世界の問題を子どもたちが解決する 「ワールドピースゲーム」を知っていますか?【前編】

リアルすぎる世界の課題=クライシスレポートが23件も

8月上旬、ある世界的に有名な教育プログラムが都内中学校で開催されました。その名もワールドピースゲーム(以下WPG)。主に小学生高学年〜中学生を対象とし、世界における様々な問題を子どもたちが話し合って、参加者全員で解決することを目指すシミュレーションゲームです。

1978年、バージニア州で教員をしていたジョン・ハンター氏が考案し、アメリカを中心にヨーロッパ各国、ニュージーランド、オーストラリアなど世界各地で実施されています。ドキュメンタリー映画にもなり、考案者がTEDスピーカーとして登壇したことで世界中が知ることとなり賞賛の嵐。そのハンター先生が、日本でワールドピースゲームを実施普及している「ワールドピースゲーム・プロジェクト」による招聘でこの夏来日し、自らがそのプログラムのファシリテーターとして日本でWPGを実施しました。

今、世界基準で求められている教育プログラムってどんな内容なのでしょう?

小〜中学生が世界の問題を解決できるのでしょうか?

百聞は一見に如かず。実際に行われている現場を見学させていただきました。

40年前、ひとつのボードゲームから始まり今は4層のタワーに

飯田りえ

1978年、ハンター先生が開発した当初は、アフリカに関する学習用ボードゲームだったそうです。そこから、1.2m×1.5mほどのベニヤ板に世界のあらゆる問題を詰め込んで、生徒たちに解決させるスタイルが生まれたのです「ボードゲームが好きな子どもたちなら夢中になって取り組むだろう」とハンター先生がひらめいたこのボードは、現在1.2m四方の4層のタワー状にまで発展しました。海、陸、大気圏、宇宙空間という、地球全体をボードに落とし込んで各国の情勢を可視化しているのです。このタワーがWPGでは重要な存在となっています。

「国連総長」「世界銀行頭取」「首相」はたまた「神」......?

飯田りえ

そのタワーを取り囲むように子どもたちは座ります。そして参加者たちは仮想4カ国と国際機関である国連や世界銀行、さらには武器商人や運命の"神"の役割をそれぞれ担うことになります。ファシリテーターにはそれぞれの代表者のみ指名され、その代表者が自分たちの組織のメンバーを指名します。

もちろん各国の役割は首相だけではなく、国務長官(二番目の指揮権を持つ)、防衛大臣(守備攻撃に対する戦略を立てる)、財務大臣(国家予算の管理責任)とそれぞれ役割が違ってきます。国際機関も同じです。それぞれの立場で物事を分析し、瞬時に判断し意見しなくてはなりません

まさに今、世界が抱える複雑な問題を、参加者たちがそれぞれ国の代表や国際機関のリーダーとなりチームごとに対話して交渉して、平和的に解決する方法を模索するゲームなのです。

リアルすぎる世界の課題=クライシスレポートが23件も

飯田りえ

しかもその世界が抱える課題(=クライシスレポート)がリアルすぎて驚きました。環境問題から放射性物質、国境紛争に宗教問題、水源の利権争いに民族間のあつれき、サイバー攻撃からドローン攻撃に到るまで...... なんと23件もの大きなクライシスを全て解決しなくてはならないのです! しかも交渉の間には経済的な株価や天候なども、不測の事態も影響してきます。本当に、今、私たちがおかれている状況と変わらないのです。

答えは決して一つではありませんし、交渉の仕方も様々。国家予算も考えなくてはなりませんし、お金がなければ世界銀行でお金を借りたりする場合もあります。実際の世界でも起こりうる問題なのです。

子どもたちだけで全ての課題解決&資産UP=ゴール!

飯田りえ

各回25〜35人ぐらいで行い、15〜20時間かけてじっくりと時間を費やして行います。ファシリテーターのハンター先生は進行役に留まり、指示は一切出しません。子どもたちは先入観なく大胆に、複雑で正解のない問いに子どもたちだけで向き合うのです。5日間かけて全ての課題の解決と、それぞれの国の資産UPを目指すのです。これができて初めてゴール=勝利宣言となります。

ここまでざっとルールや進め方について説明しました。大人にとっても無理難題に思える課題ですが、今まで40年間実施してきて一度もゴールできなかったことはないとのこと!! 驚きの実績です。

さて、日本の教育スタイルに慣れている子どもたちはどのように課題を捉え、答えのない問いにどれだけ向き合えるのでしょうか?

