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【追記】日本のスーパーで売られているチリ産の鮭を地元の人が食べない理由

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先日、「日本のスーパーで売られているチリ産の鮭を地元の人が食べない理由」というブログを投稿したところ、大変な反響をいただきました。日本のみなさんの食の安全に対する関心の高さに驚いています。同時に、ブログの内容について、様々なご指摘もいただきましたので、ここで補足させていただきたいと思います。

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アイセン州にある鮭の養殖場 PHOTO: HUGO LAGOS


指摘1:「地元の人は、この鮭を食べません」→チリの人もサーモンは食べている

大辞林にあるように、「地元」というのは、「その事に直接関係のある土地」、または、「自分の住んでいる土地」のことであり、国全体を意味するものではありません。

ですから、この場合、「地元」とは、私が住んでいるアイセン州北部を意味します。アイセン州北部は、首都のサンチャゴから1500キロ離れており、本土からチリ国内を通って来る道路がありません。チリの本土とはフェリーを使って行き来するため、到着するまで何時間もかかります。チリの人でもこの地方(パタゴニア)に来たことのある人は多くはありません。ですから、「地元」というのは、チリの他の地域から遠く離れた、この地方のことを意味します。

アイセン州北部と、その海の向こう側にあるチロエ島には鮭の養殖場が多くあり、地元の人は鮭の養殖場の現状を知っているので、養殖の鮭は食べません。

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私の住んでいるアイセン州シスネス郡は、5000平方キロメートルあり、ほとんどの人が、海岸沿いの漁村や周辺の島に住んでいます。

彼らは漁をして暮らしており、自分たちで取った魚を食べているので、養殖の鮭を食べる必要はありません。それに加えて、鮭の養殖産業は彼らの生活を脅かしているので、なおさら養殖の鮭は食べません。私が住んでいる村は海沿いではありませんが、大きな川と湖があり、野生化した鮭と鱒が多くいます。人々は魚を食べたい時には、自分たちで釣るか、友達に釣ってきてもらいますから、養殖の鮭を買う必要はありませんし、みな、養殖の鮭より、新鮮な野生の魚を好んで食べます。

また、チロエ島では、何百年も前から漁業が文化の中心でした。現在、鮭の養殖業が彼らの生活を脅かしているため、何千人もの島民が養殖業者に対して抗議しています。なぜなら、今回の大惨事を引き起こした、歴史上最大の赤潮が、養殖場の衛生管理の問題によって引き起こされた可能性があるからです。

赤潮の大発生の直後、鮭の養殖業者が、死んだ鮭を9000トン、チロエ島の沖に捨てたという事実がわかり、それが、今回、彼らの経済と生活に打撃を与えた有毒な赤潮を引き起こす原因となったのではないかと、人々は疑っているのです。ですから、チロエ島の人が養殖の鮭を食べるとは、思えません。出典:レボリューション・ニュース

アイセン州の住民からの声です。

●ピーター・ハートマン、建築家
私は養殖の鮭を食べません。なぜなら、鮭の養殖は持続可能ではなく、環境を汚染するからです。私は環境に配慮のない運営方法や、汚職、汚染する活動に手を貸したくないのです。それに加えて、抗生物質、農薬、防汚剤などの乱用が健康に良いわけはありません。

●パトリシオ・セグラ、ジャーナリスト、アイセン開発会社・社長
私が鮭の養殖を食べないのは、鮭が外来種であることと、養殖産業が環境的にも社会的にも良くないことです。特にアイセン州では、過剰生産による抗生物質の乱用が致命的なレベルで環境を汚染しており、それが、まことに残念なことに、プランクトンの異常増殖によって生態系の多くが失われるという死活問題につながっています。そして、これが社会的な問題にもなり、地域住民が立ち上がるという現象が起きています。ですから、養殖の鮭を食べることは、愛のない行為であり、道徳心のない行為なのです。

●ハイメ・ヘルナンデス・ウィンクラー、コンピュータープログラマー
僕が鮭を食べない理由は、チリの法の穴を利用する国際産業を支持したくないからです。全くの規制なしでの養殖は、海を破壊しています。鮭の養殖場で働いていない者が何か彼らに反対するようなことを言うと、養殖業で働いている者から口をつぐむようにと攻撃されます。そういうことも好きではありません。


