PTA活動に参加したこともなかったパパが会長に! 目指すのは「誰からも嫌われないPTA」

ひとりの父親として、また弁護士という立場からも、PTAの現場の実態についてお話を伺いました。

ラシク・インタビューvol.107

墨田区立両国小学校PTA会長 / 志賀・飯田・岡田法律事務所 弁護士 岡田 卓巳さん

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今回インタビューに登場して頂くのは「長女が小学校の頃はあまり学校行事にも参加せず、興味もなかった」と語る弁護士であり、墨田区立両国小学校PTA会長を務める岡田さんです。

そんな岡田さんが、今年、行事も盛んでPTAは活発・同時にPTA活動スリム化も行う下町の公立小学校のPTA会長に就任。ひとりの父親として、また弁護士という立場からも、PTAの現場の実態についてお話を伺いました。

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PTAのお父さん参加率を上げるためにはちょっとした工夫が必要

編集部:PTA会長さんって本当に大変ではありませんか?

岡田 卓巳さん(以下、敬称略。岡田):それが正直なところ、思っていたよりは大変ではないんです。というか、PTA会長って担がれ役なんですね。今こうしてPTA会長としてインタビューを受けていても、こんな色々やってるぞ!という話もないなぁと引け目を感じています(笑)。あと、ミーティングは土曜開催が基本ですし、仕事柄、時間と予定に裁量が効くので、それほど負担なくやれています。

編集部:都心部ではお父さんのPTA参加率は低いような印象を持っているのですが、いかがでしょうか。

岡田:うちの小学校は下町という地域性もあり、またお父さん主流の専門部もあるため、参加率は高い方なんでしょうね。ただスポーツ系の行事など、参加するものが限定されています。だから本部も含めてお父さんがもっと参加して欲しいとも思っています。

PTAのPはペアレンツですから、お父さんでもお母さんでも両方でも、どのような方法でも参加しやすい組織であるべきだと思っています。顔を合わせる機会も多く、立ち話も含めて柔軟にコミュニケーションを取るのが上手いお母さんに対して、お父さんというのは、「会議」や「ミーティング」という「場」をお膳立てしないと集まりにくいし、コミュニケーションも取りにくい所があると思います。その後飲みますか、も大事です。自分もそうですが、好きな人も多いので(笑)。お父さん参加率を上げる為にはちょっとした工夫も必要だなと感じています。

実は今年は、本部役員に企業勤めのパパが入ってくれています。

編集部:男性役員は一定数いる中で、岡田さんがPTA会長になった経緯というか、きっかけはあるのでしょうか?

岡田:しごく単純で、前PTA会長に「やってよ」と口説かれたからです。声をかけられたら、もう少し子どもとの関わりを持ってみようと思い、せっかくだからやってみようか、とお引き受けしました。何も知らない周囲からすると、僕はたぶん彗星のごとくデビューした感じで「え、あの人やるんだ」みたいな印象だと思います(笑)。長女が小学校の頃はPTA行事に参加したことなんてなかったですから。

制度や仕組みを整えて、結果的に保護者の負担をスリム化する

PTA主催のキャンプの様子

編集部:岡田会長のいらっしゃる学校ではPTA活動のスリム化も行っている最中だと伺っています。

岡田:うちのPTAでは数年前からスリム化を進めています。今年度から、いわゆるポイント制度(6年間で3回役員・委員活動をすることを義務づける)を廃止して、その代わりに行事などのスタッフが足りないときにはボランティアを募る制度を取り入れました。多かった専門部を合併したり、仕事の負担を減らすようにもしています。今年は移行期で試行錯誤しながらやっている所です。僕はスタート当初に関わっていないのでわからない部分もあるけれど、問題点というか、うまく機能していない所も目につきます。こうしたことを整理して秩序立てていくのは仕事のひとつかなと感じています。

ポイント制度についても、僕個人としては公平感のある、決して悪い制度ではないとは思っています。でもポイント制度には「強制感」があるのも事実で、地域の親たちの間で、うちの学校はもう何年も「あそこはPTAがすごくて大変だ、委員を3回やらないとペナルティーがある」くらいに噂になってしまって。それを理由にうちの小学校への進学を敬遠した人もいるなんていう話も耳にしました。だから、この時期に思い切って制度を変えたことはアリだったと思います。

編集部:問題点があるとおっしゃいましたが、スリム化は難しいということでしょうか?

岡田:今のPTAって、お母さんたちの善意と情熱で成り立っている部分があるんだけど、善意って難しい解釈ですよね。子どものために、という言葉は断れない無言の強制感がありますし。だから一部の人に負担が集中したり、働くお母さんが「少しだけならお手伝いできるんだけど」と思っても、あんな風にはできないという面はあります。

ただ、スリム化って、なんでもかんでもやめるのが良いわけではないんじゃないかな、と。行事を減らせば負担も減るからそれでよい、という結論を僕は持っていません。

むしろ行事やイベントを行ったときの達成感を共有することで、親同士の繋がりが出来る部分は大切じゃないかなとも思っています。親子で行うイベントって我々が思っている以上に大事なはずで、楽しそう、楽しいね、という事になればボランティアという言葉を使わなくても参加したくなる。PTA活動の負担と見返りはイコールにはならないでしょうが、だけどそこに楽しみとか喜びがあれば納得できるんじゃないかな、と思うんです。だから、僕はイベントや行事を減らすことがスリム化ではなくて、制度や仕組みを整えて結果的に保護者の負担を軽減することがスリム化なのでは、と考えています。

