南米チリのパタゴニアのお正月は、雨でした。

日本の皆様、あけまして、おめでとうございます。南米チリのパタゴニアのお正月は、雨でした。

日本とは逆に、季節は夏なのですが、雨が降って、寒くなり、まるで冬のようでした。

クリスマスからお正月かけては、毎年、ベリー類の収穫の最盛期でもあります。

今年は、イチゴ、ラズベリー、グースベリー、カラファテなどがたくさん採れ、ジャムにしたり、ヨーグルトや自家製カスタードクリームと混ぜて、美味しくいただいています。

さて、前置きは、このくらいにして、今日は、「シンプル・ライフ・ダイアリー」の13回目をお届けします。

「シンプル・ライフ・ダイアリー」8月11日の日記から

今朝、庭へ出ると、「キー、キー」という鷹の鳴き声が聞こえた。見上げると、曇り空を背景にして、鷹が頭上を飛んでいた。おそらく、朝食を探しているのだろう。私たちの土地には、6年前から鷹の夫婦が住んでいる。彼らは、一日のうちに何度か、餌を探して庭を飛び回る。

庭には、鷹たちのために、キティーが取ってきたネズミを置いておく場所がある。キティーは、時々、ネズミを半分だけ食べて、道端に置き去りにしたり、私たちへの贈り物として、「食べてね!」とばかりに、玄関の前にネズミを置いて行ってくれるのだけれど、気持ちだけありがたくいただいて、ネズミは、鷹にあげることにしている。もし、タビーが死んだネズミを見つけたら、キティーが必ず残すネズミの尻尾も含めて、丸ごと残さず食べてくれるのだが、タビーが食べない場合は、鷹の食卓に載るというわけだ。

死んだネズミを初めて、発見した時は、どこかに埋めようと思っていた。でも、ポールが、「死んだネズミは鷹にあげたらどうかな?自然界では、それが普通に起こってることなんだし」と言うので、なるほど、それは、その通りだと納得して、鷹にあげることにした。今では、鷹は、私たちにとても感謝しているようで、ポールが、「ビュー」と口笛を吹くと、まるで、「ありがとう」と言っているみたいに、「キー、キー」と答えてくれる。

Paul Coleman

鷹は、とても注意深いので、実際に、ネズミをくわえて飛び去るところを、見たことはない。でも、ある日、デッキに座って、コーヒーを飲みながら、森を眺めていると、鷹が一匹、すぐそばの木のてっぺんに止まっていることに気がついた。鷹は、私たちが地面に置いたネズミをじっと見つめていた。地面に素早く降り立って、ネズミをくわえて飛び立つのだろうと思って、じっと見ていたのだけれど、鷹は、一向に木のてっぺんから離れる様子がなかった。

すると、ポールが、囁いた。

「見て!もう一匹いる」

ポールが指差す方を見ると、ちょうど、もう一匹の鷹が、ネズミをくわえて、立ち去って行くところだった。どうやら、木の上に止まっていた鷹は、見張りをしながら、私たちの気を引く役目をしていたらしく、私たちが、そちらに気を取られている間に、もう一匹の鷹が、抜き足差し足で、ネズミに近づき、静かにネズミを持ち去って行ったのだ。

「なるほど、ああやって、僕らに気づかれずに餌を取っていくんだね」

私たちは、とても感心したのだった。

それから、少しして、今度は、2組の鷹が、上空で身体をぶつけ合うかのように、飛び回り、縄張り争いをしているのに気づいた。片方のカップルは、新参者らしい。どうやら、私たちの土地に興味があるらしかった。2組の鷹は、しばらく、激しく、戦った後、これまでうちを縄張りにしていたカップルが勝利を収め、新参者のカップルは飛び去って行った。

「他の鷹に、ここを取られたくはないよね。ここには、餌がたくさんあるし、最高のテーブル・サービスまでついてるんだから」と、ポールが笑った。

鷹たちの他に、もう一匹、私たちの土地に住みついている鳥がいる。彼は、ミミズや幼虫が大好物。アカメタイランチョウという種類の鳥で、「ウインドウ・バーディー(窓の鳥)」という愛称で呼んでいる。

