―精神科医に聞く―金正男暗殺事件から見る金正恩の心理状態

精神科専門医の「ミン・ソンギル」延世大学名誉教授より金正恩の心理状態と今後の見込みおよび対応策についてお聞きした。

2月13日、マレーシアの国際空港で起きた「金正男暗殺事件」に北朝鮮が組織的に関与したとされている。事件直後に現場にいた北朝鮮工作員らが北朝鮮に逃走し、今回の事件を主導したと疑われる北朝鮮外交官ヒョン・グァンソンは駐マレーシア北朝鮮大使館に逃げ込んでおり、強弁を続けてマレーシア警察当局を非難した北朝鮮の大使カン・チョルは北朝鮮に追放された。

北朝鮮当局、つまり金正恩による「金正男暗殺事件」に対する国際社会の関心が高まっている中、精神科専門医の「ミン・ソンギル」延世大学名誉教授より金正恩の心理状態と今後の見込みおよび対応策についてお聞きした。

以下は、ミン教授とのインタビューをまとめたものである。

金正恩からは、劣等意識による不安をはじめ強迫症状・衝動性行動・自己愛など様々な性格障害の類型が見られる。

第一に、金正恩が感じる劣等感と不安感、強迫は今回の「金正男暗殺事件」にも表れている。

北朝鮮の2代目の独裁者金正日の長男でいわば「白頭血統」とされる金正男を殺害したことは、金正恩自身が統治者としての正統性に欠陥があることを自覚し、この故に自分の権威が揺らぐことはもちろん自分が除去されるかもしれないという恐怖が生じたからだろう。

これまで金正恩は側近と叔父の張成沢、異母兄の金正男など親類まで無慈悲に除去することで、内外に自分のパワーを誇示し恐怖雰囲気を作り上げてきたが、同時に自分の弱みや欠陥について劣等感と不安感も表してしまったのだ。今回の「金正男暗殺事件」は、金正恩が統治能力を証明し統治権力の確立を妨げる要素を取り除かなければならないという強迫観念に苛まれていることを示している。

第二に、金正恩の衝動的な性格について。

衝動性は統制能力の足りない小児期・青少年期の特徴である。公開演説で見られるどこか訥弁だが早口なしゃべり方、子供のような無邪気な笑顔や怒った顔、そして気まぐれな性質は、彼の小児期的衝動性、つまり感情を統制する能力の欠如を示唆する。

また、幼年時代の留学経験も金正恩の衝動性発達に影響したと見られる。金正恩はスイス留学時代に、英語が苦手で授業にもついていけず、もっぱらバスケットバールとコンピュータ・ゲームに没頭し、同級生から「ディム(dim:間抜けな)ジョンウン」と呼ばれ、仲間入りにしてもらえなかったそうだ。衝動性は「のけ者」によく現れる心理特性である。

幼年時代に友達付き合いがうまくいかずに冷やかしを受けた金正恩の場合、心の底から怒りが生じ、このような挫折感と怒りの感情はそのまま衝動的気質の発達につながったと言える。

第三に、金正恩は心理的に、まだ青少年期に固着していると見られる。

住民たちが食糧難に苦しんでいる現実をよそにして自分の子供時代に海外で楽しんでいただろう遊園地やスキー場を建設して満足気に笑う姿や自分の憧れのNBAスター選手を北朝鮮に招待して喜ぶ姿などは、世間知らずの坊っちゃんそのものである。青少年期への固着症状は、金正恩だけではなく他の金日成の子孫たちも共通して見せていることから、特殊な成長環境がその原因であると考えられる。

金正日はハリウッド映画を、金正男はディズニーランドを、金正恩の兄の金正哲は人気のポップアーティストのエリック・クラプトンを狂的に好きで、金正恩の妹の金与正も厳かな雰囲気の式場で自由に駆け回ったりする子供のような行動をよく見せる。このような青少年期固着は、同じ年頃の若者には親密感を与えるかもしれないが、分別のある大人の目には幼稚に見えるだけである。

第四に、金正恩には自己愛的な人格障害の特性も見られる。

これは、自分の存在感を誇示し、自分が成し遂げた業績について過大評価を求める気質として現れる。他人が自分のことをどれほど評価するかにこだわって持続的な関心と称賛を欲しがる。

「独裁者の息子」として生まれ育った金正恩の場合は、幼年時代から自然と強い自己愛が形成されてきた。このような自己愛的な気質は、年長者を尊重する東洋の文化を無視して高齢の幹部らに権威的に行動する金正恩の傲慢な態度から確認できる。また、祖父の金日成のしゃべり方やしぐさ、髪型、服装までまねをする行動からも、他人から認めてもらおうとする自己愛的な特性が読まれる。

最後に、金正恩のモノマニアック(偏執狂的)な性向は持続的に強くなっている。

モノマニアとは、一つの思考または物に執着し非常識な行動を平気に行う精神障害の一種である。モノマニアの人は、他人が自分を威嚇または無視すると疑い、自分が攻撃されうると感じれば直ちに反撃をしようとする特性を持つ。公式の会議で居眠りをした部下を「自分を無視した」と見なし、人民無力部副部長を高射砲とい残酷なやり方で処刑したことも、金正恩の偏執狂的な特性の現れだと考えられる。

テ・ヨンホ元駐英北朝鮮大使館公使は「金正恩が北朝鮮のエリートたちの脱北・亡命を阻止できなかった保衛省関係者を銃殺するほか、アメリカが自分を人権犯罪者扱いすると怒りながら拳銃を乱射したといううわさが広まっていた」と明らかにしたことがあるが、この例からも強い偏執狂的な性向が見られる。

このように、金正恩からは、強迫症状・偏執症・自己愛など深刻なレベルの性格障害症状が複合された形で観察される。

これからも金正恩は「不安定な統治権力を保つためには統治能力を証明しなければならない」というプレッシャーとともに「側近に裏切られるかもしれない」という不安・危機感で悩まされるだろう。それから国内外に向けて、さらに強力なもしくは新しいパターンの暴力を行使するものと見られる。つまり、内部的には住民たちに対する暴圧統治を強化し、対外的には様々な挑発を続けるだろう。

精神分析学の観点から結論を言えば、金正恩は「賞罰治療」が必要な存在である。したがって、国際社会は核・ミサイル挑発などの北朝鮮の挑発に断固として対応すると同時に、対話によって懸案の解決の糸口を引き出していく「飴と鞭」の原則を状況に合わせて賢明に駆使する必要がある。

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