世界的プログラム「ワールドピースゲーム」開発者が語る 子どもの教育にとって最も大切なこと【後編】

一番の良さは学生が自分たちでゲームを作り上げていくこと。

いま世界的に注目されている教育プログラム、ワールドピースゲーム・プロジェクト(以下、WPG)。前回記事でもご紹介しましたが、WPGとは小中学生を対象とした、世界の課題を子どもたちが解決するシミュレーションゲーム。

初のアジア開催を記念して、開発者のジョン・ハンター氏の来日記念講演が行われました。今回の来日は、WPGのファシリテーター育成も大きな目的の一つだったため、教育者に向けたお話も多く聞くことができました。

また、日本でWPGに参加した子どもたちも講演に参加していたので、ハンター先生と子どもたちのトークもとても興味深いものでした。今回は、そんな講演の様子を少しご紹介いたします。

誰に教わるわけでもなく、自分たちで答えを見つけていく

飯田りえ

今回の来日は4回目となったハンター先生。講演当日の朝、偶然にもその日が広島に原爆投下された日だということに気がつき、「今日ここへは特別な思いで登壇しています。平和への思いがより強くなりました。多くの学生たちがWPGに参加することで、二度と同じようなことが起こらないようにしたい」と冒頭から平和への思いを語られていました。

WPGは40年前、アメリカのバージニア州で始まりました。当初、教師として何をしたら一番子どもたちのためにいいか、日々模索していたそうです。その当時、子どもたちが夢中になっていたのがボードゲームで、そこに全てを詰め込んでみようと思いついたと言います。

一番の良さは学生が自分たちでゲームを作り上げていくこと。上下関係もなくフラットな状態で自分の考えを投影し、自分たちですべて問題解決できるのがポイントです」。

今でこそ教師と生徒のインタラクティブな教育手法はありますが、何せ40年前。まだそんな言葉すらない時代です。

学生任せにして良いのか? と上司からの苦言もあったそうですが、それに対してハンター先生は「私の生徒たち30人は皆、21世紀型の素晴らしいスーパーブレインを持っています。たった一つの私の古い脳みそが、新しい脳の生徒たちに何を教えろと言うのでしょう!(笑)」と反論。

ハンター先生は「自分は特別なことはしていない」としきりにおっしゃり、とにかく生徒にとって何が一番良いかどうかを突き詰めていたようです。

自分を見つめ直し、自分で答えを探すための「エンプティスペース」が大事

飯田りえ

その後、2011年にWPGについてのドキュメンタリー映画が公開されたことがきっかけで、反響が一気に広がりました。その後、ハンター先生はTEDスピーカーとして登壇。

それが2014年秋にNHKスーパープレゼンテーションで放送され、視聴して感銘を受けた谷口真里佳さんと望月理奈さんがすぐに渡米し、日本人初の認定ファシリテーターとなりました。今回のアジア開催も彼女たちの提案したクラウドファンディングによって実現したのです。ハンター先生は言います。

「WPGでは先生たち(ファシリテーター)は後ろにいるだけで、生徒たちが自主的に前にでて、自分たちで答えを見つけていく。私はそれを『エンプティスペース』*と呼んでいますが、ここに意味があると思っています」*(まだ見えていないもののために空けておく場所のこと。ここが創造性を育んでいく)

また、SNSに支配されている今の子どもたちをとても危惧されていました。「いつも追いかけられて、自分を見つめ直す時間がほとんどない。今の若い人たちにとって、こんな複雑な世の中になってしまったことを同情します」。確かに、今の子どもたちは常に忙しく、日常の中でも自分を見つめ直すような "エンプティスペース" がなくなってきてしまっていますよね。

ファシリテーターとして大切にしている4つのこと

今回の講演は、認定ファシリテーターを目指す方々が多く来場していたため、その方々に向けてご自身が大切にしているポイントを4つ挙げられていたのでご紹介します。

① 内省すること

教員としてまず生徒の前に立つ前に、ハンター先生が必ずすることがあるそうです。「まずは自分の弱点などを含めて、自分自身を見つめ直しています。もし弱点が見つかれば、それは雑草を抜くように取り除いてから教室へと行きます」

時に無意識のうちに、偏見等の表面的なものを持って教室へ挑んでしまうと生徒たちに影響してしまうので、必ず自分の頭をクリアにしてから授業に臨んでいるそうです。

② 知恵を持って相手と関係を持つこと

WPGでは、生徒たちが頭を突き合わせて考え、一つの答えを見つけることが醍醐味。先生はこのことについて、「一人の生徒だけでなくお互いを助け合って考えると、さらに考えを深めることができるのです」と語っていました。

③ 情熱を持つこと

生徒たちの興味にそったカリキュラムを作れば、生徒たちは必ず勉強が好きになる。かつての上司にそう助言されたそうです。そして、こんな体験談を話してくださいました。

「以前、スケボー好きの少年がいました。成績も悪く宿題なんてしたことがなかった子ですが、一緒にスケボーのパークを作ろうと提案すると『ランプはどうやって作る?』『数学のジオメトリックを使ったらどうなる?』と早く学びたくてたまらない! という様子になりました。そこから数学を勉強するようになり、一番の成績になりました」

④ 共有しながら協力し、進めること

WPGは参加者同士ですべてを共有し、助け合うことで前に進めるゲームです。またそれは、次に繋げていく強いパワーを持っていると言います。

ハンター先生が40年前に教えた生徒に再会したとき、その生徒が「共有しながら協力し、進めること」を最も大切にしていると言い、彼の娘たちにも同じ教えを受け継いでいるそうです。

