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医師試験に実技導入の狙い...「5ミリ折り鶴」にこめられた医学界への問いかけ

2015年07月21日 22時22分 JST | 更新 2016年07月20日 18時12分 JST

「研修医採用に実技試験を導入。極小折り鶴、昆虫の組み立て、ミクロ寿司」

http://www.kchnet.or.jp/recruiting/

この報道は驚きを持って迎えられた。病院にも当院での研修を希望する学生から「折り鶴は折れません。」「虫は・・・無理です。」といった問い合わせがあった。

ハードワーカーズ 2015年7月20日

http://news.aol.jp/2015/07/20/hwz_kurashiki/

Yahooニュース 2015年7月21日

http://bylines.news.yahoo.co.jp/kuchikiseiichiro/20150721-00047718/

このような取り組みをするのにはそれなりに事情がある。

研修医の採用がどのような手続きかご存じだろうか。研修病院は就職先というよりも教育機関である。採用枠は厚労省から事前に決められ、マッチング試験と呼ばれるように、私たちが学生から選ばれているのだ。

病院ごとに学生を受け入れて見学をしてもらったり、筆記や面接試験を通じて、お互いが直接出会って意見交換をする。そのような重要な機会である、マッチング試験に私たちは「実技」を導入することにした。ちょっと難しい作品を課題として学生に与え、面接で話し合う手順を取り入れる。今回実際のマッチング試験の課題を決めるためにトライアウトを実施した。

今回のトライアウト、「昆虫の組み立て、5ミリの折り鶴、ミクロ鮨」という他に類を見ない特殊な形式を通じて、いくつかのことを感じた。

まずは、医学生たちの課題に前向きに取り組むひたむきさである。

作業を進めるうちに少しずつ自分自身の技術が向上し、工夫が成果を上げ、作品に反映されて行く手順が繰り広げられる。15分という短い時間、実際の医療とは異なるユニークな取り組みではあるが、そこにこそ、若い医師が学び成長する手順が凝縮されているようにも思えた。

もちろん、苦手なこともあっただろうし、うまく行かず戸惑う光景もあった。そのようなことを通して得られた自分の作品を手に、私たち医師と医学生たちが話し合うことで、その若者の意図や工夫を感じることができた。そこには彼らの真摯な姿勢や、実直な性格、そして自らを評価し、足りないことに気づいてさらに研鑽を積むというプロとしての姿勢を感じた。

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小さい折り鶴を折れれば医者になれるのか、と心穏やかならぬ医師・医療関係者がいることは十分承知できる。一方で医師の適性をどう測るのかというのは、医学界全体の課題でもある。

私は9年間この病院の教育研修担当者として250人を超える研修医と接してきた。試験は苦手でも患者さんに優しく信頼され充実した研修を送った者もいる。少し話し下手でも、実直でていねいな姿勢が評価されたりする。「多面的」で「継続的」で「実践的」な評価を行いながら、医師として育てて行くというのが実感であった。

現状の筆記と短時間の面接だけの採用手順が適性の一部しか見ていないと感じていた。さらに、医療の現場ではしばしば予想外のことが起こる。医学知識や技術の更新はめまぐるしい。その中で、このような荒唐無稽にも思える作品作りを通して感じられることはたくさんあった。トライアウトに参加した学生にもいろいろな事を感じてもらったようだ。

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実は、トライアウトのあと私はさらに悩んでいる。

職業人としてのキャリアは数十年をかけて形成される。一見単調な手技の先に複雑な手術がある。学生時代に意味もわからず学んだ知識が、医療の現場で「なるほど!」と感嘆するほど納得できることもある。最初は知識や小手先の技術の取得でよかったのが、チームの中での分担や協力などのスキルが求められるようになり、さらに組織間の協力・調整やプロジェクトの遂行などのスキルが必要になりと、求められる内容もレベルも変わってくる。

自分を育てれば、必ず応えてくれる。プロとしての誇りも得られる。一方で、育てるのには時間がかかる。手間もかかる。方向性を見誤らないためには少しあそびを持って多面的に考えることも重要になる。

こんな当たり前で大事なことを、私たちは学生たちに伝えられているのだろうか。最近の評価が頻回に繰り返される風潮の中では、短期的な成果がもてはやされる。時間をかけて自分を育てるという余裕を認めなくなっているのではないか。もっと遠くに行けるはずの人材に対して、私たちの評価手順そのものが、その場に押しとどめる力となってはいないか。この作品作りという課題を増やすことが、単に評価されることが増えるだけと思われては何にもならない。

私たちは、いくつかのことを決めている。実際のマッチング試験では学生の作品に点数を付けないでおこうと思う。その作品を前にしてその学生の意図や工夫を聞いてみたい。自分を育てることを楽しいと思う若者の素敵な面を見つけたい。その素敵な一面にエールを送る、そんなマッチング試験にしたいと思っている。

福岡敏雄

倉敷中央病院 救命救急センター センター長

人材開発センター センター長