例えば、うちの学校は小学校4年時にPTA主催の1泊2日のキャンプがあります。PTAの先輩たちが誇りにしてきた伝統の行事です。ところが、最近は負担の重さを理由にキャンプの担当委員になる人が減ってしまい、毎年開催が危ぶまれているのが実情です。でも子どもも親も、実際に参加した人にとっては、忘れがたい楽しい思い出になっています。

だから、現在、この行事についても、どうやったら親の負担が減るのか、行く場所や日程を変えたらどうなのか、責任の所在は、アウトソーシングできることはあるのか、すべて見直している最中です。これまでの経験者にヒアリングしたり、アンケート調査をしたりね。そういうところで感じるのは、ビジネスマンのパパ役員さんの活躍ぶりです。アンケートの作成やインタビューなど、ビジネスマンは仕事上で様々なスキルを身につけていて、これは働くお母さんもそうだけど、仕事上得たスキルって、PTAでももちろん役に立つはずなんです。

編集部:でも、パートくらいならいいけど、フルタイムで働くお母さんにはPTAは無理よ、みたいな雰囲気がありますが・・・

岡田:時間の拘束や会合日程等の現実的な問題を解決していけばいいのだと思います。でも、何より、フルタイムだから参加できないというより、単純にPTA「なんかやばそう」みたいな印象のせいで関わりを持ちたくないってことが大きくないですか? PTAって勝手に一部の人が盛り上がってやってるみたいなイメージで。実際、僕や妻も全く同じ思いでした。

編集部:そうですね、小学校に初めて入って、例えばイベントなんかに参加しようとすると、わからない事だらけでした。暗黙のルールみたいのがあって、PTAもそうですが、本当によくわからない。だから敬遠するというか。

岡田:インフォーマルなルール、暗黙のルールみたいのも可視化させるべきなんでしょうね。僕は会長になって何をやるのかわからないと思って、仕事柄もあるんですが「規約を読めばわかるだろう」と単純にそう思った。ところが規約がまず出てこない「そんなのあったっけ?」と言われて(笑)

明文化されておらず、誰かの頭の中に伝承みたいに引き継がれたやり方があって、それを踏襲するのが当たり前になっている不思議さに戸惑いました。

それにPTA本部は閉鎖的な印象があり、それが「私たちには関係ないこと」と関心を薄れさせます。あるいは逆に「そんなこと必要なの?」と見えていないから疑心暗鬼も生まれる。どんなことを実際に行っているのかハッキリ見えれば、やってもいいかもね、くらいには思ってもらえるかもしれませんから。

仕事がら仕組みとか制度を整えることは得意です、だから規約や会議の方法、人選の方法にしても、曖昧だったり慣例的なだけで決めていたことを、もっと明確にしていきたいというのはありますね。

今、どうしても二極化しちゃってるんです、熱心にPTAをやる人とそうでない人と。だからこそ「ある一部の人だけが集まって盛り上がってるよね」みたいに思われないような工夫はしたいとずっと思ってます。

で、とりあえず今年、学校ではなくPTAとして「こんな行事やったよ」とFacebookで宣伝活動中です(笑)

誰からも嫌われないPTAでありたい

編集部:では、弁護士という職業を通じて見えてきた学校やPTAの姿ってありますか?

岡田:弁護士として思うのは、学校ってすごく聖域化しているんですね、法律が入っていきづらい場所なんです。でも、子どもの権利を守るという点でも、先生方の損害賠償リスクや、ブラックといわれる労働環境への対策も含めて、もっと弁護士を活用できればいいのに、と実際に学校と深く関わるようになって実感しています。

実際、スクールロイヤーといって学校に弁護士が派遣されているところもありますが、まだまだ活用されてるとは言い難いです。この辺りも自分が関わってみて、これからの課題というか、少し踏み込んでみたい、勉強したいと思うようになりました。

編集部:最後に岡田さんが目指しているPTAについてお聞かせ下さい。

岡田:消極的に聞こえるかもしれませんが、誰からも嫌われないPTAですね。PTA会長としては、単純にみんなにイヤがられないPTAでありたいと思っています。PTAというだけで拒否感を覚える人も大勢いるはずで、僕自身もそうだった。でも、PTAの活動には保護者の理解と協力が不可欠である以上、PTAってやっぱり必要なんだね!と褒められなくていいので、最低限「なんなの、あいつら?」と言われない、嫌われない・嫌がられないPTAというのが基本かなと思っています。

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ざっくばらんな人柄で「いや、僕何もやってないんだよね」が口癖の岡田さんですが、よく話を聞いてみるとバランス感覚とフラットな姿勢が見えてきます。PTAはどこでも様々な問題を抱えていますが、ひとつずつクリアーにしていこうとする前向きな姿勢に好感を持ちました。

目指すのは嫌われないPTA。簡単そうで実はもっとも難しい課題なのかもしれません。

【岡田 卓巳さんプロフィール】

昭和44年東京生まれ。早稲田大学法学部卒業。システム開発会社勤務などを経て、平成17年10月弁護士登録。平成23年1月より志賀・飯田・岡田法律事務所パートナー。

著書に「賃貸住居の法律Q&A」(編著・住宅新法社)、「Q&Aでわかる民事執行の実務」(編著・日本法令)、「事例でわかる中小企業のための会社法Q&A」(共著・三修社)、「一番安心できる遺言書の書き方・遺し方・相続の仕方」(編著・日本実業出版社)など。

長女は中学2年、二女は小学3年生。泡盛とシングルモルトが大好き。

ワーママを、楽しく。LAXIC

文・インタビュー:インタビュー(宮﨑晴美)・文(大橋礼)

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