Paul Coleman

今日の午後も、私が畑に出ると、ウインドウ・バーディーは、すぐ近くの木のてっぺんに止まって、私のことをじっと観察していた。畑の土を掘り起こした時に、ミミズが何匹か出てきたので、それに気づいたウインドウ・バーディーは、素早く地面に下り、ミミズをくわえて飛び立つと、すぐ近くの木の枝に止まって、ミミズをムシャムシャと食べていた。

最初にウインドウ・バーディーに出会ったのは、6年前の秋だった。畑を作ろうと土を掘り返していると、近くに小鳥が止まっていることに気がついた。羽と背中は灰色で、喉からお腹にかけて白く、目が真っ赤な美しい鳥で、優しい声で、「チー、チー」と鳴きながら、地面に下りて、土の上にうごめいていたミミズや何かの幼虫をくわえ、近くの木まで飛んで行って、それを食べていたのだ。それから、毎年、彼は秋にやって来て、ここで冬を過ごすようになった。戻って来るたびに、彼は近くに来るようになり、今では、1メートルぐらいまで近づくようになった。

ウインドウ・バーディーの名前の由来は、彼の不思議な癖にある。彼は、窓へ向かって飛んできて、足で窓ガラスを叩き、飛び去るという仕草を、飽きずに一日中、繰り返すのだ。

「トン、トン、トン」

冬になると、毎朝、私たちは、ウインドウ・バーディーが窓を叩く音で起こされるようになった。

「トン、トン、トン」「トン、トン、トン」

ウインドウ・バーディーは、冬の間、ずっと、これを繰り返し、春になって、ウインドウ・バーディーが旅立つ頃には、窓ガラスは、彼の汚れた足跡だらけになっているのだった。

毎年、戻って来るたびに、ウインドウ・バーディーは、少しずつ大きくなり、年を取って、賢くなっているようだった。そして、去年は、初めて、ガールフレンドを連れて戻って来た。彼女の方は、彼より小柄で、ぽちゃっとしていて、鳴き声は、彼のように、「チー、チー」という単調なものでなく、メロディーがついていて、まるで、歌を歌っているようだった。

「わあ、彼女を連れて帰って来たよ!」

私たちは興奮していた。彼らは、2週間ぐらい滞在して、また、どこかへ旅立って行った。そして、今年の冬、ウインドウ・バーディーは単独で戻って来ると、どういうわけか、もう、窓を叩かなくなっていた。

「なんだか、寂しいなあ」午後、畑で草むしりをしながら、ポールに言った。

「ウインドウ・バーディー、もう、全然、窓を叩かなくなっちゃった。前は、私がお皿を洗っていると、キッチンの窓へ来て、トン、トンって窓を叩いていたのに、もう、来なくなっちゃったし。相変わらず、庭を飛び回っているけど、もう、窓は叩かない。どうしてだろう?」

すると、フクシアの枝を剪定していた、ポールが言った。

「もう、大人になったってことじゃないの?『あの、窓を叩く変な癖、やめたら?恥ずかしいわ』って、彼女に言われたんだよ、きっと」

「あはは、そうかもね」私は笑った。

「まあ、まだ、私の後をついて飛び回ってくれるから、いいか」

それから、ビニールハウスへ行って、コンポストした土とボカシ肥(自家製の有機肥料)を混ぜて、小さな容器に入れ、ブロッコリーやキャベツ、セロリ、パセリ、インディアン・マスタード、芽キャベツなどの種を撒いた。作業を終わって、外へ出てみると、辺りは薄暗く、ウインドウ・バーディーは、もういなかった。

「おやすみ、ウインドウ・バーディー。また、明日」

私は、ひとりごちた。彼は、また、明日、戻って来て、庭を飛び回るだろう。

「チー、チー、チー」と、優しい鳴き声を響かせながら。