北朝鮮政権の崩壊に向けて、市民が動き出す

脱北者である私が、北朝鮮の政権と人権実態を知らせ、有力人物に陳情を出し、反北朝鮮キャンペーンに参加する理由は、「北朝鮮政権の崩壊」を一日でも早めるためである。

韓国に定住している3万人の脱北者(第3国滞在を含めると約30万人)のうち一人である私が、北朝鮮の政権と人権実態を広く知らせ、色々な有力人物や機関に陳情を出し、反北朝鮮キャンペーンに参加する理由は、「北朝鮮政権の崩壊」を一日でも早めるためである。

そして、北朝鮮崩壊の実現に向けて、私が目指している具体的なゴールの一つは、金正恩を「人道に反する罪」で国際刑事裁判所(ICC)に立たせて国際法に則って彼を裁くことである。

金正恩のICC付託は、国連など国際社会の公式な場で議論されてきた。ところで、最近は世界の一般市民も参加し、北朝鮮に関する話題を投げかけて市民の声を一つにしようとする動きも見られる。うれしい限りである。

=====金正恩ICC付託求め、ネット請願キャンペーン(by UN Watch)

国連の活動を監視し世界の人権増大のために活動するヨーロッパのNGO「UN Watch」は、9月16日からインターネット請願サイトを活用して「金正恩をICCへ送ろう(Send North Korean leader Kim Jong-un to the ICC)」というタイトルで署名キャンペーンを繰り広げている。

金正恩を実際にICCへ付託することは、国連安全保障理事会の常任理事国(米・英・仏・露・中)のうち一国でも反対したら不可能だが、ICC付託を支持する市民の署名を世界から集めて安保理に提出する予定だそうだ。

国連も2014年と2015年と2年連続で、金正恩を人権犯罪者としてICCに付託することを安保理に勧告する決議案を国連総会で採択したし、今年も同様の決議案を採択する見通しである。

このような国連の活動は世界各国の代表の声を結集させる意味があるとしたら、UN Watchの請願キャンペーンは「一般市民の行動」を引き出すという点でこれまでの国連の対応と異なり、そこに意義があるといえよう。

つまり、北朝鮮問題は幾つかの国だけが集まって解決する、世界のみんなが考えるべき問題だというメッセージを示唆したのである。

=====北朝鮮向け情報流入拡大アイデア公募(by 米国務省)

UN Watchによる請願キャンペーン以外にも、世界の市民の行動を促すキャンペーンが最近目立つ。

米国務省も、世界中にある北朝鮮関連の民間団体などを対象に「北朝鮮への情報流入」を拡大するアイデアを公募すると発表し、優秀アイデアに対してアイデアの事業化に必要な資金を支援する計画を明らかにした。

脱北者に脱北を決心したきっかけを聞くと、多くの人が、アメリカや韓国が送出するテレビ・ラジオ放送をこっそり視聴したり、チャンマダン(北朝鮮内の闇市)または中国輸入商を通じて密かに流通されるCD・DVD・USBで韓国のニュースおよびドラマ・映画・音楽などのコンテンツに接したりして、北朝鮮政権の理不尽さに気づいたと答える。

北朝鮮住民が自ら体制の矛盾に気づくことがこれだけ大事であり、外部情報との接触が強力な影響を及ぼすことが分かる。米国務省が主催するアイデア公募は、このようなことを世界の市民に換気させるとともに、一般市民にクリエイティブで型破りなアイデアを聖域なく提案する機会を提供したという面で意味が大きい。

=====朝鮮総連解散アイデア公募(北朝鮮レボリューション)

この前、ツイッターのフォロワーさんより知ったが、日本の市民が主催するアイデア募集もある。「北朝鮮レボリューション」というキャンペーンである。

文字通り、北朝鮮を革命するためのアイデアをネットユーザーから集めているが、日本で行われたキャンペーンだけに、北朝鮮を追従する日本内集団である朝鮮総連の解体に焦点を合わせている。

大きく分けて次の3つのテーマでアイデアを出すことができる。

① 北朝鮮と北朝鮮の従属団体との関係を切るには(朝鮮総連の北朝鮮との関係の問題)

② 北朝鮮による洗脳教育をやめさせるには(朝鮮学校の北朝鮮式教育の問題)

③ 北朝鮮による日本人拉致問題を解決するには

決して簡単な問題ではないが、アイデアというのはちょっとした気づきや軽く投げた一言から発展する場合が多い。私も北朝鮮関係の活動をしてたくさんの人と会ってきたが、大抵の人は「北朝鮮問題」を「固くて難しくて深刻な問題」だと考える。正直、私もついついそう思ってしまう。

だが、簡単な署名集めからアイデア募集まで、様々なやり方で北朝鮮問題と市民との接点を提供し、心の扉を叩きつづければ、近いうちに平凡な市民も北朝鮮問題をもう少し身近に考えてくれないかという期待がある。

上記で紹介した請願キャンペーンやアイデア公募は、市民に何かものすごく偉い行動やたちどころに北朝鮮を崩壊させるプランを求めるわけではないと思う。

同じ人間として、常識の線で、平凡に考えた時にふと感じる疑問、切ない思い、そして思いついたアイデア一つ、二つ...そういったものを遠慮なく表現してくれるだけでも私のような活動家には大きな力になる。

現在北朝鮮は、8月のテ・ヨンホ駐英公使の亡命に続き、9月下旬にまた北京駐在の北朝鮮代表部幹部2人が亡命申請をするなど、身分の高下を問わず脱北ラッシュが続いている。

内側から崩れはじめている北朝鮮体制。そこに世界市民の声と行動という外圧までかかれば、北朝鮮政権の崩壊はそれほど遠くないだろう。

イ・エラン 韓国・自由統一文化院 院長、1997年脱北

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