知事に大変期待している。猪瀬都知事は旧弊を打破するという意気込みをもっている。都知事選では行政におけるスピードを強調されていた。だからこそ、周りから反発されることもあるのだろう。だが、そのような猪瀬都知事なら、「計画を一度決めたら変えられないなんて、いつもいつも指摘されている行政の問題点を繰り返すなよ」と敢えて言うことができるのではないか。「一度決めたら変えられない」という行政の旧弊から東京が自由であることを、日本の新しい行政の形がこの首都東京にあることを、猪瀬都知事なら示してくれると思う。住民投票も行われ、注目を集める都道328号線計画。猪瀬都知事が計画の見直しに着手してくださることを期待したい。

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