その判断、単なる「エイヤ!」で決めていいんですか?

会社の中ではよく、重大な意思決定の時でさえも「これはエイヤで決める!」といった言葉が飛び交っているかと思います。

第1回【スタンフォード流、インテリジェントエイヤ!で日本企業とビジネスマンを強くする!】

会社の中ではよく、重大な意思決定の時でさえも「これはエイヤで決める!」といった言葉が飛び交っているかと思います。

国会でも与党と野党は噛み合わない言葉の応酬を続け、議長が「議論は尽くされたと思います。それでは投票にうつります」と言えば、安保法制のような重要法案が議員個々人の様々な知恵や見識を活用することなく、場の空気と勢いで決定されていきます。また国の総理大臣は、「すでに十分に議論され決定された」としていた新国立競技場の建設を、世論の空気を読んだのか、いきなり"ちゃぶ台返し"しました。決定内容そのものの当否はさておき、こうした「勢いと空気の意思決定」は、ある種の思考停止状態=極めて粗雑な「エイヤ!」ではないでしょうか。

こうした「KKDD(=勘と経験と度胸とど根性)」の単なる「エイヤ!」を続けていて本当にいいのでしょうか?

私は意思決定支援の専門家・デシジョンアドバイザーとして、この「エイヤ!」を最も適切に扱う方法論をスタンフォード大学で学びその後も実務の中で研究を続けてきました。そして、知的なエイヤ!、すなわち「インテリジェントエイヤ!」の質が上がれば、企業もビジネスマンも公共の組織も、格段に強くなっていくことを、百社・一万人以上の方々への研修やアドバイスを通じて目の当たりにしてきました。

もちろん、先行きの見えない中、100%の確率で成功することはできません。しかし、よりよい意思決定はできるのです。

インテリジェントエイヤ!で意思決定力を高める

「インテリジェントエイヤ!」という言葉に面食らっている方もおられるかもしれませんが、これはひとことで説明すると、"ロジカルに意思決定を行う術"です。即断即決とか〇〇秒で思考・・・といった、意思決定には速さを求めるべきという本が多く出ていますが、それとはまったく違う性質のものです。「かといって、よ~くよ~く考えるといって、じゃあどこまで考えたらいいのか? 決められない症候群に陥らないか?」という疑問にもしっかり答えるものです。

このブログでは、全6回にわたり「インテリジェントエイヤ!」のエッセンスを非常にシンプルにわかりやすく解説していきます。

この考え方は企業だけでなく転職や引越しなど個人の意思決定にも適用できるものなので、ぜひ身につけていただくことをお勧めします。昨年上梓した、拙書『スタンフォード・マッキンゼーで学んできた熟断思考』(クロスメディアパブリッシング)と併せてご覧いただくことでさらに深く理解していただけると思います。

「インテリジェントエイヤ!」の考え方、即ち熟断思考のフレームワークやツールはシンプルですが、非常にパワフルなものですので、どんな困難な悩みにも対処できるようになります(実際、熟断思考のベースになっているスタンフォード大学発祥の意思決定理論は、米国では石油のメジャーから医薬企業、また政府機関まで、多くの企業や組織が導入している考え方です)。

3つの基本要素

さて、「インテリジェントエイヤ!」の説明に入る前に、意思決定の3つの基本要素を理解して頂きたいと思います。

1. 選択肢」「2. 不確実要因」「3. 価値判断尺度」についてです。これらの整理・構造化が肝心です。

連載第1回ではこの3つの基本要素を中心にご説明します。

まずは、みなさんが何か悩みや問題を抱えている時のことを思い浮かべてみてください。

「理想の達成状況」と「意思決定項目」のリストアップ

そこでのアプローチとしては、 まず、いつ頃どんな状態になったら嬉しいか、という理想の達成状況を想像し、それを具体的叙述としてどんどんリストアップして行きます。

この時、相矛盾する/両立し得ないような項目があっても全く構いません。

次に、リストアップした理想の状況の実現に向けて、自分に意思決定できること/コントロールできる項目をリストアップします。

「選択肢」「不確実要因」「価値判断基準」の抽出からディシジョンツリーへ

ここまでに作った二つのリストを眺めながら、頭や心に浮かんでくることをどんどんリストアップしていきます。

3番目のリストをベースに、「選択肢」と「不確実要因」と「価値判断基準」という3つの基本要素を洗い出していきます。

3つの基本要素が洗い出せたところで、これらをディシジョンツリーというツールを用いて構造化・整理し、各選択肢の期待値と振れ幅を理解した上で意思決定をすすめていきます。

ディシジョンツリーについての詳細は割愛しますが、ツールそのものは、今回ご紹介する拙著『スタンフォード・マッキンゼーで学んできた熟断思考』をご覧いただければ、すぐに理解できる程度のシンプルなものです。

『熟断思考』36ページより

簡単に説明すると、意思決定項目の小さい四角から選択肢の分岐を作り、その先に不確実要因の小さい丸とシナリオ (不確実要因がどう転ぶかの複数の道筋)の分岐を展開して行って、末端の各シナリオに価値判断尺度の数値を記すのがディシジョンツリー(=意思決定の樹木 状の構造)です。

そしてディシジョンツリーの末端の各シナリオごとに「トータル嬉しさ総額:Net Pleasure Value(NPV)」を点数付けし、トータル嬉しさ総額の期待値の計算をし、振れ幅も考慮した上で、最終的な意思決定を行う、という流れです。

ちなみに、「トータル嬉しさ総額」は私が提唱している価値判断尺度ですが、複数の価値判断尺度を総合した、自分としての直観・パッションにもとづいた指標です。

疲労と徒労を解消するアプローチ

このアプローチで、日々の仕事や生活の「疲労と徒労」のかなりの部分の解消ができます。

というのは、そうした悩みのほとんどは、具体的には選択肢と不確実性と価値判断基準に由来し、

  • ・選択肢:どうしたらよいか?
  • ・不確実性:もしこれがこうなってしまったらどうしよう、大変だ!?
  • ・価値判断尺度:何を基軸として決めればよいのか?

それら3つが未分化のまま、グルグルと頭の中で回っているだけのため、 結局、徐々に疲労がたまり、その中で時間だけがどんどん過ぎていくことで徒労感を覚えるからです。

まずこの3つを明確に分けてとらえ、そののちに全体を統合して行くことで、納得感をもって、また時間的効率もよく、的確な問題解決や意思決定ができるようになるのです。

今回はここまでとし、次回はいよいよ熟断思考を個人の悩みに適用し、疲労と徒労をミニマムにしつつ納得性の高い意思決定に導く様をご覧頂きたいと思います。

なお、次回以降の掲載テーマは以下の通りです。

第2回:ロジカル人生相談で悩みに取り組もう!

第3回:KKDD(=勘と経験と度胸とど根性)と『インテリジェントエイヤ!』

第4回:「スピーディ」な意思決定は間違い!?

第5回:「スローガン経営とチアリーディング」の限界と弊害

第6回:「英断」を期待するのではなく、「意思決定の質」を上げよう! 誰にでもできる6つのコツ

スタンフォード・マッキンゼーで学んできた熟断思考(Amazon.co.jpヘリンク)

注目記事