そのとき、ハンター先生は「僕は目の前にいる生徒だけを教えているだけではない、その次のジェネレーションにバトンが繋がるっていることに気がついた」といいます。

加えてもうひとつ、ハンター先生らしいエピソードをお話してくださいました。スクールバスの係をしていた頃、生徒のためにドアを開ける役割を担っていたハンター先生は、ドアを開ける度に「ここに大きな可能性が!」と毎回言い続けたそうです。だんだんやっていうるうちに、本人も本当にそう思うようになったといいます。

どの子にどんな可能性があるかどうかはわかりませんが、どの子どもたちも可能性に満ちているのですですから私は一人でも諦めたくない、生徒たち全員。生徒を見放すということは絶対にできないの、というのが僕の教育理念です」

参加者が語る「WPGに参加してよかったこと」

飯田りえ

講演には、かつてWPGに参加したことのある小〜中学生の子どもたちも来場していました。WGPを体験後、どんな風に考えるようになったか、どんなことができるようになったかを話してくれました。

  • 革新的なものだと思って参加しました。人と意見を交わす時に、どこまで自分の意見を突き通すかだけでなく、相手の意見と折り合いをつけ、どういいものができるかを考えるようになりました。(WPG参加時の役割:武器商人)
  • 今まではテキストに書いてあることをこなすことしかできなかったけど、これを体験してからは、何をすべきか? まで考えを広げることができるようになりました(WPG参加時の役割:世界銀行総裁)
  • 僕は世界を見る目が変わりました。ニュースを見ても「こんなことが起こったんだ」としか思わなかったけど、今、世界に何が起こっていてどんな影響があるのか、まで考えられるようになりました(WPG参加時の役割:国連事務総長)
  • これまでは自分の意見を納得いくまで突き通すタイプでした。課題がたくさんあって、様々な視点から見なければならいので、相手の意見を取り入れることの大切さを知りました。みんなが納得する形でより良い方法を考えられるようになりました。(WPG参加時の役割:財務大臣)

どの子も自分の言葉で語る姿が自身たっぷりで、将来、とても頼もしく思えました。

子どもたちから先生へ質問 〜僕たちが今考えるべきことは?

飯田りえ

続いて、子どもたちから先生への質問タイムが設けられました。とても興味深い応答だったので、ご紹介します。

Q:原爆が落ちて72年目ですが、世界平和のためにこれからの僕たち子ども達が考えるべきことは

A:まず、そんな質問をさせるような世の中にしてしまったことを申し訳なく思います。大人としてアドバイスを与えることはできると思いますが、自分たち自身で平和へのツールを見つけてほしい新しい精神で模索するのが一番だと思います。あなた自身が私たちの希望です。

Q:今世界で最初に救わなければならない危機はなんですか?

A:もう私は63歳です。みなさんがそういう問題と付き合っていかなければならないと思っています。ですから自分たちで考えなければならない。未来の自分たちの問題としてリードして考えていってほしい。

Q:子どもたちがWPGをクリアできると思う自信はどこからくるのですか?

A:正直に答えますね。私は覚悟を決めないといけないと毎回思っています。もしかしたら達成しないかもしれない、と。しかし40年間、1100回のWPGを実施してきましたが、一度も失敗したことがないのです! 大切なのは生徒たちを100%信じること。あなたたちが私を助けてくれているのですよ

Q:外国で医師になりたいのだけど、どこの国がいいと思いますか?

A:一番大切なのは自分を見つめること。自分の心に問いかけること。私が具体的な話をしたところで、あなたにとっては間違っているかもしれない。まずは自分の中に浮かび上がっていることを注意深く見なさいその中で何が正しい答えかどうかは自ずと見えるはずですよ。

先生から子どもたちへ質問 〜WPGを通じて克服できたことは?

最後は、先生から子どもたちへ質問で締めくくられました。先生からの問いに、子どもたちは何と答えたのでしょうか?

Q:WPG通じてどんなものを克服したか。いちばん克服できたものは?

A:(WPG参加時の役割は武器商人だったが)自分が望んだ役割ではなかったので、最初何をやればいいかわからなかった。でもそこに捉えられるのもよくないと思って、広い視野でチャレンジできるようになりました。

Q:プレイヤーとしてファシリテーターを目指す先生たちにアドバイスがあれば教えてください。

A:単純なことだと思うのですけど、私たちが問題を解決しないといけないので、すぐわかるような答えはいらないできるだけ遠回しな言い方を、ヒントだけどすぐに答えられるヒントではなく、ちゃんと自分たちで考えさせられるようなアドバイスがほしいです。

ハンター先生はとても朗らかで親しみやすい存在で、子どもたちへの愛に満ちた方でした。そして、何事も自分の意見や答えを述べるのではなく、子どもたち自身で考えさせるような思慮深い言葉を返していたのが印象的でした。

「私にはビジョンがあるわけでなく、教員として子ども達が好きなものをただやって来ているまでのことです。私自身がエンプティスペースで、世界中からみなさんが呼び寄せてくれるのですよ」とおっしゃるハンター先生。これからも日本はじめ、世界中でこの教育プログラムが広がることを願っています。

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2017年12月23日〜27日に開催のワールドピースゲームの募集が始まっています!

小学4年生から中学1年生が対象です。詳細・お申し込みは下記をご覧ください。

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取材・文:飯田りえ

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