育休中に「スキルアップ」はアリかナシか? 円滑な復帰、子離れのためにも 隙間時間を活用【カエルチカラ・プロジェクトVol.4】

たとえ細切れの時間だとしても、仕事から離れて時間が確保できる”育児休業”は千載一遇のチャンスだと思った。

〔本原稿は、カエルチカラ・プロジェクトの一環として「なかのまどか言語化塾」に参加した女性たちが書いたものです。ライターや専門家ではなく、問題の当事者が当事者自身の言葉で発信することで、社会への問題提起や似たような立場に置かれた方々への情報共有を目指しています。編集協力:中野円佳〕

"育休"への不安と焦り

「せっかく休みがとれるんだから、しっかり英気を養っておいで!」

職場の先輩達が、産休育休を控えた私に、こんな優しい言葉をかけてくれた。

当時新卒入社5年目だった私は、先輩の言葉を嬉しく感じる一方で、目の前にある"休業"への大きな不安があった。

そもそも、働き盛りで"仕事を休む"ことは初めてだったし、不在の間、自分がやっていた仕事を周りのメンバに代わってもらっているという負い目もある。休んでいる間に事業環境も変わり、やっと身についた仕事の勘も鈍ってしまうのではないか。わが子の誕生を心待ちにしながらも、そんな不安と焦りを抱えていた。

育休中にNPOサークルを結成した理由

私自身は、約1年間の育休中(2013年秋〜2014年秋)に子育て中のパパやママを主なターゲットとしたNPOのサークルを立ち上げた。

初めての妊娠・出産・育児。そして、激戦区での保活。さらにパートナーは地方へ単身赴任中。ただでさえ慣れないことばかりだったが、働き続けたいという思いと、職場に何か恩返ししたいという想いが原動力となった。

たとえ細切れの時間だとしても、仕事から離れて時間が確保できる"育児休業"は千載一遇のチャンスだと思った。

そう思い立って探し始めたものの、既存のスキルアップの場は「子連れ参加NG」という暗黙の了解があった。子ども連れで参加できる場も、平日開催や活動日が不定期なものが多く、復職後は続けにくい。

それならば、と妊娠前から所属していたNPOのスピーチサークルを見本にして、「育休中・復職後、子育てしながらもスキルアップしたい!」という人たちを後押しする仕組みを検討し、賛同してくれる人たちを巻き込み、形にしていった。

こうした組織づくりや継続的な運営を通じて、マーケティングの基礎知識やプロジェクトマネジメントの実践、メンバのメンタリングなど、確かなスキルも身についた。

育休中にこそスキルアップを

「育休中のスキルアップ」

そう聞いただけで、バリバリのキャリアウーマンや公私共々ガツガツした人のイメージを持つかもしれない。

しかし、キャリア形成を長い目で見た場合も、育休を取得する概ね20代後半から30代半ばの期間は、自分のそれまでのキャリアを見つめ直すのに適していると思う。

私は、育休後も自分の意志をもっていきいきと働き続けたい人こそ、育休中のスキルアップは有効だと考える。現在の自分と目標にしている自分との距離を見つめて軌道修正する余裕もあるし、そのギャップを埋めるための具体的なアクションを起こすことができるからである。

育休後コンサルタントの山口理恵氏は「育休中、職場には月に1回ぐらいのペースで連絡を取っておく」ことが大切で、「その内容は復職予定に変わりがないことと簡単な近況報告程度でよい」、そのやり取りが円滑な職場復帰につながると述べている。

私の場合は、上述したNPOのサークル立ち上げとその後の継続的な活動から、そこで得たことが今後どういう形で組織に貢献できそうか、働き方の転換や専門性を身につけるためにするべきことは何か、上司と定期的にコミュニケーションをとることができた。

この経験からわかったことは、近況報告といっても、自分視点だけでなく組織の視点を忘れていないことが大切であり、その話の題材としてもスキルアップへの取り組みは適しているということである。

自分だけの時間を作り出すための工夫

いざスキルアップと言っても、子ども主体の時間軸で生活していると、なかなか自分の時間を確保するのが難しいものだ。

そこで、発想の転換である。やりたいことを具体的に考え、そのためにパートナーと話し合って具体的に分担し、時間を作る。それ自体が復職後の生活設計のヒントにもなり得る。