初日〜二日目は、ゲームへの下準備とクライシスの解説

今回のアジア開催ではWPGを行うだけでなく、新しいファシリテーター育成の目的もあったので、ハンター先生自らがファシリテーター役を担いました。よってオールイングリッシュ(!)での開催となりましたが、英語力に自信のある中学生26名(男子10名、女子16名)が夏休みの間、5日間集中して参加しました。

初日は世界の状況の説明やチーム作り、国名を決めシンボルを決定します。二日目はクライシスレポートを読み上げ、自分たちと関係のある課題をチェック。前半はファシリテーターの説明が中心となります。しかし、クライシスレポートの難しさといったら......! 日本語でも難しい内容で課題は山積(今回は英語での開催ですが、通常の日本開催は日本語ですのでご安心を)。大人でも気が遠くなりそうですが、ファシリテーターがクライシスについて解説し進めます。

三日目からは宣言 交渉の連続、そして"神"の存在

飯田りえ

三日目(このタイミングで見学させて頂きました!)から各国の宣言と交渉がスタート。カ国、それぞれの国が自分の国に関係するクライシスに対して宣言 交渉を繰り返しながら、ひとつひとつ課題を解決していきます。各国の首相が、ある課題に対する宣言をし、そこに関係してくる国際機関や国が交渉に応じます。その後"神"という存在がランダムカードを選ばせ、気候と経済を左右するルーレットを回します。自分たちの思いだけではどうにもならない、大きな影響を与えることとなります。ランダムカードの内容は例えば「新発明で生産性向上、国庫に30億ドルの税収が入る」「株価が急落、失業者が殺到」など、良い事態も悪い事態も降りかかってくるのです。交渉を進めながらも、このランダムカードによってさらに一喜一憂するシーンが幾度となく見られました。こういったゲーム性に、子どもたちものめり込めるのですね!

この日のハイライトは何と言っても、ある国が防衛目的で核兵器の配備を宣言したこと。その必要性を巡り関係各国や国際組織議論が白熱し、抑止力や環境への影響を考えて最終的には中止されました。こうした立場が違うもの同士、白熱した議論が行われるのも良い経験ですし、多角的な視点から世界をみるきっかけになるでしょう。

自分たちの国のことだけを考えていると勝利できない

正直、頭を抱えて投げ出したくなりますが、子どもたちはすごく楽しそうに熱中している様子でした。ある国の首相が宣言した後も、すぐに関係する国や各機関の代表が反応して、返答していきます。最初は手探りで進め、失敗を重ねながらも、実戦で会得していく様はまさにゲームそのもの

しかし自分たちの国のことだけを考えていては勝利できません。全ての問題解決と各国の資金UPを目指すには"世界全体を見る目"が必要となります。自分の国だけが助かればいい、儲ければいい、では終われない。そこがこのゲームの難しさでもあり醍醐味なのです。

祝・勝利宣言! 一番大変だったことは?

飯田りえ

今回も五日目には制限時間を1時間も残して無事、勝利(ゴール)へ辿り着くことができていました。最後に世界平和のために最も貢献した人を選出する「ワールドピースアウォード」の表彰もあり、子どもたち同士で投票し合うのだそう。最後までピースフルで心温まりますね。

勝利宣言の後「一番大変だったことは?」という質問に

  • 関係する国の立場を理解して交渉すること

  • 全ての課題を一度に解決しないといけなかったこと、制限時間までに優先順位をつけて解決していくのが大変だった

  • 最初はお金があると思っていたけど、いろいろなことにお金を使っていくと、いつのまにか何もできないほどお金がなくなって立て直しが大変だった

見ている側にとっては想像以上に難しそうなプログラムでしたが、果敢に向き合っている子どもたちの姿がとても頼もしく思えました。

このWPGを経験した子どもたちは「ニュースを見ていても視点が変わった」と言います。そして問題解決の難しさを知りつつも楽しさ・大切さも知っているので、より自分事として捉えられるでしょう。これから日本でも多くの子どもたちにこのプログラムに参加してほしいと思いました。そして世界の課題を解決してくれる国際的リーダーが登場することを切に願います。次回は、ジョン・ハンター氏の記念講演の様子をお伝えします。

ワーママを、楽しく。LAXIC

取材・文:飯田りえ

■合わせて読みたい記事

----------------------------------

ワーママを、楽しく。LAXIC

----------------------------------

LAXICは、「ワーママを、楽しく」をキャッチフレーズに子育ても仕事も自分らしく楽しみたいワーママやワーパパ、彼らを取り巻く人々のための情報を集めたWEBメディアです