安倍長期政権、「戦後レジーム脱却」加速へ 憲法改正の旗印鮮明に

「大義なき選挙」と思う人が多い中で強行された、今回の年の瀬の総選挙。安倍自民党には驕(おご)らずに、其の功をしっかりと国民のために修めてもらいたい。
EPA時事

「彼を知り己を知れば百戦あやうからず」――。今から約2500年前に記された中国古代の兵法書「孫子の兵法」は、敵軍を知り、自軍に通じていれば、百戦百勝になることを説いていた。

安倍首相は今回の衆院選で、この古代からの教訓を胸にして、勝利を確実にしたのかもしれない。経済が失速して、解散総選挙に持ち込んでも、野党はバラバラで、未だ政権批判の受け皿にはなっていない。漁夫の利で今なら自民党は十分勝てる――。政治はマキャベリズム(権謀術数主義)の世界だから、こんな策略や計算が安倍首相の頭の中で働いたとしても仕方はあるまい。

2012年衆院選、13年参院選、そして、今回の14年衆院選と国政選挙で3連勝した、「安倍自民党」はこれで権力が盤石になり、長期政権になる可能性がぐっと高まっている。

長期政権が現実味を帯びてきている安倍政権は何を目指すのか。安倍首相は、戦後の間違った平和主義をただす「戦後レジームからの脱却」を掲げ、次々と政策を打ち出している。その総仕上げとして、今後は憲法9条の改正に突き進むとみている。

2012年12月に一念発起で二度目の政権トップの座に就いた安倍首相は、三カ年計画で、自らの「富国強兵」策を実行しようとしてきた、と私はみている。

実質一年目となる13年は、

(1)国家安全保障戦略(NSS)の策定

(2)新防衛大綱の作成

をそれぞれ実行し、戦後の一国平和主義を転換する「積極的平和主義」を基本理念に掲げた。

二年目となる14年は、

(3)武器輸出を厳しく制限してきた「武器輸出三原則」を緩和

(4)アメリカ政府からの圧力の下、外交や防衛などの機密情報が管理される特定秘密保護法の制定

(5)集団的自衛権の行使容認の閣議決定

をそれぞれ世論の反発も強い中、断行した。

そして、3年目となる2015年以降は、

(6)憲法改正

(7)戦後レジームからの脱却

を目指していくとみている。

事実、安倍首相は14日夜、自民党本部で記者会見し、「憲法改正は自民党の悲願であり、立党以来の目標だ。ただ、憲法改正は衆参両院で3分の2の多数派を形成しないといけない。そこに向かって努力していく。国民投票で過半数を得るためには国民の理解が重要なので、憲法改正の必要性を訴えていく」と述べ、憲法改正にさっそく強い意欲を見せた。自民・公明両党は今回の衆院選で、法案の再可決や憲法改正の発議に必要な3分の2の317議席を上回る326議席を確保している。

対等な日米関係を構築し、憲法改正を目指す。そして、日米関係を強化しながら日本の自立を実現する――。安倍首相は、祖父・岸信介元首相と同様、こんな姿勢で「戦後レジームからの脱却」を目指すとみられる。ただ、アメリカからの「自立」を急げば急ぐほど、ワシントンからの反発を招く可能性もある。

また、こうしたナショナリスティックな政策を実行して行く際は、保守層を束ねるためのイデオロギーや思想が必要となってくる。13年12月の靖国神社参拝は、保守層へのアピールも含まれていたと思われる。しかし、極東国際軍事裁判(=東京裁判)で裁かれたA級戦犯の責任を否定する発言などが出れば、アメリカとのあつれきを生む可能性がある。(岸元首相は終戦後、A級戦犯容疑者として逮捕されたが、釈放されて首相の座に上り詰めた。安倍首相の著書『美しい国へ』によると、安倍首相は幼い頃、「お前のじいさんは、A級戦犯の容疑者じゃないか」と言われることもあり、それに反発していたという。)

今回の選挙でないがしろにできないのが、戦後最低となった投票率だ。「なんで、今、選挙なの?」と疑問に思う国民が多い中、安倍首相は解散選挙に踏み切った。戦後最低の低投票率を招いた結果責任は免れない。

今回の衆院選が戦後最低の投票率となったことについて、安倍首相は14日夜のNHKの番組で、「非常に残念なことである。前回の総選挙も戦後最低の投票率となった選挙だった。あの時、私は野党の党首だったが、何とか投票率が上がるように努力をしていきたいと思っていた。この投票率の問題については与党も野党もないと思う。政治への信頼を高めていくように努力をしていきたい」などと述べるにとどまった。

孫子の兵法には、次のような教えもある。

「戦えば勝ち攻むれば取るも、其の功を修めざる者は凶なり」。

(戦争に勝ったのはいいが、その戦いから得られた利益を国政に反映できないものは愚かであり、戦いでの人的、財政的、精神的被害は結局、徒労に終わってしまうことになる。)

「大義なき選挙」と思う人が多い中で強行された、今回の年の瀬の総選挙。安倍自民党には驕(おご)らずに、其の功をしっかりと国民のために修めてもらいたい。

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