私が立ち上げたサークルのメンバを例に挙げると、「活動日の第2/4日曜午前中は学びの時間!」と決めて、パパに子どもを預けて参加している人が大半である。

他にも、ママの自由時間を確保するために、パパがママチャリで会場へやってきて別室託児を利用して参加するケースや同伴参加するケースもある。さらに、子どもに自分が人前で話す姿を見せたいと4歳児を同伴参加させるママなど、様々な参加のスタイルが生まれている。

私自身、自分の時間を持つことで、人はもっと豊かになるし、学びによって人生をより彩ることができると感じるようになった。

自分のやりたいことを見定め、なおかつパートナーや仲間の理解と協力、そして時間の使い方さえ合えば、育休もキャリアブランクではなくブラッシュアップの期間にすることができるのだ。

生き生きとした姿を子どもに見せていくために

私が自己紹介などでこのエピソードを話すと、決まって次のような反応が返ってくる。

「育休中に自分のスキルアップなんて虫が良すぎる。親のエゴだ!」

「そんなことをする余裕があるなら、早く仕事復帰すれば良いのに」

「体力や周囲の協力に恵まれている人にしかできることではない」

確かに、そうかもしれない。しかし、私自身、あくまで育休中は、基本的には育児をしていた。

だからこそ、細切れ時間の中でも、しっかり「充電」するには何ができるかを模索したのだ。そしてそれが、周囲との協力体制づくりにつながるし、仕事を代わってもらう周りのメンバーへの恩返しにもなればと思う。

それに、私はまわりまわって、育休中のこうした活動は子どものためにもなるのではないかと思うのだ。

約1年間の育休は、確かに、目の前の子どもと最も密接に過ごすことができる貴重な時間である。私自身、一定期間、子育てに専念することはとても大切だと思う。

しかし、多少の差こそあれ、生後4・5か月経って、時間や心に少し余裕ができたとき、社会が動いているのに自分は流れに取り残されているという意識が生まれ、それが子どもや家庭に対するネガティブな感情を生んでしまうこともある。

自分たちが望んで授かった子どもなのに、そのせいで自分が錆びていくと感じたり、パートナーへの不満が募ったりするのはあまりに勿体ない。それならば、親が夢中になれることを見つけ、生き生きとした姿を子どもに見せようではないか。

家族が3人いた場合、父親の領域・母親(=自分)の領域・子どもの領域がそれぞれ存在する。そして、その3つは互いに重なり合う部分と独立した部分がある。子どもが幼い時は、独立した部分の「自分だけの領域」は狭いかもしれない。

しかし、子どもの成長に伴って、その領域は少しずつ広がっていく。だからこそ、育児と並行して親自身が学ぶことで、子どもの成長と共に自分も成長するという価値観を持ってほしい。

もちろん、親子ともに体調などが許せばであるが、「子育て中だからxxできない」と嘆いたりあきらめたりする前に、まずは始めてみよう。子どもの成長はあっという間である。いざその時がやってきたときに、「自分だけの領域」で打ち込めることを持っておくためにも。

NPOサークルのメンバーたち

【森野 あゆみ】

1985年神奈川生まれ。慶應義塾大学卒業後、大手通信会社にて、システム開発業務に従事。入社5年目で第1子を出産し、育休中の2014年夏に子育て中のパパママの学びを応援するNPOのスピーチサークル「こすぎの森トーストマスターズクラブ」を立ち上げる。現在も、月2回、約20名のパパママが集まり、継続的に学びの時間を作っている。育休明けからは自らの希望で管理スタッフ職にキャリア・チェンジし、各種プロジェクト管理、労務・教育・広報業務に従事している。目の前の問題を言葉にして解決への一歩を踏み出すことを目指す"カエルチカラ・プロジェクト"の「なかのまどか言語化塾」一期生。

カエルチカラ・プロジェクト」は、目の前の課題を変えるための一歩を踏み出せる人を増やすことを目指すプロジェクトです。

女性を中心に何らかの困難を抱える当事者が、個人の問題を社会課題として認識し、適切に言語化し、データを集め、発信することで、少しでも改善の一途につなげたい。「どうせ変わらない」という諦念、泣き寝入りから「問題を解決できる」「社会は変えられる」と信じることができる人が増えることを願っています。

発起人:WILL Lab 小安美和、研究機関勤務 大嶋寧子、ジャーナリスト 中野円佳

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