指摘2:「鮭を1キロ太らせるために、4キロの魚が必要」の情報源が曖昧

鮭用の飼料会社の社長さんと政府の漁業検査官に再確認したところ、正しくは、
「鮭を1キロ太らせるために、5.4キロの魚が必要」でした。

どのように計算するかというと、
「飼料1キロを生産するために必要な魚の量は、4キロ。
鮭が1キロ太るのに必要な飼料の量は、1.35キロ(増肉係数1.35)
したがって、鮭を1キロ生産するために必要な魚の量は、1.35 × 4 = 5.4キロとなる」ということでした。(本人の希望により、名前は非公表)

このサイトに、飼料1キロを生産するために、4キロの魚が必要と示す計算式が提示されています。


指摘3:「寄生虫を殺すために殺虫剤を使います。これが、また、海へ流れていきます」 → 殺虫剤を流すようなことはしない


「アジア太平洋資料センター・水産資源研究会」
のレポートにあるように、「海ジラミは、サケに寄生し細胞組織に損傷を与えて死に至らせる寄生虫」であり、「海ジラミ対策として、養殖の全期間を通じて殺虫剤が定期的に投入されてい」ます。

そして、アイセン州の養殖場で多く使用されているのは、Byeliceという殺虫剤です。

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バイエル社のByeliceのサイトに表示されている使用方法によると、
「薬浴によって使用する。鮭をケージの中央へ集めて、防水シートで囲い、水の出入りがないようにする。薬浴中は、酸素を入れ続け、トリートメントが終わったら、防水シートを取り除く。使用後の水は環境(海)に放出され、薬剤は溶ける」とあります。このようにして、薬剤は海に放出されるのです。

また、下のグラフが示すように、チリは、ノルウェイ、カナダ、スコットランドなど他の鮭生産国の使用量を合わせた量の2倍の殺虫剤を使っています。年間13.6トンの殺虫剤が毎年、海に流れていくことになります。

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グラフ 2013年の殺虫剤使用量(単位:キログラム) 出典:Seafood Watch

海洋保全団体や研究者たちは、急激に成長する養殖産業が使う殺虫剤がパタゴニアのフィヨルドと他の海洋生物に与える影響を懸念しており、殺虫剤の過剰使用は寄生虫の耐性を強める可能性があると懸念しています。また、実際に、チリでは、寄生虫が殺虫剤に対する抵抗を強めたということが証明されており、今後、爆発的に悪影響が出る可能性があると報告されています。


指摘4:「抗生物質は海に流れていく」→抗生物質はサーモンがまだ手のひらに乗る程の小さい時に注射する

チリの鮭の死因の第1位はピシリケッチア症(SRS)であり、養殖業者にとっては深刻な問題です。チリの鮭養殖業者、カマンチャカのガルシア社長が言っているように、「(抗生物質は)病気になった魚が死なないように処方するもので、病気を予防するものではありません」。

シーフード・アナリスト ダグ・スレトモ氏のレポートによれば、「養殖の全期間を通じて抗生物質を投入する回数は、およそ1回~4回」です。

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養殖の全期間を通じて抗生物質を投入する回数 出典 Fish Pool

また、アジア太平洋資料センター・水産資源研究会は、「SRS の場合、有効なワクチンが開発されておらず、感染力が非常に強いため、発症の初期段階で抗生物質を投与しないと同じ養殖場内のサケが90%以上死ぬことになる」と報告。

ロイター通信は、「有効なワクチンを開発することができないため、チリの養殖業者は抗生物質の量を増やさざるを得えない。チリの鮭養殖場で使われる抗生物質の量は、主要生産国の中では最大。過剰投与が健康に悪影響を及ぼすとして、アメリカの大手スーパーはチリ産サーモンから撤退している」と報道しています。

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グラフ 2013年の生産量1トン当りの抗生物質使用量(単位:グラム) 
出典 Seafood Watch

また、「水産養殖における抗菌薬使用の再検討レポート」によれば、抗生物質は通常、餌に混ぜて与えられます。鮭は開放式ネットの中で養殖されているため、食べ残された餌は、養殖場の下や周囲に沈みます。また、魚の体内に入って消化された抗生物質のうちの約80%も、糞や尿などになって出ていきます。

これら食べ残しの餌や糞などは、養殖場や周りの海底に堆積するか、または、海流に乗って運ばれ、他の場所に堆積したり、海岸に打ち上げられたりします。

当然、これらの堆積物から染み出した抗生物質の成分や、食べ残しの餌に含まれている抗生物質の成分は、、養殖場の周りに生息している野生の魚貝、哺乳類にも影響します。そして、これを収穫したり、食べたりする人間にも影響する可能性があります。